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カスの呟き

作者: リュート

 吹き荒ぶ風の音が部屋の中に響いている。僕は頭から布団を被ってその音を聞いていた。部屋の明かりは消している。抗不安薬を呑んで真っ暗闇の中で一人でいると心が落ち着いていく。

 人恋しいと思ったことはない、子供の頃から僕にとって他人の存在は恐怖でしか無かった。まあ、その原因は僕にもある。豚のように醜く肥え、空気も読めず、その場にいると場の空気を白けさせてしまう。

 いわゆる痛い人間だった。そんな人間は排除されて当然だ。当然のように僕もいじめの対象になった。クラスの男子から殴る蹴るの暴行、制服を無理矢理脱がされて泣き叫ぶさまをビデオで撮影されたりもした。

 だが、そんなクラスの奴らを恨んではいない。この世は弱肉強食、いじめられた自分が悪いそう思って生きていた。だから生き残る方法を考えた。

 他人と接するのは怖いけど、接しないと生きていけない。来る日も来る日も一人でそのことを考えていた。大学に進学してからも、その恐怖は来る日も来る日も僕を悩ませ続ける。

 ある日、ふと目にした雑誌で精神薬の存在を知った。それは僕にとって福音だったのかもしれない。薬で感情をコントロールできる。この恐怖も薬で抑えられる。

 そう思い、心療内科に駆けこんだ。医者に今までの事実と悩みを話した。相手は商売でやっている。そう考えると自分でも驚くほど簡単に悩みを吐き出せた。

 医者の診断結果は、抑うつ神経症と対人恐怖症、そして薬を手に入れることが出来た。あの日の事は今でも覚えている。抗不安薬を呑んでしばらくすると、恐怖が治まってきた。

 心の壁が出来たかのように、恐怖を感じなくなっていた。僕の全身を歓喜が包んでいく。昔から散々悩まされてきた感情から解放されたのだ。この薬は一生手放したくないと思った。

 そして、落ち着いた頭でどう生きのびるか考えた。他人との交流を極力断てばいい。誰にでもできる仕事をしロボットのように働く。友人も作らず、一人で生きれば誰からもいじめられることはない。

 計画は完璧だった。後は実行するだけだ。ちょうど就職氷河期だったことも幸いした。僕はアルバイトを始めた。そして生きていく上で必要最低限の収入を得ると、後は何もしなくなった。

 友達が欲しいとも思わなくなった。恋人も同じだ。他人と付き合うのは苦痛でしか無いからだ。

 一人は寂しいと世間の人達はいうが、薬を飲み始めてから、僕は寂しさを感じたことがない。一人でいると気持ちが安らぐ、そして安心できる。だれも危害を加える存在がいないからだ。

 このまま一人で生きて僕は死んでいくだろう。でも怖くはない。他人に囲まれて生きていくほうが僕にとってはよっぽど怖いことだ。

 できればさっさと死にたいが、もうどうでも良くなった。僕は死ぬ日まで薬を飲み続けるだろう。そして他人と関わること無く、一人で死んでいく。理想的な死に方だ。

 そう考えていると眠気が襲ってきた。さっき飲んだ睡眠薬が聞いてきたのだ。このまま目覚めなければいいのに。そう思いながら僕は目を閉じた。

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