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12品目:イーターマンの心得2「ただ食べる。それだけ」

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 (大したアイテムなんて拾ってないから、死んでもいいんだけど)


 デスペナによる装備破損を修復するお金は痛い。

 初戦はこんなものと割り切ろう。次に同じ失敗をしなければいいんだし。

 死んで覚える。悔やむよりも次の手を考えないと、ね。


「あーーもう! でもやっぱ死ぬのはいい気がしないっ!!」


 私は死を覚悟してぎゅっと目をつぶる。その時、私の帽子で眠っていたブローチがきらりと光る。


「ふしゃああああああああああーーーーーーーーー!!!」

「ええ!?」

「「「「「きゅうう!?」」」」」


 私のピンチを察したのか、素魚のブローチが生きてるようにうねりあげる。

 私も生き物も驚きの悲鳴を上げた。

 元の大きさから倍の大きさになった素魚のブローチは、口から大量の墨を吐き出す。

 まるで竜の吐くブレスだ。広範囲に向かって墨が吐き出される。

 これは、もしかして。

 ――装備固有スキル「墨煙幕」。

 濃厚かつ粘り気のある墨がドン栗を絡め捕り、さらに謎の生き物達の方にも降りかかった。


「きゅうううーー……」

「きゅ? きゅ?」

「きゅきゅきゅーー!!」


 ドン栗は私に到達する前に、墨の重みで全て下へと落ちた。謎の生き物達も万遍なく墨塗れ。ほとんどのものが盲目状態となり、

行動不能になっている。

 このチャンスを逃すわけにはいかない!


「謎の生き物の墨フォンデュってわけね。それじゃあ識別も兼ねて、『たべる』!」


 墨塗れになっているため、たとえ木に隠れても丸わかりだ。

 手近な木に登り、墨の塊となった謎の生き物をペティナイフで攻撃して弱らせてから、次々と口の中に放りこむ。


「ぎゅうううううう!!!!!」


 最後の抵抗とばかりに鳴く生き物。けど遅い、むんずと掴んで口に放り込む。悪あがきにとっしんしてくる奴もいたが、

視界が奪われよたよたしている。避けるのは簡単だった。

 口に先客がいたため、しかたなくペティナイフで切り付け倒す。

 もごもご、ごくり。香草で味付けした肉みたいな味がした。生だけど。

 かろうじて難を逃れたものは、危機を察知して逃走する。赤いマーカーがみるみる減っていった。


『>おんちゃんだおん!

 「謎の生き物」を識別したおん。「謎の生き物」は「スローイングラット」だおん♪』


 ネズミ? 木の上にいるからてっきりリスかと思った。

ネズミね、まぁ残さず食べるけど。


「秋のネズミフォンデュ祭りスタートーーー!!」


 墨塗れのスローイングラットむんずと掴んで咀嚼、口の中にまだ残っていたら、ペティナイフで倒す。

 私はひたすらそれを繰り返した。遠くに逃げたネズミは追わない。

 追ってる時間が惜しいから。

 手の届く範囲にいるネズミに狙いを定め、狩っていく。

 10分後、赤いマーカーは1つを残して全て消失した。


「きゅ……きゅきゅー!!」

「貴方もしかして、一番最初にドン栗投げたやつ?」


 目の前にいるのは墨を逃れたスローイングラットが1匹、悪運の強いネズミだ。

 私がひょいっとスローイングラットを拾いあげる。


「きゅきゅきゅ! きゅーきゅー」


 怯えてじたばたと暴れるスローイングラット。しかし、恐慌と混乱の状態異常が掛かっている。仲間の死に動揺したんだろう。この状態では逃げるに逃げれない。


「白い毛に赤い目ってハツカネズミみたい。それにしては野球ボールみたいに丸いね」

「ぎゅううううう」


 物を投げて攻撃してくるからスローイングラットって言うんだろうけど、

こいつ自身が投げたくなるような形状をしている。

 こう、ぽーんと勢いよく飛んでくれそうだよね。ボールネズミに改名したらどうかな?

 ネズミは助けてくれというように、きゅいきゅい泣きわめく。


「助けたら、さっきみたいに仲間を引き連れてくるんでしょ?」

「きゅい! きゅい!」


 そんなことしない! と言っているような気がする。でもコイツがトレインしたせいで、

こっちは死にかけたんだよ? そんな甘えが許されると思ってるの?


