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カラープレデター   作者: 和銅修一
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白銀②

 空いた口が塞がらない。まさに今の真の状態だ。

 転校生が来ると聞いて期待していたのに、今紹介されているのは四宮 時雨(しぐれ)という偽名を使って真新しい制服を着たシグレだった。




「なんでお前が学校に来てるんだよ」

 シグレはなんの因果か、窓側の一番後ろに座っていた真の後ろの席となった。

「なんでってあんたを守るために決まってるじゃない。ここにもあまり動いてないだけで色怪はいるのよ。ちゃんと注意しなさいよね」

 確かにこの世界に逃げ込んできているのは話を聞いて知っている。だが幼体であるが彼女も影響を受けて力を全て出すのは不可能だ。大丈夫なのだろうか。それに銀九。

 心配事は増える一方だ。

 真は昼休みまで外を眺めてボーッとしていた。




 昼休みになって人々は流れるように動き出した。その中で困り果てているのはシグレ一人だ。

「で、どうする? これから学校でも見て回るか?」

「そうね。ここの調査も櫂音に頼まれてるし、そうするわ」

 シグレがそっと立ち上がった瞬間、ツインドリルが揺れた。

「それなら私がご案内してあげますわ。一応ここの委員長ですし。真さんのお知り合いだそうなので少しお話がしたいですし」

「私もあなたとは話がしたいと思っていたわ」

 二人はそそくさと教室を出て行った。

「さて……俺はどうしようか?シグレは委員長に任せとけば安心だろうし」

 他に心配な人……。銀九、そうだ銀九のところへ行こう。

 半分色怪だと聞いた昨日から様子がおかしいかった。まるで何かから逃げているようで朝もあまり話せずもどかしい。

 鞄から弁当箱を取り出して、銀九がいる隣のクラスへと足を進めた。




 銀九は真の席とは真逆の廊下側の一番に座っていた。

「やぁ真。もうそろそろ来る頃だと思っていたよ。ここだとなんだから屋上に行こうか」

 銀九は四角くて大きな風呂敷を持って、まるで悟ったように言った。



 ここの屋上は好きだ。

 普通の高校なら立ち入り禁止だろうが、ここはやはり変わっていて誰でも使えるようになっている。

 だが使用している人は意外と少ない。

 空いているベンチに座り両者は弁当箱を開いた。

 真弁当箱の中身はそれほど豪華ではないが愛情溢れてこぼれる勢いの弁当だ。冷凍食品が入っていないのは当たり前。ご飯には真を模した海苔が乗っている。

「さすが柑奈ちゃんは凄いな〜」

「いや……まぁ、そうのんだが櫂音さんのは迫力が違うな」

 まるで御節(おせち)かと思うほどの大きな弁当箱。一段目、二段目にはおかずがぎっしりと詰まっていて三段にご飯が入っている。

 見せ合いは終わり、各々黙って食べ始める。

 どう話し始めたらいいか困っている中、銀九は(はし)を休めて重い口を開いた。

「真……。私が半分色怪だってこと、母さんから聞いたんでしょ」

「ああ、でも俺も似たようなもんだ」

「似てる? 僕と真が? 私は半分人間、半分怪物の中途半端な存在なんだよ。全然違うよ」

「それはどうかな。お前が転校して来た頃のことを思い出してみろよ」




 九年か、八年か、七年前、真が通う小学校に転校生が来ることになった。

 名前は四宮 銀九。男っぽい名前を持っているが歴とした女の子だそうだ。

 それを聞いた真は(うらや)ましかった。男らしくてカッコイイ。そんな感じがした。

「僕の名前は四宮 銀九です。これからよろしくお願いします」

 小さいのに礼儀正しくてとてもいい子だ。しかし人だけ、たった一つだけ問題があった。

 それは同い年の子を避けることだ。

 先生や年上にはちゃんと答えてくれるのだが同い年の人には無言だ。

 何がそうさせているのか理解できなかった。そして同時に皆から離れていく彼女のことを可哀想に思い放課後、小さな体に詰まった一握りの勇気で銀九に初めて声をかけた。

「四宮……さん。一緒に帰らない?」

 小さな背中には不釣り合いな大きなランドルを動かして振り返った銀九の目は今とは違い、暗く曇っていた。

「なんで僕が君と一緒に帰らなくてはいけないんだい? まず理由を聞かせてよ」

「だって……ほら、家隣同士だし、同じクラスなんだから四宮さんのこと知りたいなって思ってさ」

 今ではこんなこっぱずかしいことは言えないが、この頃は何も考えずにスッと言えた。

 だが銀九はロボットのように表情一つ変えない。

「家が隣だからとかは僕には関係ないよ。話はそれだけ? ならどいてくれないかな」

 その無慈悲な眼にたじろいだ。自分と同い年なのに一体どんな生活を送ればこんなにまでなっしまうのだろうか?

