ヴァイオレットパープル③
「まったく、あの赤いオツ……じゃなかった色怪はどこに行ったのかしら?」
あれから西館を第一コンピュータ室と第二コンピュータ室と順を追って探してみたがなかなか見つからない。
「何か手がかりでもあれば簡単に見つけられるんだけど」
シグレはヴァープの攻撃で疲労して、とっさに逃げ出した。だからどこかでミスをして何か物を落としているかもしれない。
それが見つかれば大体の居場所はわかる。それにヴァープの攻撃を食らったとなると長距離の移動はできない。
もう既に絞り込めてはいる。それを一つずつ潰していけばいいが、ヴァープの攻撃の持続効果が切れるかもしれない。
「次はどこにしようかしら」
理科室、家庭科室。ヴァープが導き出したシグレがいそうな場所。
この二つのどちらに行こうか迷って、立ち止まった。
中庭。ここでは糸鵜川を中心、というか糸鵜川一人で実況が行われている。
「もう教えくれてもいいだろ。あいつは一体どんな攻撃したんだ?」
「何のことだい」
「とぼけるなよ。あのヴァープという娘がなんかしたんだろ。明らかにシグレの様子が変だった」
それはもにー越しでも一目瞭然だった。ヴァープが何かしたに違いない。
「あ〜、あれのこと。それなら睡眠ガスだよ。ヴァープちゃんは色んな毒が使えるんだ。今回は殺すのが目的じゃないからね」
シグレの調子が悪かったのは睡眠ガスのせいで眠くなっていたからのようだ。だが毒と言っても睡眠ガス。死ぬことはない。
どうやら本当に約束は守ってくれるらしい。今まで半信半疑だったが、それを確認できて少しホッとした。
「でも、それなら色エネルギーの気配でわかるんじゃいのか?」
真に色エネルギーの探知する方法を教えてたのはシグレだ。気づかないはずがない。
「そうならないようにヴァープちゃんは自分の体に大量の色エネルギーを纏わせていたんだよ。シグレちゃんはそれに気や取られて、少しずつばら撒かれている毒に気づかなかったんだよ。でもこんなのはヴァープちゃんの本気じゃないよ。本当はもっと、もっと厄介だからね」
モニター越しだと色エネルギーが確認できないからよくわからなかったが、かなりの激戦が繰り広げられているようだ。
「ヴァープちゃんは凄いんですね」
背も低くて幼い感じする彼女は、ちゃん付きがしっくりくる。
「おやおや。自分があれほど嫌だと言ったちゃん付けは他人なら問題ないんだね、真ちゃん」
だが、この男は嫌みたらしくニラニラする。
「いや、相手が女性ならちゃんだけど男だとちゃんは普通におかしいでしょ」
赤ちゃんや子供相手ならどちらでもちゃん付けで成立するだろうが男子高校生を呼ぶのにはかなり無理があると思われる。
「そうかな? でも僕は変える気はないよ。それがポリシーだからね」
「そんなポリシーどうでもいいですけど。この戦いはどうなと思いますか?」
真が気になって質問すると糸鵜川はパァーと明るくなった。
「やっと実況をやってくれる気になったんだね」
どうやら一人での実況はさみしかったらしい。まるで子供のようだ。
「いえ、そんな気はさらさらないんで。ヴァープちゃんがどれくらい強いのかわからないし、シグレの今の状況からしてこれからどうなるか気になっただけです。糸鵜川先輩はヴァープちゃんと仲良いんだからそれぐらいわかるじゃないんですか?」
圧倒的にシグレが不利だが、糸鵜川見てどうなのだろうか? 彼はヴァープの技を知っているようだし、予想ぐらいはできるはずだ。
「ん〜、そうだな〜? 確かにシグレちゃんは不利だけれどもヴァープちゃんは防御力がとても低いんだ。だから隙をついて大きな一発を叩き込めれば勝てるかもしれないね」
「じゃあ! ……」
「まぁ、まぁ。でもこれはシグレちゃんが隙をつくれるかどうかにかかってる。できなかったらお寝んねすることになるだろうね」
つまり、シグレがヴァープを出し抜けば勝てるということだ。
