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カラープレデター   作者: 和銅修一
24/33

ゴールドディックトゥーラ③

 まだモヤモヤした気持ちは収まらない。

 戦いには勝てたが、結局逃げられてしまった。いくら探しても見つからなかったのだ。

「はぁ……しかしこれからどうしようか」

 今は普通に学校に来て廊下を歩いている。弁当を食べるために屋上に向かっている最中だ。

「そんな落ち込んだら駄目だよ真。ロブさんの記憶が戻ったし結果オーライじゃないか」

 隣にいた銀九が弁当を引き下げて(あき)れた顔でそう言う。

「ま、お前の言う通りなんだがな。なんか俺はああいう奴が嫌いなんだよ」

「真は偉そうな人とか苦手だもんね。先輩とかも嫌いだし」

「それはそうだけど。先輩でもいい人はいるさ。例えばシャリル先輩とか、シャリル先輩とか……」

「シャリル先輩しかいないよ」

「知り合いの先輩なんてシャリル先輩ぐらいしかいないからな」

 桜も一応先輩だが実際の歳がわからないので先輩とは思っていない。

「そうか一人いるではないか。この俺が」

「は?」

 凄みのある声。それは聞き覚えがある。

 後ろからしたので、振り向くと金髪でがたいがいい男が腕を組んで立っていた。

「ど、独裁王かお前……」

 この男を見間違えるわけがない。今は制服姿だが明らかに独裁王だ。

「おい柊 真。俺は先輩だぞ。礼儀がなってないぞ」

「知らないよそんなことは! なんでこんなところにいるんだよ」

 真は声を荒げて彼を指差す。

「これは俺の手下を増やすためだ。お前は人間だから他の王はそれを不満に思ってお前を殺すためにここに来る。そして自然と色怪が集まる。そしてお前に負けた王の手下の色怪は必ず王を求めるだろう。それを根こそぎ貰う。その為にこの学校に転入して来たんだ」

