ヴァイオレットパープル①
放課後、食べ損ねた弁当を腹に押し込んで家へ一直線へ帰って、荷物を自室へ置くと何の迷いもなく四宮家にお邪魔する。
そしていつもの櫂音さんの部屋で、糸鵜川と戦うことになったことをみんなに報告した。
いないのはアグだけだ。子供であるアグを巻き込みたくないという真の願いをみんなが理解してくれていたからだ。
「まさかあんたから戦おうとするなんて珍しいわね。そんなに知りたいことなの新種の色怪のことなんて」
シグレが皮肉みたいにそんなことを口にした。
確かに今までの戦いは櫂音さんから頼まれたりして戦ってきたから、自分で戦うと決めたのはこれが初めてだ。
「俺の妹に似た奴が出てきたからな。見過ごすわけにはいかない」
「あら、それってシスコンってやつかしら。本当に気持ち悪いわ。自分の妹だからって自分のものと勘違いしてるんじゃないかしら。汚らわしい」
手で口元を隠した桜はまるで汚物を見るような、蔑んだの目で真を見つめる。
「そんなこと思ったことねーよ。それと全国のシスコンさんに謝れ」
「嫌よ。血の繋がりがあるものを女として見
て欲情する変態野郎たちに謝る気はないわ」
「そこまで言うの? シスコンになんか恨みでもあるのかよ」
「実は……私の兄が」
急に深刻な顔をする桜。
「もしかしてシスコンだったのか」
驚きながらも全てを悟ったような顔をする真。
そして少し間が空いて
「……ゲイだったの」
と、衝撃の真実。
「全然関係ねーじゃん!」
「当たり前よ。シスコンが嫌いな理由なんてあるわけないじゃない。産まれた理由なんてないのと同じようにね」
「深い! なんか深いこと言ったな」
それを最後に手と手を叩く音がした。
「は〜い。まこちゃん、話が盛り上がるのは
いいんだけどちゃんと本題のこと喋ろうね〜」
「あ、そうだ。戦うメンバー決めないと」
糸鵜川は真以外のメンバーを指定してはいない。だからこちらで決めなくてはいけないのだ。
「え〜と、真はもう決まってるからあとは二人を決めるだけだね」
「ああ、そうだ。今回の戦いはいつもとは違うから一対一になっても戦えるやつがいいな」
そこで座っていたロブが手を上げる。
「でも、糸鵜川さんって人が団体戦で挑んでくるかもしれないからサポートも候補に入れた方がいいんじゃないですか?」
「いや、あいつは俺を試すみたいなことを言ってた。なら俺単体の力量が知りたいはずだ。となると必ず一対一の状況を作ってくるだろうな。なんとしてでも」
「じゃあ、一番攻撃力のあるシグレは入れた方がいいわね」
つい先ほどふざけていた時とは違い、真剣な顔をした桜が真面目に意見を出した。
「確かにそうですね。でも、残りの一人はどうしましょうか?」
桜の意見に賛同した銀九は続けて桜に意見を求める。
「そうね……。攻撃力ならあんたが私たちより強いけれども、やっぱり経験が少ないのが問題ね」
銀九は戦い始めて一ヶ月も経っていない。
これの差は大きく、当日までにどうにかなるものではない。
「なら、ロブさんか桜かの二択になりますね」
絞られた二人。青とピンク。
両方とも攻撃のためというよりサポートのための力も持っている。
「……。私が降りるわ。ロブに出てもらう」
「なんだお前にしては随分弱気だな」
「そういう意味で降りたんじゃないわよ能無し。私は幻術を使った攻撃を主にしているけれども、それが通じなかったら確実に負けるわ。普通の戦闘は大の苦手だからね。その万が一のこたを考えると消去法で私は消えてロブが出た方いいという結論になっわけよ。理解できたかしら能無しさん」
「ぐ……まあ、何と無くわかったよ。じゃあメンバーは俺、シグレ、ロブの三人に決定だな」
真の確認に二人は頷いた。
「早いね。まだ三十分前だよ真ちゃん」
ヴァイスワールド内の学校の校門に着いた真たちを糸鵜川と二人の色怪が迎え入れた。
「やめろ。それだと糸鵜川先輩は待ち合わせ時間より早く来た彼女さんみたいだぞ」
「いや〜、ちょっといつもより早く目が覚めちゃって」
「その台詞もアウト!」
親指を立てて、糸鵜川に突きつける。
「なにやってるの真さん」
「いや、ちょっとしたコミュニケーションだよ」
少し糸鵜川のペースに呑まれて妙なテンションになってしまった真はロブの一言で我に返り、親指を元に戻した。
「じゃあ、とりあえず戦い方について話すよ」
「ちょっと待った!」
デデン!
