11品目:南瓜公園の洗礼
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ゲートを潜るとすぐに必要ないアイコンが消失。
マップもフィールド固有の物へと切り替わる。
構えの動作を取ると私の手に武器が具現化した。おおカッコいい。
それを確認して、動作を解除すると武器が消えた。
「戦闘区域に突入しましたってことか」
冷静に言ってるけど、内心は緊張しっぱなしだよ。心臓がばくばく煩い。
マップには敵を示す赤いマークはない。つまりこの辺りには敵はいないってこと。
大丈夫なんだから、しっかりしなさい私。
「落ち着いて、素数を数えよう。
2、3、5、7、……じゅ……じゅう…………13?」
あれ、何か抜けた気がするな。まぁいいか、緊張もほぐれたし。
周囲を観察すると、秋の紅葉よりももっと色鮮やかな葉をもつ木々が並んでいた。
幹は黒に近い不気味な紫色をしている。
見た目はぼろいので、脆いのかなーと思ったらこれが意外や意外。
木に近寄って、ぺしぺしと幹を叩いてみると重厚な音がした。
見た目に反してしっかりとした硬い木のようである。丈夫な木材がとれそうだ。
「ここの木を使えば、ハロウィン家具とか作れそう。需要もありそうだし、
家具職人は儲けるチャンスじゃない?」
私は家具作成のスキルを持ってないし、木を切り倒すスキルもないから関係ないけど。
もしフレンドが出来て家具職人がいたら、売りつけてぼろもうけ……うふふふ。
――ポコン。
「あいたっ!」
皮算用に浮かれていた私の頭に何かが当たる。
何やら頭上から物が降ってきて、それが私の頭に直撃したようだ。
いたた……HPが2減ってる。何なの?
「きゅっきゅっきゅ!」
「ん? 何かいる!?」
どうやら木の上に何かが潜んでいるようだ。
隠密スキルを持っているのかマップには乗っていなかった。
私が気づいたことで、ようやくマップに赤いマークが点滅する。
「きゅいっきゅいー!」
ぽこぽこぽこ。
「ちょ! この! 何するの!!」
謎の生き物は木の上から次々と私へ向かって、物を投げる。また1つ当たってしまい、連続で当たり続けるのは危険だと判断し、木から離れる。
どうだ、ここなら届くまい!
「きゅ!? きゅきゅきゅ……」
謎の生き物は私が安全な場所に避難したのを見て、抗議の声を上げる。
ざまーみろ。私はべーっと舌を出してやる。
「全くもう! 何を投げたの?」
足元を見ると無数の木の実が転がっていた。これを投げていたわけか。
「ふふん。見なさい! 謎の生き物! 貴方が投げたおかげで木から取る手間が省けたわ!」
「きゅー! きゅー!」
木の実を拾うと、謎の生き物の方に向かってそれを掲げ、挑発してやる。
謎の生き物は悔しそうにきーきーと鳴くが、私は無視して手元の木の実を観察した。
「これ、何の実だろ?」
形はどんぐりそのもの。けど一回り大きい。
あと微かに甘い香りがする……ほほう、美味しそうですなぁ。
どれどれ、1つ味見味見。
皮ごとがじりと歯を立てて、かぶりつくと咀嚼する。
皮の苦さに顔をしかめるが、すぐ中の実の甘さが口直しをしてくれた。
この甘い感じは。
「栗?」
もう1つ食べると、疑問から確信へと変わった。
「うん。栗だ。この味は絶対に栗」
私が断定すると、音ちゃんがピコンと鳴りメッセージが表示される。
『>おんちゃんだおん!
