ゴールドディックトゥーラ②
「仲間に恵まれているようだな無王。だが王は力がなくてはいけない。さあ、証明して見せろお前の力」
独裁王の呼びかけで騎士たちは動き出した。
「来るわよ!」
こちらもシグレの号令で動き出す。
騎士の数は五十を超えている。その大群にシグレは一人で突っ込んで、十分近づくと空へと飛んだ。
「喰らえこの金ピカ野郎!」
巨大な赤の腕を振り下ろし騎士たちに命中して、宙へと舞う。
色エネルギーの消費を抑える為、炎は出さない。出さなくても倒せるとシグレは判断したのだ。
「僕も負けてられないよ」
銀の玉が騎士の胸へと突き刺さる。
次々と銀の玉を産み出して鎖で操り、騎士を倒していく。
桜も綺麗な刀さばきで騎士と戦う。その刀にはピンク色のオーラのようなものが纏われている。
こちらもシグレ同様に色エネルギーの消費を抑える為に幻覚を使っていないのだ。
だが、彼女は幻覚の中でこそ本領が発揮される。不利な状況で桜は苦戦している。
「こうなったら俺も……」
「駄目です真さん!」
いつもは冷静な彼女が声を荒げた。
「ロ、ロブ……。だけどあの金色の騎士は数が多すぎる。俺も参戦して一体でも多く倒さないと」
「それでは駄目なんです。あれは金色さえあればいくらでも作れます。きっと独裁王は何らかの形でそれを用意しています。たとえここにいる黄金騎士を倒したとしても色エネルギーを無駄に消費するだけです。ですがこれは独裁王が倒れれば自然と消えます。ですから真さんは私たちのために一人で独裁王を倒しに行ってほしいんです。ここは私がどうにかしますから」
「どうにかって、できるのかこの数の敵をどうにかできるのか?」
「はい任せてください。なので真さんは独裁王の所へ。私たちの様子を伺うために高いところにいるはずです」
「わかった頼んだぞ」
ロブを信じて走り出す。行き先は騎士たちが来た方向にあるマンションへ。
しかし騎士が道を塞ぐ。さらに剣を振り下ろされた。
「おっと」
真はそれをなんとか躱す。
鎧が重いのか騎士は素早い行動や攻撃出来ないらしいが数でそれをフォローしている。
「皆さん下がってください」
ロブが後ろで全員にそう呼びかける。
みんな頷いて後ろに飛んだ。真も一瞬遅れて後ろに飛ぶ。
「アクアウェーブ!」
技の名前を高らかに叫ぶと全員の目の前から水が溢れ出てきて、それが騎士たちに襲いかかる。
範囲が広すぎ、動きの遅い騎士はそれを避けることはできなかった。
だが水の波が収まると騎士たちは何もなかったように起き上がった。
「真さん、これで大丈夫です。独裁王の元へと行ってください」
「わ、わかった」
正直、騎士にはダメージがなく何のための攻撃だったか不明だが彼女にも考えがあるのだろう。
それを信じたい。仲間だから。
ロブを信じて走り続けると金色の壁が立ちふさがった。
「くっ」
やはり数が多い。必ず前にいる感じだ。独裁王は真を徹底的に狙っているのだろう。
「そのまま突っ切ってください」
ロブの声が後ろから聞こえた。
それに応えるように目の前の金色の壁へと突っ込んで行く。
騎士も動く。剣を縦に振る。
しかし、それはさっきと比べると、とても遅かった。まるでスローモーションのようにのんびりと動く。
もちろんそんな攻撃は当たることはなく、真は軽々と先へと進んだ。
「これはなんだ? もしかしてロブが使ったあの技の効果か?」
それしか考えられない。あのアクアウェーブという技が炸裂してからこの騎士たちの様子がおかしくなったのだから。
「よし! 行くぜ」
これはチャンスだ。騎士と騎士の間をスルリと抜けて行く。
「あいつを倒してきなさい真!」
「ここは僕たちに任せて早く行って」
「一丁前に私たちの心配なんてするんじゃないわよ屑虫」
彼女ら達らしい声援が真の背中に集まる。
「おう! 虫じゃないけど独裁王をボコボコにして連れてきてやるよ」
グッと右腕をあげて応えながら足の動きをさらにを早める。
「思ったより早かったな無王」
