ゴールドディックタトゥーラ①
「あれが無王か」
金髪でがたいのいいマントを羽織った男は
とあるビルの屋上で廃墟にいる者たちを見下ろす。
彼はこの見下ろす感覚が好きでたまらない。自分が優れていると実感できる時だ。
「ロブは上手いこといったようだし、無王も大したことはなさそうだな。これを持ってくるのは少々骨が折れたのだが必要なさそうだな」
これ、とは彼の背中にある台車のことでその上には山盛りの金の延べ棒が異様に佇んでいた。
廃墟の中は混乱で満たされていた。
「お、おい何言ってんだよ。俺を殺すだなんて嘘だよなロブ」
真の目は虚ろとなっていた。
「下がりなさい愚人!」
真を自分の背中へと追いやった桜は刀をロブへと向ける。
「おい桜。お前も何やってんだよ。ロブは俺たちの仲間だぞ」
「仲間? 遂に頭も腐ってしまったのかしら。それとも耳が腐っててさっきのが聞こえてなかったのかしら?このメスはあなたを殺すと言ってたのよ。そんなのをよく仲間と呼べるわね」
「何かの聞き間違いだ! な? そうだろロブ」
ロブに必死に話しかける。
「ま、真……」
しかし、その顔はあまりにも惨めで、絶望していて銀九が止めようにもその顔は止まらない。
「真、諦めなさい。こいつは独裁王の手下だったのよ。私たちを取り囲んでいるあの金色の騎士軍団が証拠よ。あれは独裁王が産み出した色の兵器。一体一体が極力で危険でそれらを操る独裁王は金の独裁者と恐れられているわ」
その言葉は彼に聞こえたのか、ガクリとうなだれた。
「……………………」
パシン!
甲高い音が廃墟中に響いた。真が自分の頬を叩いたのだ。頬が赤くなるほど思いっきり叩いた。
「よし!」
彼の目はもう絶望などはしていなかった。純粋でまっすぐ。それが彼の本来の目。
「真……大丈夫?」
真っ先に声を掛けたのは銀九だ。彼があんな顔をしたのは初めて見たからかなり心配していた。
「ああ、大丈夫だ。すまんな銀九」
少し涙目になった銀九の頭を撫でてやる。
「どうやら決めたようね。あれを殺すかどうするかを」
真の目を見てシグレはそう確信した。
「殺さねーよ」
答えるのに数秒かからなかった。
「即答……なんであんたはそうなのかしら」
呆れ返って桜は深いため息をついた。
それを尻目に見て真はぶつくさ呟き続けているロブの元へと進む。
「なあ、ロブ。お前が独裁王の仲間だろうとそうでなかろうと関係ない。お前はどうしてここに来て裏で何があったのかは知らないけど俺はお前を受け入れる。お前はもう俺の仲間なんだからな」
笑顔。
真は彼女に殺意ではなく笑顔を向けた。その笑顔は友達と楽しんでる、そんなような笑顔だ。
「う、う……ころ……」
そこで光は止んだ。彼女の中へと吸い込まれるように消えていった。
「ま、真さん……私……私はね。義理堅い女なの。だからあの偉そうな王にも従ってきたわ。でも、もう限界。私は真さんを殺したくない! 一緒にいたい! だからあいつを裏切って私はあなたに忠誠を誓うわ。無王、柊 真。私の命に代えてでもお守りします」
さっきとは打って変わって冷静だ。それが彼女、青の色怪ロブだ。
「ありがとう信じていたよロブ」
「真さんのおかげです。頭の中で何か広がっていると思ったら真さんの声が聞こえたんです。それがなかったら私はどうなっていたか……本当にありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて謝る。
「おいおい、やめろよ恥ずかしい」
これで本当の仲間となってくれたのは嬉しいが、さすがにかしこまっしまう。
「ちょっと、いつまでやってんのよ。敵は待ってはくれないわよ」
そう問題は解決していない。
独裁王が産み出した金色の騎士たち。一歩、一歩踏みしめながらゆっくりと近づいてくる。
数は一つだけではなく、武器もそれぞれ違っていて剣やら槍を持った騎士だ。
奴らの兜にある隙間から影が見える。
「聞こえているか無王とその仲間ども」
騎士から声がした。しかし、その後ろに誰かが隠れているわけでもなく、騎士自体が喋っているわけではない。
「お前……独裁王か?」
聞いたことのない声だったが、上から見下してくるような声にそうではないかと思った。
「そうだ。今この騎士を通じて話している」
どこにいるか悟られないためだろう。尻尾はなかなか出してくれないらしい。
「なんか用か独裁王。こんなに大勢の友達自分で作ってそんなに一人で来るのが寂しかったのか?」
真はこのロブの記憶を奪い、無茶苦茶にしようとした奴を許せずにイライラしている。
「ほう、口だけは達者だな。緑王ごときを倒したからといってそんなに粋がるとは子供だな」
確かに緑王戦は真の自信を高めたが、それで粋がっているわけではない。この男に弱さを見せたくないのだ。もし見せてしまったらそこをつかれてロブみたく、いいように操られてしまうと直感でわかったらだ。
「そんなことよりも友達のいない独裁王。ロブに色々してくれたみたいだな」
「そうだな。それを使って貴様らに不意打ちしようとしたのだが、無駄だったようだな。記憶を抜き取って、無王がいるこの街まで運んで、無王と引き合わせる。今までの苦労が水の泡となってしまった。さらに裏切るとは。全く、使えない」
「おい、さっきからロブを物扱いしてるんじゃねーよ」
それ、と呼んでいる。せめて奴、なら許せてもののそれではあまりに可哀想だ。
「面白いことを言うな。色怪とは色を食う怪物。つまり物ではないか。怪の後に物がついているのだから」
「なら、人物も物なのか」
「そうだ、物だ。そこら辺に落ちているゴミとなんら変わらんさ」
イライラか積もる。
「なら、お前はどうなんだよ。王でも一応は色怪の部類に入るんだろう」
王は色怪のオス。つまり色怪だ。
「それは違うな。俺は王として産まれてきた。色怪などではない。格が違うだよ、格が。王は絶対的で最強。これが物でない証、強さだ。お前も王の端くれだろ。俺の気持ち少しはわからるんじゃないのか?」
「わかるわけないだろ馬鹿」
考えるまでもなく、そんなこと思ったことは一度もない。
シグレたちを大切な仲間と思い、立場は同等であるといつも考えている。いつもそうやって接してきた。
「色怪だろうと王だろうと生きてれば、それはもう物じゃない。それに心があれば人間。色怪だってこいつらみたいに人間になれるんだ」
色怪だとか人間だとかの境目は知らないが、真はそう信じてる。心があれば人間とは変わりない。
「ふぅ、全ての色を操れると聞いたから期待して来たのだがどうやら俺の思い過ごしのようだな」
その後、炎の拳が真を過ぎて独裁王の声がしたり騎士へと放たれ爆発した。
「私たちの王を侮辱するんじゃないわよ。あんた、骨が残らないように燃やすわよ」
他のみんなもシグレ同様に攻撃態勢に入っている。新しく仲間になったロブも含めて。
「それは宣戦布告と受け取っていいんだな紅蓮の巨人よ」
まだ、黄金の騎士は残っている。別の騎士から声が聞こえた。
「ええ、そうよ。逃げ出すなら許してあげなくもないけどどうする?」
紅蓮の巨人と呼ばれたシグレは不敵に笑いながらそんなことを言ってみせた。




