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カラープレデター   作者: 和銅修一
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白銀③

「まぁ、名前が女みたいな俺と男みたいな銀九は似てるってことだな」

「よくわからないが、まぁ面倒だからそういうことにしてあげるよ」

 思い出話に花を咲かし、昼休みは過ぎて行った。もちろん弁当は両者、空であるかま銀九の弁当は少し多いため真に分けた。

「銀九、腕上げたな」

 弁当を片付ける銀九の手が止まった。

「へ?」

「卵焼き、お前が作ったんだろ。他にも色々美味しかったぞ」

「あ、ありがとう」

 料理は弁当を作る母上の手伝いになればと思い、始めたが今ではこの時のために作っている。

「もうそろそろ昼休みも終わるし教室に戻るか」

「おや、今まで時間なんて気にしたことないのにどうしたんだい?」

「いや……少しあってな」

 ふと脳裏には小うるさいドリル音が響いた。あのツインドリル委員長はとにかく時間にうるさい。そのせい……というかおかげで遅刻することはなくなった。

 階段を降りながらシグレのことを思い出した。委員長は学校を案内してくれると言ったがあの二人の組み合わせは不安だ。

「転校生が心配?」

「まぁ、……ってそういえばあいつ四宮って偽名使ってたぞ。大丈夫かよ」

「それは母上が決めたことだよ。何の問題はないし彼女も同意してくれた。表向きでは僕の従姉妹(いとこ)ってことになってるよ」

 櫂音さんにも困ったものだ。それなら一言言ってくればよかったのに。いや、あの人は多分楽しんでいるんだ。

「母上は真のことを案じていたよ」

「櫂音さんが?」

「うん。シグレさんも真を街に潜んでいる色怪から守るための護衛だし、色々とやっているよ」

「そ、そうか」

 少しあの人を甘く見ていたかもしれない。片手で(あご)を支えながら廊下を歩いていると、奇妙な感覚に襲われた。

 だがこれは体験したことのある感覚だ。

「ヴァイスワールドの時と似ている」

 つまり色怪が現れたということになのだろうか? 銀九も何かを感じたのか辺りを見渡して警戒する。

 すると普通に堂々と真っ正面から歩いて来る影が一つ。

 人の形をしているが、黒と白でできていておよそ人ではないが長い髪と胸から女性であることは確かだ。

 彼女の周りにはピンク色のエネルギーが舞うように(まと)わり付いている。

「真……僕は戦うよ。色怪の力が半分あるんだ。これで守れなかったら父上に顔向けできない」

 銀九の体にも色エネルギーが纏わり始めた。そして左手には真ん中に勾玉が描かれている八角形の盾、右手には先に球がついた鎖が現れた。

 どちらも銀色に輝いている。

「せいっ‼︎」

 右手の銀球を相手にジャラジャラと音を立てながら投げた。

 だが戦闘未経験の銀九の攻撃は大したこたなく、軽々とよけられてしまう。

 そしてその色怪は銀九に近づき、蹴りをねじ込もうとあげたが盾によって防がれる。

「甘いよ」

 隙ができたその色怪に銀球をお見舞いしようと、精一杯に放ったのだが蹴りの直後に後ろに飛んで距離をとろうしていた時にかわさられる。

 そして大きな力を使い隙ができた銀九に突っ込んで行くが、真はそれをポケットに入っていたシャーペンの色を抜き取り応戦した。

 色はオレンジ。初めて使った色エネルギーだ。

 その色の塊を色怪にぶつけてやると空気中に桜色のエネルギーが広がり、消えてそこからは桜の葉の一枚が降ってきた。

「何だこれ?」

 舞い落ちてきたその花びら意味を真は知らない。そしてポケットにあったはずのシャーペンは色を失くして姿形なく、幽霊のように掴めないものになっていた。

