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9品目:爽やかお兄さんに注意、優しいお姉さんにも要注意!

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 律子曰く、最近のVRMMOはプレイヤーネームを表示しないのがデフォルトらしい。

 それにNPCが驚くほど高性能なのも特徴なんだとか。

 確かにお父さんとお母さんとの会話を思い返すと、スムーズに会話が成立していたっけ。

 正直NPCだってことを忘れて、普通に会話してたよ私。

 けれど、目の前の青年の話しぶりから推測するに……間違いなくプレイヤーだった。


(お母さんの話だと、この辺りのエリア推奨レベルは60~70だって言ってた。……そこを通って来たっていうの? 何者なの? この人)


 攻略組で真面目に攻略してきたか、別ルートで安全に来たか、

それとも正面突破してきたとんでもプレイヤーか……謎だらけだ、この人。


「…………」


 青年の青色の瞳が真剣にこちらを見ていた。


「……?」

 

 私が首を傾げるが、青年は考え事に集中してるのか眉を顰めている。

「そうか」とか「……のは……だ」とか小声が聞こえたが何のことやら。

 私は何やら不穏な雰囲気だったので、誤魔化すように口を開く。


「……あの、どうかしましたか?」

「ん? ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事を、ね?」


 ふーん。何でもいいけどさ。


「そうですか」


 この時、青年の目線は私の帽子に着いているブローチだったんだけど、その時の私は知らなかった。

 私は素直に青年の言葉を信じて「それならいいです」と答える。

 青年はにっこりとほほ笑むとぽんぽんと私の頭を撫でた。

 ふぎゃ! なななななっ! 何してるのこの人!?


「あはは。真っ赤な顔! 君があんまりに可愛いからつい撫でたくなったんだ。ごめんごめん悪気はないよ」

「かかか、可愛いって! 私のリアルがおっさんとかだったらどうするんですか?」

 

 ロリコン? ロリコンなのか!? この人! 律子と同類!?


「んー? ま、PCは可愛いからいいかなって思うな。でも君って、パーツはそこまで変えてないよね」


 な、なぜわかったし!!

 顔に出していたのか、青年はくすくすと笑っている。


「あれ、図星? あてずっぽうだったんだけどな」

「ううう……そうです、既存のパーツを使いまわして

色を変更するくらいしかしてません!」

「ははは。そんな君だったら、

性別を変更するってこともしなさそうなんだよね。違う?」


 何なんだよ。この誘導尋問はさ!

 いや、誘導される私も私なんだけど……。

 私は半ば、ヤケクソになって

「そうですよ! 種族補正以外に劇的変化はしてませんっ!!」と

叫ぶように答えてやる。ぜいぜい。ああ言ってやったとも!

 本当に何なのこの人。

 爽やか青年に見えて、実は真っ黒黒な混沌鍋だよ!


「なんか、リアルでも撫でまわされてるのか目に浮かぶなー。

なんでだろうね?」

「し、しらないです! 聞かないで下さいよ!!」

「ふふふ」


 ええい! 意味深な笑い方をするなーー!!


「さてと、時間を取っちゃってごめんね」


 あ、そもそもぶつかったのは私で、時間を取ってるのも私だ。

悪いことしちゃった……のか?


「こちらこそ、本当にごめんなさい」

「君って素直だなー」

「?」

「ううん。こっちの話さ」


 青年はすっと立ち上がると、にっこりと笑い、


「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。またどこかで会えるといいね?」


 ついでとばかりに、またしても頭をぽふぽふと撫でできた。

 こいつ絶対にわざと子供扱いしてる!

  私は腹黒混沌鍋な青年を睨み付けると、

 

「もう二度と会いたくないです!」


そう吐き捨てて、全速力でその場から離れた。


「あははは! またねー! くぅーねるちゃん!!」


 うるさーい! 2度目はないんだからね!

 後ろの声を無視して、私は目的地までずっと走っていった。

 完全に頭に血がのぼっていて、まわりも見ずにずっと走った。

 だから、どうしてあの青年が私の名前を知っているのか、

そんなことにも気づかなかった。


 ***


 途中ごたごたはあったけど、やっと南の商業区にたどり着く。

 何かすごく疲れた。結局、魚介うおっちがどういうものなのか見逃しちゃうし……。

 あーもう! 全部あのアホ毛のせいだー!

(ぶつかった私が悪いってツッコミは受け付けません)


「えーっと、武器と防具、スキルに回復アイテム……。

ぐるーっと見て回んないといけないな。

一か所にまとまってるデパート的な建物はないのかなぁ」


 じゃないと、今日中に南瓜公園に行けない。流石に一回はフィールドに出て戦闘したいんだけど。

 明日律子に「どう? ゲームの進捗状況は?」って聞かれたら返答に困るしなぁ……。今日は木曜日で明日は悲しいかな金曜日。

 学校だよ、そろそろ寝ないとまずい。


「今日が金曜だったら!! 徹夜でゲーム出来るのに!!」


 なんかゲーム廃人(律子)みたいなこと言ってる。

私は一般人一般人っと。

 とりあえず、その辺の人(NPC)を捕まえて、良い店がないか聞いてみよう。お、あそこのカフェのお姉さんとかいいかも。


「すいません」

「はーい! いらっしゃいませー。お1人様ですかー?」


 カフェの制服可愛い!! お姉さんだったら萌的な何かになるだろうけど、イーターマンだと微笑ましい意外の何者でもないわー。

律子が見たら(以下略)。


「お客様?」

「あっ、すみません。私は客ではなくて、少々お聞きしたいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」

