クリアネスレインボー①
先ほどの第二試合。
ロブ対ライリは、両者とも色エネルギーが底を尽きていたので引き合いという結果に終わって、今二人は座って休んでいるところだ。
「今度は俺たちの出番みたいですね。糸鵜川先輩」
パイプ椅子から立ち上がって未だにマイクの前で実況役の気分でいる糸鵜川を見下ろすが、彼は呆れたような顔で見つめ返してきた。
「どうしたさ。僕は闘いはないよ。ライリちゃんみたいに戦闘狂じゃないからね」
「いや、だって……」
「この流れだと大将戦になる? そんなことはないさ。だって師匠が出した条件は真ちゃんたちが二敗しないことって伝えだろ。今の時点での真ちゃんチームの成績は一勝、一引き分け。僕と闘って負けたとしても、二敗には届かない。つまり、これで君たちを試すのは終わり。本当のことを言うと真ちゃんがあれを使えないのは知ってるから、君の色怪たちの戦力が知りたかったんだよね〜」
なんとも気に入らない終わり方だ。胸の内がムズムズする。
もしかしたら自分もライリのように戦闘狂かもしれないと思っていた時。
「君が柊 真くんかい?」
後ろから何の気配もないのに女性の声がした。
「き、君は?」
振り向くと中学生ぐらいの少女が立っている。しかと少女の髪の毛は目立ちに目立つ虹色。
あまりにも眩しすぎて、なぜか彼女からは不思議な雰囲気が立ち込めている。
「紹介がまだだったね。この不甲斐ない弟子の師匠の三納寺 レイ。女王と呼ばれた女だよ」
レイと名乗った少女は虹のように弧を描いて嘲笑った。
「じょ、女王?」
「まあ、そのことはまず置いとこう。話がややこしくなるだけだからね。まずは聞きたいことがあるんじゃないのかい?」
そうだった。彼女は糸鵜川が言うにはなんで知っているというので、ぜひその知識を授かりたい。
「そ、そうだ。あの……新種の色怪の事についてなんですけど。あれは一体なんなんですか?」
おかしい。
明らかに年下である彼女なのに自然と敬語が出てしまう。
「ん〜、簡単に言うとあれは気からできた色怪。君の関係者の心の色で出来た色怪さ」
一体目は妹の柑奈、二体目は委員長である霧香であったから自分の知り合いが新種の色怪と関係があるのは少し感付いていたが、心の色というのが良く分からなかった。
「あの……心の色っていうのは何ですか三納寺さん」
また敬語となってしまった。
彼女の前だと必ずこうなってしまう。これは変えられない。
「三納寺さんだなんて他人行儀だね。気安くレイと呼んでくれよ」
「なら、レイさん。さっきの質問に答えてください」
一刻も早く知りたかった。自分の妹、友達がこの世界と関わろうとしているのだ。
彼女たちには自分と同じような思いをしてほしくない。
だからできることならそれを止めたい。止められなくてもそれに付き合う。その為に出来るだけ知識が欲しい。
「カッタイな〜。まあ、いいや。気の話だったね。言い換えるとオーラだよ。君も一回ぐらいは聞いた事があるんじゃないのかな?人にはそれぞれオーラを持っていてるんだ。テレビなんかでオーラが見えるっていう人がたまにでだろ?」
確かにそういった人が芸能人のオーラを見て、その人がどんな性格かを当てるコーナーが放送されていた。
でも、この人もテレビなんて見るのか?