だがシグレは糸鵜川の考えとは裏腹に家庭科室に罠を張り息を潜んで待っていた。
「ここかしら。微かにオツパイ臭がするわ」
根拠ない自信を持ちながらヴァープが向かったのはシグレが潜んでいる家庭科室。
中は六つの台があって料理ができるようになっている。それに道具も後ろの棚に揃っている。
「これは香ばしいオツパイの匂い!」
ハッと息を飲むヴァープ。
「なに……意味不明なこと言ってんよ……」
それに答えたのは家庭科室の真ん中でクラクラしているシグレだった。
「あら、もう逃げることは諦めて私にオツパイを揉ませてくれのかしら?」
「んな……わけ………ないでしょ」
眠気に抗いながらもなんとか意識を保つシグレだがもうそろそろ限界だ。
「どうやら効果が切れる前にあなたが眠る方が早いようね」
これの効果が切れてしまうと、食らった本人は耐性がついてかなりの時間を空けないと意味がなくなってしまうのだがもうシグレはもう眠る寸前。
ヴァープの心配事はなくなった。
「なに……言ってんのよ……まだやれるわ」
シグレの体が赤色エネルギーに包まれ、鋭い眼光でヴァープを睨みつける。
「どうやらそのようね。ならそんなあなたに免じて最後に一発、睡眠ガスをお見舞いしてあげるわ」
なぜだろうか?
心の中が熱くなってきている気がする。だからこの挑発にも乗ってしまった。
無視をしてこのまま安らかに眠るのを待てばよかったのに。
そして飛び込んだ時には遅かった。
シグレが後ろに飛んで右手に握っていた何かを思いっきり引っ張った。
それは糸。色エネルギーでつくったのだ。これがヴァープに気づかれなかったのはシグレが自分の体にそれよりも大量のエネルギーを纏わせていたからだ。
先ほど、ヴァープが使った戦法だ。これは色怪の応用的な戦法として有名だからシグレも知っていたのだ。
そうやって隠れていた糸は家庭科室の中にあった四つのコンロのスイッチを回した。
回されたことによってコンロから炎が上がる。そしてその炎は糸に触れてそこからシグレが色エネルギーを注入する。
「これで最後……」
炎から拳がヴァープに発射される。
ヴァープは突然現れた拳を避けることができず、当たった四つの拳が爆発した。
それを見て、睡眠ガスの効果がようやく効いたシグレはパタリとその場に倒れんだ。
「……私の負けね。まさかここまでやるなんて思ってなかったわ」
横たわるシグレを見たヴァープは無傷だったのにも関わらず負けを認め、一回戦は真チームの勝利となった。
「なんで? 明らかにシグレが負けてるのに」
どちらも傷はないがシグレは睡眠ガスの効果で眠りについてしまい、戦闘不能となってしまった。
それに比べてヴァープは依然と立っている。
誰が見ても勝者はヴァープだと思う。
「わかってないな〜真ちゃんは。いいかい、シグレちゃんは攻撃を当てた後に戦闘不能になった。けどね、ヴァープちゃんはその攻撃を防ぐために全部の色エネルギーを使っちゃって戦闘不能になってたんだよ。色エネルギーがなければ色怪は戦えないかね〜」
「そうだったんですか」
真は急に恥ずかしくなってきた。
一瞬でもシグレを信じてあげられなかったのだ。彼女は負けてしまったのだと。
そんな自分が情けない。
「じゃあ、これで一勝一敗だ。シグレちゃんのことはヴァープちゃんに任せて次の試合を始めようか」
「ああ、頼むぞロブ!」
シグレのことは気になるが、起きるのを待っていても仕方がない。
残ったロブがこちらの二番手。
そして糸鵜川側の二番手も前に出た。
「彼女はライリちゃん」
糸鵜川に紹介されたライリという少女は全体的に黄色だった。スタイリッシュな服も七三に分かれた髪も鋭い目も。
唯一黄色じゃないのは色白な肌だけ。
そんな彼女は右腕に三つのリングをつけている。
全体的に細い感じの彼女には似合っていた。
この彼女とロブが第二試合で戦う。