「大丈夫ですよー」


 おお、優しいお姉さんだ。

 私はさっそくこの近くに品物を総合的に扱うお店――デパートはないか尋ねてみた。


「だったらその辺の自販機で購入されてはどうしょう?」

「ああそうですね、自販で適当に買えば……って、自販? 自販ってあの?」


 私がそう言って指さしたのは、現実世界でも良くある飲み物の自販機。

 回復アイテム(飲み物)はありそうだけど、武器と防具は無理があるでしょ。


「ですですー♪ あの機械でお客様の欲しいものが全て購入出来るようになってます」

「え、でも、武器とか防具もですか?」

「はい」


 お姉さんの屈託のない笑顔を見ると、冗談ではないことがうかがえる。


「もしかして、自販機をご利用したことがないですか?」

「え、いや……」


 そんなことはないです、と言いかけて私は口を噤む。

 現実の自販機はある。

 けれど、ここはVRゲームの中だ。現実とは違う。

 たとえ、見てくれが現実の自販機となんら変わりないとしても、

中身がそうとは限らない。


「説明してもらってもいいですか?」


 私がお願いすると、まかせてくださいと言わんばかりに、

お姉さんが説明を始めた。


「はい。正式名を自動販売機システムといいまして、

その名の通り自動でアイテムの取引が出来ます。

 メリットは複数の店を回らなくても、まとめてお買いもの頂けること。

 デメリットは設置されているエリアのアイテムのみを扱うので、

他エリアのアイテムが欲しい時は、そのエリアまでいく必要がある点です」


 なるほど、だからお母さんは南の商業区に行きなさいって言ったんだ。

 どこの自販機でも同じ物が買えるなら、わざわざ行く必要ないもんね。


「あと、機械による取引ですので、定価の値段の販売になるのと、

店独自の掘り出し物や特売品なんかは扱っていません。

その辺りもご注意ください」


 ふむふむ。そうすると、値引きや交渉なんかも駄目そうだね。


「大変良く分かりました。ご丁寧にありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして」


 自販機っていうより、コンビニみたいだ。

 今みたいに時間が無くて手早く済ませたい時は自販機を使って、

ゆっくりと時間が取れる時は自分の足で店を見て回って、安い値段で買ったり、他では買えない掘り出し物を買ったりしろってことかな。

 よーし、じゃあさっそく手近にある自販機で買い物して、

フィールドに出よう。

 私が分かれの挨拶をしてその場から去ろうとすると、お姉さんがそういえばと話を切り出す。


「お客様」

「あ、はい。何ですか?」

「ただいま、とれたて南瓜公園スイーツフェアを開催しておりまして、

新作スイーツがたくさん入荷してるんです」


 試食もありますよーと何時の間にやら試食を乗せたお盆を抱えていた。

 小皿の上にチーズケーキのようなものが一口分乗っていて、爪楊枝が差してある。


「こちらは今度お店で並べる予定の試作のチーズケーキです」


 どうぞどうぞと勧められるままに、一口食べてみる。

一瞬にして辺りが楽園へと変わった。

 何これ……美味し過ぎるんですけど!!


「いかかでしょう?」

「幸せが口いっぱいに広がりました!」


 恍惚の笑みを浮かべる私にお姉さんが「そうでしょう?」と笑う。


「南瓜公園スイーツフェアでは、南瓜公園で取れたばかりのカボチンをふんだんに使った、ほくほくしっとりカボチンムースと

カボチン・パンプディングがお勧めです」


 むむむ、気になる、気になるなぁ……。それに。


「それってここのオリジナル?」

「はい。当店限定でしかも店頭でしか扱っておりません♪」


 や、やっぱりそうかぁ……。絶妙なタイミングで勧めてくるなこの人。


「いかがですか?」


 にこにこと笑顔の店員さん。なぜか絶対に逃がさないわよってオーラを感じる……。

 まぁでも。ちょうど小腹が空いてきたことだし

(我ながら情けない言い訳だ)

 店頭でしか扱ってないっていうし、カボチン気になるし……。


「じゃあ、そのカボチンムースを1つお願いします」


 テイクアウトして、南瓜公園で食べようかな。

そう思って私が注文すると、


「ありがとうございます~。ではお席にご案内しますね~」


 ちょ! さりげなく4番テーブルにお通ししてーとか店内のスタッフに話しかけてるし!!

 いやいやいや、魅力的だけど、さすがに食べていく時間は……。


「え、いや、持ち帰りで……」

「あ、当店自慢のカボチンアイスと森長もりおさのココアもあるんですけど」

「……っ!! 食べていきます!!」


 カボチンアイスにかの有名な森長のココアまで出されたら、

食べていくしかない。

 イーターマンの名が廃るってものでしょ。


「ありがとうございますー! 1名様ご案内しまーす♪」


 こうして私は店員のお姉さんの術中通りに店の中へと案内されていった。

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