金髪で高価そうなマントを羽織り、仁王立ちしている男が真の方を向かずにそう呟いた。
「お前が独裁王か?」
「そうだ初めましてだな無王。正直驚いているぞ。あのロブを手懐けて我がものとするとはな。人徳というやつか。俺にはないものだな。どうだ俺の仲間にならんか? 俺が王になった暁には副王として雇ってやるぞ」
副王はその名の通り、王の下のことだろう。独裁王はどこかで彼を認めた証拠だ。
「残念だが俺の仲間をもの扱いするやつは手を組みたくない。他を当たってくれよ。って、そんなやついないか。お前友達いないんだし」
しかし、それはあっさりと拒否されてしまった。
真はまたロブを“もの”と言ったこの王に苛立ってしまい、きつい言葉で返して、この人とは絶対に合わないと心底思った。
「ほう、断るか。実に勿体ないな。俺にはない才能を持ってるんだ。それを最大限に使って俺に尽くしてくれたら良い世界が作れると思ったんだがな」
「ふん、どうせお前が作る世界だ。ろくな世界にならないと思うぜ。なんせ独裁王なんだからな。お前が見下した民衆に殺されるのがオチだ」
この世界の独裁者もそうやって終わってきた。ならばヴァイスワールドの独裁者も同じ運命を歩むことになる。
これは道理だ。
だが、独裁王はそれを聞いて高笑いする。
「ハッハッハッ! 知っているぞ。だがそれはそいつらに絶対的な力がなかったからだ。俺みたいな力でねじ伏せなけばいけないんだよ。こんな風にな!」
横にあった荷台の金塊が記憶が詰まった色エネルギーを取り込んだ時のロブのように輝いて、真の前に大量の黄金騎士が現れた。
「これが、金之独裁だ。さあ、来い無王! この俺を楽しませてみせろ」
手を広げ、大げさにアピールする。
彼に言われて仕掛けるのは嫌だが我慢して真は騎士の元へ向かった。
騎士の数は廃墟を取り囲んでいたものより少なく十か二十程度だ。
それ以上の数の金塊を彼は持ってきていたがどうやら騎士を召喚するのには金塊一個分の色エネルギーでは足りないらしい。
それでも数はあちらが上。固まって真に襲いかかる。
斧を引き下げた騎士がそれを真の頭目掛けて振り下ろとした時、それよりも早くあるものを投げた。
炸裂したそれは水を発して目の前全ての騎士をずぶ濡れにした。
「それはロブの色……。なるほどこれを見越して隠し持ってきたか」
そんな独裁王の独り言は彼には聞こえない。
もはやただの塊と化した騎士を抜いて独裁王へ一歩一歩走って近づく。
「金之独裁では分が悪いようだな。なら、貴様の中の記憶を飛ばすとしようか」
走り、近づく彼を動じずに見つめてポケットに潜ませておいた手のひらに収まる金塊を出した。
「喰らえイクスティンギッシュメモリー」
突き出された金塊は真の頭を狙う。ただまっすぐ走る真はそれを避けることはできずに金塊に触れそうになる。
勝利を確信してさらに金塊を押し込んだが当たった感触はなかった。空振りの感触。
「ぬぬ!」
そして独裁王は目を見張った。金塊は彼の頭を通り抜けているのだ。
「かかったな独裁王」
消えた真は左横から突然現れた。そして手に持った赤色を強く叩き込んだ。
「燃え尽きろーーーーーーーーっ‼︎」
独裁王はジリジリと灼熱の炎を感じた後、浮遊感を感じた。
そして気づけば仰向けになって倒れていた。
そして見えたのが白い空とピンク色の玉。その玉は小さい色エネルギーをばら撒いている。
「確かピンクは幻を見せる不思議な力があったな。こんな罠をあの一瞬で作るとはなかなかやるではないか。お前名前は何だ?王としての名前でなく、人間としての名前だ」
「柊 真だ。お前はなんだ独裁王」
「俺か? 残念ながらなくてな。次会う時までに考えておこう」
「次……だと」
嫌な予感がすると独裁王は煙をあげて消えてしまっていた。
緊急退去。膨大な色エネルギーを費やせば場所は不定だが人間界へ帰れる。つまりまだ本気を出していなかったということになるわけだ。
「クソ! 今度は容赦しねーぞ」
色のない空に向かって真は叫んだ。