 真にはわからなかった。だが過ぎ去って行く彼女をこのままにしておくのは良くないことだということは、はっきりとわかった。

 翌日、そのまた翌日と何度も話しかけるが前のように否定されるか無視されるかの二択だ。

 だからせめて無視されないように早めに起きて家の前で待って一緒に登校するという強行作戦を考え今、扉の前で仁王立ちの練習をしながら待ってるのだが一向に現れる気配はない。

 不思議に思い、必死にジャンプをしてインターホンを鳴らす。

 暫くして出てきたのは大人だった。見たこともない白い衣装に銀縁の眼鏡をかけていてとても変わった人だと思った。それが櫂音の第一印象だった。

「あれ? もしかして銀ちゃんのお友達かな〜。僕、お名前は」

「ひいらぎ まこと。男だ」

「そっか〜、まこちゃんか〜。可愛いわね。食べちゃいたいくらい」

 舌をペロリと動かす櫂音の言うことが嘘か本当かどうかわからない頃だったので、背筋が震えた。

「そ、それよりも。四宮さん……銀九さんはいますか?」

 櫂音の勢いに呑まれそうになったが、なんとか本題に入れた。

 しかし、困った顔をして眼鏡を人差し指で抑えあげてしゃがんだと思ったら真の顔をジロジロ舐め回すろうに見た。

「なるほど、なるほど……大体わかったわ。銀ちゃんの部屋は二階の一番奥だから直接言行って話してくれるかな」

「はい……、お邪魔します」

 一体何がわかったのだろうか?母親がああだと少し変わるってしまうのも頷ける。

 とにかく見慣れない階段を上って二階へと辿り着く。目の前には長い廊下と左右にある扉、そして奥にある扉が広がった。

 妙に銀九の部屋が遠く感じたが真は歩き出した。

 途中、右側の部屋の扉が開いてそこかは青い光が差し込んでいた。

 気になって覗いてみるとケーブルとパソコンの山があり、起動音が絶え間無く流れる。

 とても人の部屋には思えない。

「か、かっけ〜」

 が、この頃は単純でここがアニメなどで出てくる基地のように見えた。

 ほんの少しその光景に見入っていたが、ここに来た本来の目的を思い出す。

「あ! こんなことしてる場合じゃなかった」

 扉を閉めて廊下を進む。その際、その中にある一つのパソコンにが点灯してシグレのデータが写っていた。




 少し戸惑ったが、一度拳を握りしめて気持ちを落ち着かせてドアノブを回した。

「よ、よお。四宮」

 銀九の部屋はとても綺麗に整頓されていたが、ピンクといった明るい色がなくとても女の子の部屋とは思えない。

「なんで柊くんがいるの?」

 銀九はベッドに座っていつもの目で真を睨みつけた。

「い、いや。四宮……さんと一緒に登校しいいな〜と思ったからね」

「また…。本当に君はしつこい人だね。そういうのは嫌われるよ」

「嫌われてもいいさ。それで四宮が元気になるならな」

 銀九は顔を上げて不思議そうに真を見つめた。

「君には僕が元気がないように見えるのかい?」

「ああ、だから何か役に立ったらなって……」

「……どうして君はそんなに強いんだい?」

 くぐもった声で銀九はそう呟いた。

「強い? 俺がか!」

「そうだよ、諦めることを知らない。まるでヒーローみたいだよ君は」

「四宮は何かを諦めたのか」

 このニュアンスだとそうとしか考えられない。だが何か喉に引っかかるように少しの間を空け、重たい口を開いた。

「君が来た廊下には僕の部屋以外に二つの部屋があったでしょ。あれは父上と母上の部屋なんだ。だけど、父上の部屋はもう何年も使われていないんだ」

 銀九は真の先にある何か遠いものを見つめるような悲しい目をした。

「それはどういう意味だ?」

 この言葉は今思うとなんとも気が利かない、馬鹿みたい言葉だ。

「僕の父上は行方不明なのさ。母上が言うには父上の知り合いが全力で探してるって言うけど、普通はそんなの警察に頼むんだよ。おかしい、僕はもう父上に会えないと悟ったよ。母上たちは何か隠してるんだよ。それが終わらなければ僕は父上に会うことはできない」

「あ〜、何だその……お前本当に俺と同い年か?見た目は子供、中身は大人じゃないか。真実はいつも一つってか」

「いや、それは作者に聞いて見ないと……」

「大人だな、そういうところがダメなんだよ。確かに父さんがいないのは悲しいことだけど、母さんはどうなるんだよ。あの人は少し変わってたけどあの人なりに四宮を愛してるはずだよ。それを無下にしちゃあ可哀想だよ」

「じゃあ、僕にどうしろっていうのさ!」

 銀九は座っているベッドを叩いた。

「ただ楽しんで待ってればいいんだよ。そうすれば例え帰って来なくても大事なものが見つかるよ」

 真は手を差し出した。

「まずは学校に行こうか」

 その手に導かれて殻から抜け出した。

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