そんな真の疑問をよそに、レイは説明を続ける。
「で、そのオーラは人それぞれ違う色を持っているだ。数はレイもどれくらいあるか知らないけれど、多分二十はあると思うよ」
「知ってるじゃないですか」
「これはあくまで推測だよ。それで続きなんだけど、君のような不安定な存在がいたからそのオーラが暴走して色怪に変わったんだよ。これもレイの推測だけどね」
不安定ては、人間でありながら王の素質を持っていることで間違いないだろう。
だがそれは自分が原因で柑奈たちに迷惑をかけてしまっていることになる。二人は気づいていないようだが。
「さ〜て、じゃあ新種の色怪のことはもういいだろ。次は君の質問を聞いてあげる番だよ真くん」
呆気にとられて暫く口をあんぐりと開けていたいたが、その一言で我に返った。
「ああ、そうだった。なら一ついいですか?」
「一つだけだぞ」
自慢できない普通の胸を自信満々に張った。
「なら僕が王としての力が目覚める前に見た夢のことは何だったんでしょうか?」
「夢? 一体どんなのだ」
彼女も流石にあの時見ていたわけではないので、知らないようだ。
だが彼女の推測には説得力があるようだった。それだけでも聞いてみるのには価値があるだろう。
「え、ええ〜と。白い部屋に閉じ込められて、暫く時間が経つと赤いボタンが出てきてそれを押したら起きれたんですけどあそこの雰囲気が何と無くヴォイスワールドに似てたんですよ。もしかして関係があるんじゃ……」
記憶の片隅にある白い部屋を思い出しながら説明していくと、レイの顔がだんだんテンパっていった。
「う、う〜ん。は、話だけじゃ分かりませんね〜。その白い部屋に行かない限り、分かりませんよ〜。はい〜」
明らかに挙動不審だ。目が泳いでる。
何か知っているからこんな風にテンパるんだ。
「そこを何とかなりませんか? 推測だけでいいんですよ」
ここであと一歩踏み出せば少しだけでも白い部屋のことが分かるかもしれない。
始まりとなったあの部屋のことは知らなくてはいけないと心の中の何かが囁くのだ。
「いや〜。別のにしないか?他ならなんでも聞くぞ。そうだな〜、君の幼馴染のスリーサイズとかで手を打たないかな〜」
どうしても話したくないらしい。
顔に大粒の汗をかいている。
「真ちゃん。あまり僕の師匠をいじめないでくれるかな〜」
今までジッと黙っていた糸鵜川が横から割って入ってきた。
「なんですか変態」
「今の真ちゃんの姿勢でそれは言われたくないな〜」
「はい?」
言われて、自分の姿を見てみると中学生ぐらいの少女に息を荒立てながら詰め寄っている姿があった。
「う、うわ! いえ違うですよ三納寺さん。これは話が聞きたかっただけでやましい事なんて一切あやませんから。だって好みはこんな胸じゃなくてもっと……」
焦って口を滑らせそうになったが、後ろから来る殺意の塊によって口が凍りついた。
「もっと……なんだって? 続きを言ってみなさいよ。地獄を見ることになるでしょうけどね」
この怒りに満ちた声……顔を見なくても分かる。
シグレだ。ヴァープ戦での色エネルギーの消耗を回復したのだろう。今では手が燃え盛るほど元気だ。
というか本当に燃え盛らせている。
「オイオイ、待て待て。そんな危険な技を俺に向けるなよ。それになんで怒ってるか説明しろ」
「説明? 幼気な少女を襲おうとしている仲間がいたら殴りたくなるのは本能よ」
「どんな本能だよ……ってお前今……」
「何よ、誤魔化そうたって無駄よ」
ジリジリと詰め寄る彼女の目に隙はないが、真は誤魔化すつもりなどない。
「シグレ。初めて俺のこと仲間って言ってくれたんじゃないか?」
王とは呼んでくれたことはあったかもしれないが仲間と呼ばれた記憶がない。
「な、何よ。なんか問題でもあっるていうの」
「そうじゃなくて嬉しいんだよ。王とかより仲間の方が親近感があるだろ。お前と仲良くなれなのかな〜と思って……」
気がつくとシグレの手の炎はさらに燃え盛っている。
何か悪いこと言ったかな〜? ……うん、言ってない。でもあの目は本気だ。
「では、真くん。レイは忙しいからここでお暇するよ」
「ちょ、ちょ。これどうにかしてくださいよ」
「自業自得だね。そんな君に一つ忠告しとくけど、橙色には気をつけなよ」
特徴的な七色の髪をなびかせて過ぎ去った後、真が居た場所では大きな爆発が起こった。