「謎の木の実」を識別したおん。「謎の木の実」は「ドン栗」だったおん♪』
メッセージを見た瞬間、私は脱力してその場にしゃがみこむ。
「ちょ、メッセージ……悪ノリし過ぎでしょ。面白いけど」
『>設定からデフォルトに戻せるおん。でも寂しいから戻してほしくないおーん……』
そんな悲しそうに言われると 躊躇うなぁ……。とりあえずこのままでいっか。
『>やったおん! あ「★食べるLv2」に付属スキル「識別(味覚)」が追加されたおん』
おー。識別系スキルかぁ。そっか、だから木の実の正体が分かったわけね。
どれどれ早速木の実の詳細を見てみようかな。
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食材「ドン栗(N+)」
どんぐりに良く似た形状をしているが、栗。
焼き栗にしてそのまま食べてもいいし、加工すれば様々なお菓子が作れる。
その昔、マフィアの首領が焼き栗が食いたいといい、
部下が持ってきたのがこの栗であった。
首領はどんぐりを持ってきた部下に「お前は栗とどんぐりの区別もつかないのか」と叱ったところ、部下は「これは間違いなく栗です」と主張。
首領は「もしこれが栗ならば、首領の座を譲ってやる」と吐き捨て、
それならばと部下はその場で焼いた物を首領に手渡した。
首領がそれを口にするとそれは紛れもなく「栗だ」。
約束通り、部下が首領の座に着くかと思いきや、
首領は「もしこれが栗ならば、首領の座は譲る。むろん、この栗にな」とニヤリと笑った。
譲るとは言ったが、誰に譲るかは明言していなかったのである。
以後、このどんぐりに良く似た形状の栗は「ドン(首領)栗」と呼ばれるようなる。
効果:HP1ポイント回復、満腹度上昇(小)
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詳細を見て後悔した。あまりネーミングセンスについて人のことを言えた義理ではないけど、これは酷いんじゃない?
「……このテキスト考えたの誰?」
全く、酷い名付けエピソードだわ。
口直しにもう何個かドン栗を口の中に入れる。これで体力は全快した。
「気を取り直して、覚悟しろ! 謎の生き物!!」
「きゅう!?」
まだ木に潜んでるのは分かってるんだから。
マップのマーカーでモロバレだよ。
やられたらやりかえす、私は地面に無数に転がっているドン栗を拾いあげ、
敵が潜む木に向かって放り投げる。さっきのお返しだ!
「ぎゅ! きゅきゅきゅきゅーーー!」
「きゅいーきゅいー」
「きゅきゅ? きゅきゅーーー!!」
木の葉ががざがさと騒がしく揺れる。
ドン栗が直撃した何匹かは下に落ちていった。
そして落下した衝撃で死亡し光のエフェクトと共に消えた。
やはり最初のフィールドなので敵は弱い。けど。
「数が多いのは問題だね」
どうやら仲間がやられたことが伝わったようで、あちこちの木々で「きゅいきゅい」と鳴く声が聞こえた。
かさかさと葉が掠れる音も次第に多くなってきた。「きゅいきゅい」という鳴き声も……。
「な、なんかマズイ状況になってる気が……」
私が一歩下がろうとすると、それを待っていたとばかりに威嚇音が放たれる。
「「「「「ぎゅううううう!!!!」」」」」
あれよあれよと仲間の悲報が伝播し、こちらが引き付けたわけではないのに、広範囲で勝手に敵がリンクしていく。
マップを確認すると赤いマーカーだらけになっていた。
私はぎょっとして目を見開く。こんなに隠れていたの!?
「ひ、ひきょうでしょ。貴方達。
初心者プレイヤーには優しくしろって教わらなかった?」
「きゅ?」
きゅ? じゃないよ。わかんないフリしたって騙されないぞ!
「「「「「「きゅっきゅーーーー!!」」」」」」
「……っ!! やばっ!」
謎の生き物たちは私に向かって一斉にドン栗を投げつけてきた。
無数のドン栗が宙を舞う。その数は10、いや20を超える。
1つ当たり2ダメージだからなどと考える必要もない。
この数が直撃すれば私のライフは0。
多方向から無差別投球だ、私には避けようがなかった。
――ああ、終わった……。