止めたのはもちろんシグレだ。足を広げて手をパーにして前に出した。
「ん? どうきたのかな。そこの赤い人」
「赤い人じゃない私はシグレよ。それとなんであなたの指示に従わなくちゃいけないの。私たちに発言権はないの?」
どうやらシグレは糸鵜川にある今の流れを変えたいらしい。
というのも今のままだと、こちらな不利な要件を無条件に突きつけられそうだったからこうやって前に出てきてみせたのだ。
「そんなことは言ってないよ。僕は、というか僕と師匠は公平になるように戦い方を決めてきたんだ。それにこれは殺し合いじゃないんだから、そんなにツンケンしなくてもいいじゃないか」
糸鵜川はシグレに睨まれ続けながらもニヤニヤと笑う。
「こちらに損がないのなら……」
「いや〜理解してくれて嬉しいよ。さっそく戦い方を説明するけど、そんな難しいことじゃないだよ〜。一対一。個人個人の力量を知りたいって師匠が言うからこの学校のどこかで一対一に戦ってもらって戦闘不能になった方が負け。君たちが二敗になった時点で商品の知識は与えないと言ってるので頑張ってください」
知識。
今の真たちにとっては絶対に必要なものだ。特に新種の色怪のについては櫂音さんが調べても何もわかっていない。
「じゃあ、始めようか」
糸鵜川の一言で後ろに隠れていた色怪が前へと出た。
真は一目見た時は男かと思ったが、胸が少しだけ膨らんでいたので女性であることがわかった。
「私はヴァープ」
ヴァープと名乗った彼女の髪は紫色で腰まで伸びている。そしてその姿は何故か神秘的な雰囲気を漂わせていた。
それは彼女の服が白と黒のゴスロリだからなのかもしれない。
「そっちの一番手は?」
「もちろん私よ」
出たのはシグレ。
「二人とも揃ったようだね。なら西館に移動してくれ」
この学校は玄関と下駄箱が目印の北館、図書館がある東館、裏門に近い南館、理科室などの特別な教室が多くある西館の四つがある。
その他にも部室館と呼ばれる、軽音部などの部室があるところもあるがそこだけ修理されていないのですぐに壊れてしまいそうだし、何より狭くて戦いにくいので今回は使わないらしい。
そしてシグレとヴァープが戦うのは西館。
「頑張れよシグレ!」
「あんたに言われなくたってちゃんとやるわよ」
シグレは元気良く行くが、もう一人のヴァープは顔色一つ変えずに西館へと入って行った。
「おい。仲間なんだからなんか言ってやったらどうなんだよ」
ただ糸鵜川は彼女の背中を見ながらヘラヘラと笑っていただけ。何もしなかった。
「ヴァープちゃんとは個人的に仲がいいから来る前に言っといたさ」
「そうなのか……なら、いいけど全員にちゃん付けるのか? 女じゃなくえも男でも」
「何か誤解してるらしいけど僕は気に入った人しかちゃん付けにしないよ。むしろ光栄に思ってもいいよ真ちゃん」
糸鵜川の囁くよくなその声に背筋が凍る。
「そんな風には思わないよ絶対に」
「それは残念だ。でもね、彼女をちゃん付けしているのには気に入ったとか、強いとかは関係ないんだ」
「と、言うと?」
「可愛いからに決まってるじゃないか。あのゴスロリも良く似合ってる。まるで西洋のお嬢様だ。あの足になら踏まれてもいいとさえ思えくる」
この一言で真は確信した。
「やっぱりこの人、変態だーーーーーー‼︎」