 ヴァイスワールドではただ(もろ)くなるだけだったがここで色を抜くと存在が消えて消滅してしまうようだ。

 チャイムが鳴る。あと五分で授業が始まる。

「取り敢えず教室戻るか」

「そうだね」

 二人はそそくさと空になった弁当を持ったまま自分たちの教室へと早足で帰って行った。




 この扉は重い。先に必ずシグレと霧香の二人がいるからだ。

 一体あの二人はどんな風になったのだろう。危険な匂いがプンプンする。

 だがこのままだと授業が始まってしまう。

「よし……大丈夫だ。霧香も何だかんだでいい奴だ。上手く案内して普通にシグレと話してるだろ」

 ガラリと横に扉をスライドした。

 すると真の目にはありえない光景が写っていた。シグレと霧香が楽しそうに、笑いながら話しているのだ。

 性格からして合いそうにないあの二人が楽しそうにガールズトークをしている。

 内容は遠くて聞こえないが、色怪のことは誤魔化せているようなので安心して席に着く。

「霧香は意外といい奴ね、気に入ったわ」

 授業中にも関わらず、いつもの元気な声でシグレは話しかけてくる。今は自習だからいいものの普通の授業だったら怒られているだろう。

「そりゃあよかったな。俺はその時、襲われてたってのに」

「襲われてた?」

「ああ、幼体の色怪だったがこれだけ残して消えてったよ」

 桜の葉をシグレの机の上に置いて見せた。一見すると、本当に普通の桜の花びらなのだが微弱な色エネルギーを感じられる。

「面倒なことになったわね」

 花びら一枚を見下ろして困った顔をする。

「何か知ってるのか?」

「ええ、私と同じであの人の元で働いてた仲間よ。今は自分が尽くすべき王を探す旅に出てたらしいけど、順番が回ってきたようね」

 その桜色の葉は試練への切符。櫂音の家でこれを調べて見ることにした。




「午後十二時二十分、ヴァイスワールドの桜通り」

 櫂音は望遠鏡を覗き、桜の花びらに書かれた小さな挑戦状を読み上げた。

 宛先は勿論、柊 真となっている。

「あと五、六時間後か…少し長いけど気長に待つしかなさそうだ」

 時間もあるこのだし、一旦家に帰ろうと思ったがある手がそれを停めた。

「おいシグレ、少しぐらい休んでもいいだろ? これから戦うことになるんだし……」

 そこで手が白いことに気がついた。シグレの手はこれほど白くはない。櫂音さんにしては小さい。最終的に銀九の手であることを顔を見ずに理解した。

「ぎ、銀九……痛いんですけど」

 このか弱い腕の何処からこんな力が出てくるのだろう。腕が引きちぎれそうだ。

「今、戦うとか何とかって言ったよね真。また、何か厄介ごとができんだろ。真はそういうトラブルを引き寄せる才能があるからね」

 何が気に入らないのか、怖い顔をして腕を握る力を強める。

「い、いたた。まず話を聞いてくれ」

 花びらの挑戦状のことを包み隠さず話した。



「なるほど、父上の元部下さんが真の王としての素質を確かめるために戦いを挑んできたんだね」

「断ったら昼休みの時みたいに襲ってくるだろうし無視できないし、銀九の親父さんのことを聞いてみたいと思ってな」

「彼女は……私たちは王のことを話せないわ」

 銀九の部屋で話し合っているとシグレが重たい声で割り込んできた。

「それはどういう意味だ?」

「そのままの意味よ。私たちはあの人の能力、容姿から名前すら言えないようになってる。その理由も言えないわ」

 銀九と顔を見合わせる。

 彼女は嘘は言っていない。どうやら複雑な事情があるようだ。

「仕方ない。そのことは一旦、諦めてそいつに俺が王であることを認めさせて周りの奴に迷惑をかけないようにさせてやるさ 」

 グッと握りしめるその手は確固たる覚悟がありながら微かに震えていた。

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