「それは無理があるだろ! そんな見た目の高校はいない。ただのおっさんだろ!」

「おっさん……。おっさんとは無礼だな。俺は先輩だぞ」

「先輩って人生の先輩ってことだろ。学校の先輩とは思えん」

「まあまあ、独裁王さんは戦う気ないみたいだしいいじゃない」

 今日の独裁王は殺気がない。それを汲み取った銀九は割って入った。

「そういうことだ。俺のことは気にするな。手下が十分に集まったら再戦を申し込む。お前はそれまでに生き抜くことだけを考えてろ」

「独裁王……」

「今の俺は独裁王ではない。金剛山(こんごうざん) 力也(りきや)だ」

 少しこちらを向いて名前を告げるとポケットに手を突っ込んで去って行った。

「あ、おい待て。まだ聞きたいことはあるぞ。すまん銀九、俺はあいつ追っかけるから先に弁当食べててくれ」

「あ、うん」

 真は銀九の返事を待たずして独裁王もとい

金剛山の背中を追いかけて行った。

 そんな姿を見ながら銀九はため息をついた。

「はあ、今日は自信作だったのに」

 あの必死な様子からしてもう今日の昼休み中に屋上には来ないだろうと、銀九は諦めて一人で屋上へと歩いって行った。




「はあ、はあ。見失った……か」

 何も考えずに走ってきたが金剛山には全く追いつけなかった。

「ていうかここはどこだ?」

 右往左往に首を巡らせて現在地を確認する。

 そしてここが三年のところが判明した。

「君、君。これ落としてるよ」

 そう話しかけてきたのは髪の毛がツンツンとしていて全体的に細い男の人が真の弁当を突き出して立っていた。

 金剛山を探している時に落としてしまったのだろう。

「あ、すいません」

「いいよ、いいよ。でも一ついいかな?」

「なんですか先輩」

 この学校では一年生が青、二年生が緑、三年生がオレンジ色ののスリッパを履いているので一眼でわかった。

「先輩なんて固っ苦しいのはやめてくれよ。僕の名前は糸鵜川(いとうかわ) (みのる)。好きなように呼んでくれ」

「そうですか。なら糸さんなんですか?」

「それは略し過ぎじゃないかい真ちゃん」

「そんなことないです……ってなんで僕の名前知ってるんですか?」

 この人とは初対面だ。すれ違ったこともない。そんな人がなぜ自分の名前を知っているのか。

 真の中で違和感が湧き出してきた。

「まあ、まあそんなことどうだっていいじゃないか真ちゃん」

「それとちゃん付けで呼ばないでください。気持ち悪い」

 女性にそう呼ばれると恥ずかしいが、男性となるとなんだか寒気がする。

「気持ち悪いとは失礼だね。でもいいさ。それよりも柊 真ちゃん。僕と決闘してくれないか無王として」

「王を知ってるんですか? ということは先輩も?」

 真の疑問に満面の笑顔で答える。

「そう僕は弱王。君を試しにやってきた」

「試す……一体なんのために?」

 今まで戦ってきた王はアグが欲しいだとか、無王である真の抹殺とか明確な理由があったが彼はあやふやだ。

「それは今のところ詳しくは教えられないんだけどこれは何でも知ってる僕の師匠の頼みなんだ」

「でもそれを受けるための理由が僕にはありませんよ」

「そんなことぐらい承知しているよ。だから真ちゃんが勝ったら商品として知識を与えよう」

「知識?」

 商品と言っているのに形ないものなのはいささか変だ。

「そう知識。僕の師匠はなんでも知ってる。たとえそれが新種の色怪であってもだ」

「知ってるいるのかあれの正体を」

「知ってるよ。僕の師匠はなんでも知ってるからね。それにあれは真ちゃんにしか処理できないものなんだ。それとオマケとしてもう一つ知りたいことを僕の師匠が教えてくれる。どうだいやる気になったかい」

 手を(あご)に乗せて考える。

 彼が言っていることに嘘はなそうだ。それにこちらが負けた場合の条件はない。つまり得はこちらにある。

 ならばその得が欲しいと思うのは人の(さが)だ。

「わかった。その挑戦受けて立つぜ」

 この台詞、一度は言ってみたかった。まさかこんなところで夢が叶うとは。

 結構、気持ちいいものだ。

 一方の糸鵜川も楽しそうにニヤニヤしている。

「そう言ってくれると思ったよ。じゃあ、対戦の方法を教えるよ 」

 ゴクリと唾を飲む真。

 これでこの先のことが決まるのだ。緊張は隠せない。

 だが糸鵜川が放ったのは意外な一言。

「女子は全員メイド服! あのヒラヒラで可愛い姿。これでご主人様なんて呼ばれたらイチコロだよ。どう? これで僕と真ちゃんの士気が上がるってものでしょ」

「は?」

 あまりにもぶっ飛び過ぎていて彼についていけない。ただ、疑問と不快を吐き出すことにかできない。

「そうか、真ちゃんはメイド服はお気に召さないか。なら、ナース姿でどうだい?あの何もかも包み込んでくれるような抱擁感、甘えたくなる魅惑な容姿。それにこれは戦いだから服が破けるなんていうハプニングも……」

「あの……」

 金剛山とは違った妙な威圧感に押しつぶされて、何も言えないでいた真は小さな声で糸鵜川へ(ささや)きかけた。

「ああ、ごめんごめん。ちょと熱くなりすぎちゃったね」

「あれでちょっとだと……」

 本気を出すとどれだけ語るのだろうと気になりはしたが、残念ながらそういった話はお断りだ。

「じゃあ、本当の対戦の方法を伝えるよ。人数は王を合わせて三人。場所はこの学校。勝利条件は相手の王を戦闘不能にすること。そして特別ルールとしてこの戦いでは殺しは無し。君たちに死なれたら困るし、試すためだけにこっちがやれたら嫌だからね」

 特別ルールは素直に有難(ありが)い。

 最初から殺すつもりなんてなかったが、それでも糸鵜川側が殺しに来たのならそう応えなくてはいけなかったからだ。

 その時の結果に責任は取れない。

「日時はいつですか?」

 そして重要な日にちと時間。

 彼は考えていなかったのか少し考える。

「ん〜? 二日後の一時にしよう。夜中なら家をこっそり抜け出してすぐ帰ればばれないでしょ」

「そうだな。そうしよう」

 キーンコーンカーンコーン。

 聞き慣れた音が天井から鳴り響く。

「では二日後の一時にまたね真ちゃん」

 糸鵜川はチャイムに促されて自分の教室へと戻って行きながら真をからかう。

「だからその呼び方やめてください」

「はいは〜〜い」

 後ろを振り返ることなく、手をヒラヒラして何事なかったように去った。

「あの調子だと絶対やめないな」

 また嫌いなちゃん付けで呼ぶ人が増えてしまったと深く肩を落とした。

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