プロローグ~昼休みと重箱と親友と~
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「ねぇねぇ、臣ー、ゲームやろうよー、ゲーム」
「うっさい、食事中に話しかけんな」
特に何でもない昼休み。このあと日本史と生物という恐ろしく眠くなる(教師がつまんなくて)教科が待ち構えていようが……まぁ、ごくごく平凡な昼休み。
私は弁当を胃に詰める作業をしていた。
「ええー、臣って昼休み中ずっと食べてるじゃない。いつ話しかければいいのさ」
「……もぐもぐもぐ(知るかー)」
「ぶ、は……はむすたーかお前は! もうかわゆいのう」
「むぐ!?(だ、抱きつくな! 喉がつまっちゃうでしょー!)」
見た目は普通。むしろがりがり(らしい?)私こと照山臣。
私はクラスで一番大喰らいだと言われているようだが、そんなことはどうでもいい。食べたい時に食べたいだけ食べるが私の正義だ。
本日の昼食は、重箱弁当に購買のパンとおにぎりが数個。
昼食はいつもこんな感じである。お小遣いに余裕があるときは、奮発してこれにカップスープとかラーメンを追加することも。
食べるのは嫌いじゃない、というかむしろ好き。
休日は食べ物屋のはしごと大食いチャレンジの店探しをして過ごしたり、
食べた店のことをブログで記事にしたりして過ごしているくらいだ。
それで、だ。
そんな私にこの友人(田中 律子)はなぜゲームなど進めてくるのか。
ゲーム廃人の律子と違って、私はあまりゲームをしない。
しないが、律子がやれやれと言って貸してくる分は、しょうがなくやる。
タダでゲームプレイできるならやるさ。
「うーん……なでなで。で、食べたままでいいから聞いてほしいんだけどさ」
「もぐん」
「『神々の宴』っていうVRMMOがあったじゃん。
前に一緒にやってたやつ」
「ぱくぱく……ごくん。はむ」
『神々の宴』。そう、前に律子と一緒にやっていたゲームである。
その時も律子勧め(と言う名の策略)で始めたんだっけ。あれは不可抗力だ。
だって、有名料理店として名高いクウネル食堂の食券、しかも食べ放題の食券をなんて見せられたら、誰だって釣られるよ。
ゲーム自体は面白かったので、サービス停止になるまで5年間、律子と2人で遊び倒したゲームだ。
律子曰く、良く言えば奇抜なシステムがないので遊びやすく、悪く言えば目新しさがないゲームだと評価していた。
でも、このゲームには私にとって最大の利点があった。それは。
「バターフライシュガースティックに、ジューシーティラノレック。
あぁ……あれは美味しかったなぁー」
「ティラノレックはともかく、バターフライは頂けないと思うけど。
……蝶々だよ? 虫だよ?」
「いやぁ、あの食感がもうーたまらないよね。りんぷんのむずがゆさとか、
触覚の感触が……じゅるり。あーなんでサービス停止になったのかなぁ」
「うえぇ」
料理! そう料理なのだ。
やれスキルだとか、それアバターだとか、そういうのに力を入れる他社のゲームとは違い、神々の宴は珍しく料理に力を注いでいた。
だからこそ私が5年も続けられたわけだが。
現実にある料理はもちろん、さっき私が言ったようなゲームだからこそ作れる独特の料理も豊富で、レシピは1000通り以上。装備にも負けないくらいのデータ量を誇っていた。
「もしかしてさ、復活するの? 『神々の宴』」
なぜか青ざめている律子に私がそう尋ねると。
「その通り! というかもうとっくにリニューアルして出てるんだなー。
だからまた遊ばない?」
すぐさま律子がいつものテンションを取り戻して、私の手をぎゅっと掴む。
その目は子犬みたいに輝いていた。あ、なんか揺れる尻尾の幻覚まで見える。
「一応だけど、拒否権は?」
念のために逃げ道の確保しようとして律子にそう尋ねると、律子はこんなこともあろうかとと懐からチケットを取り出した。
ま、まさかあれは……っ!!
「おかわり亭のランチとデザート無料券があったりするんだけどなぁー」
「よーし、律子! 遊ぶぞ。
まさかかつての相棒を忘れて、1人でゲームするなんて言わないよね?」
あのチケットは明らかに私のために用意された罠だ。
しかし人は罠だと分かっていても、進まなければならない時がある。
それが今だ。
「まさか!! よろしく頼むよー相棒? 今晩から始めてるんだぞー。それじゃあね!!」
私はハッと我に返ったが、律子は鼻歌交じりに自分の席に戻ってしまった。
おまけに、無情にも昼休みの終わりを告げるベルが鳴り響く。
別にごはんに釣られたわけじゃない。
ゲーム内のごはんに釣られただけなんだから!
……あれ、結局釣られた、のか?
「これも不可抗力なんだ。うん、しょうがない」
私は肩を落としつつ、急いで空になった弁当を片付け始めた。