「せーのっ!」

「きゅうう!?」


 私は真上に向かって高く高くスローイングラットを放り投げた。


「ウオっちっち。墨煙幕!」

「ふしゃーーーー!!」


 私は素魚のブローチ(ウオっちっち)に命令して、墨を吐き出させる。

 墨は上空に吐き出され、スローイングラットを追尾し全身にまとわりつく。


「きゅううううううううう」


 よっし、命中! それでは「スローイングラットの墨フォンデュ」を、


「いただきまーす♪」


***


『>おんちゃんだおん!

 >個人実績:「ねずみ駆除人」を解除したおん。

 >レベルアップしたおん。Lv5→Lv8

 >スキルがレベルアップしたおん。★食べるLv2→Lv5

 >★食べるLv5に付属スキル「エンラージ」が追加されたおん』


 「ごくん。おお! 何かすごそうなの覚えたー」


 最後のスローイングラットを飲み込むと、私はふぅと一息ついた。


「それにしても良くやったよね。私」


 うんうんと頷きながら、さきほどの激戦を振り返る。

 30匹のスローイングラットと対峙し10匹は逃亡。12匹を腹に収め、

残りはナイフの錆びにしてやった。

 初戦闘(素魚戦は私の中ではノーカンである)は文句なしの大勝利。

 ふっふっふ、律子に自慢出来るぞ。


「初見殺しだよ。あのネズミ……」


 1匹の体力はとても低かった。たぶん私より無いと思う。が、問題はあの大量トレインか。

 あれをやられると、普通のプレイヤーでも厄介な代物に違いない。

 対処としては、広範囲の魔法なんかで周囲のスローイングラットをまとめて消すか、呼ばれる前に遠くに逃げるかかな。


「エンラージ、エンラージ……ほほう。これかー」


 スキル一覧を開き、今さっき覚えたばかりのスキルを確認する。

 どうやら、スキルの効果を範囲化するものらしい。これで、今までよりもっとたくさんの獲物を食べられる。

 しばらくそのままステータスの欄をぼうっと眺めながら、

私はスキルのレベルアップや付属スキルの付き方について思案する。

 どうも闇雲に使っていれば上がるというものではないらしい。

 というのも、


「あんなに食べたんだから、1つくらいレベルがあがってもいいよね」


 無限の胃袋に何も変化が無かったからである。

 素魚1匹でレベルが上がったのに、スローイングラットを12匹食べても何も変化がないってどういうことだろう。

 素魚はシークレットボスなので、もしかしたら経験値が多めに設定されていて、それで上がったのかもしれないけど。

 

「でも、『食べて』『胃袋』に入れてるんだよね? 両方同時にスキルを使ってるはずだよなぁ。何で同時に上がんないんだろう」


 アクティブスキルとパッシブスキルでは条件が違う?

 パッシブスキルはキーになる行動を取らないと上がらないとか。

 胃袋の場合は特別なアイテムを食べないと上がらない……。

うん、それだったら説明がつく。

 シークレットボスだとか、ミスリルだとか意味わかんないものたくさん食べたからね。さてどれが要因になっているやら。


「まー、いいや! 私は食べる、それだけでしょ」


 焦る必要なんてない。自分のスペースで好き勝手やろう。

 スキルの傾向なんてそのうち見えてくる! ……たぶん。

 食べるについては、このまま食べ続けていけばいいし、無限の胃袋の方も、分かるまで何種類も食べればいい。

 私は考えるよりも食べて覚える派なんだ。


「無駄に時間取っちゃった。探索再開しよう。えっとメモメモ」


 情報の整理を終えて、道具袋からお父さんにもらった素材リストを引っ張り出した。私がクエストの内容を忘れてると思った?

 ふっふっふ。忘れてたさ……。

 初フィールドの興奮とネズミ襲撃のせいで、お父さんに頼まれていたことが頭からすぽーんと抜けていたんだよ!


「なになに、『湧水×3、キャロラインの根×1、イモワームの頭×3、小ネギカモ×1』?」


 ……これって、料理に使う材料だったよね?

 正直、水以外は聞いたこともない素材ばかりだった。しかも明らかに芋虫っぽい名前のものまで。

 これでどんな料理が作れるっていうの?


「あ、追伸が『リストに水を保管する瓶を添付しておいたよ。荷物になるから、他の食材がそろってから受け取るように』手紙にどうやって瓶をくっつけたのお父さん」


 意味が分からず、リストの湧水という文字を指で触ってみると、


『>おん! アイテムが添付されてるおん。受け取るおん?』

「『いいえ』」


 ……よ、よくわかりました。まったくデタラメな技術。

 流石はゲームだわ。

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