ロイヤルブルー⑦
「くっ、肋のニ、三本いったか……はっ!」
今のは真の寝言だ。
あの後うなされながら寝るような気絶していたのだ。
「あんたどんな夢見てたのよ」
「シグレ……」
気がつくと隣にはシグレが座っていた。首を回してみるが他には誰もいない。
「他のみんなは例の色エネルギーを探しに行ったわよ。私たちはここから一番近いところにある色エネルギーの保護。それが済んだらここで集合するわよ」
頭がガンガンする。手で押さえながら立ち上がった。そしめ今、気づいたのだがここは幽霊が出ると有名な廃墟だ。
だが、恐ろしい色怪を見たことのある真は幽霊やそういった類はもう怖くはなくなっていた。
「シグレ、知ってるか? ここは幽霊が出るらしいぜ。なんでもここで自殺した人がいてそれからというもの怪奇現象が次々と起こるようになったんだ。それで土地の値段が下がったら困るということである会社がこの廃墟を壊そうと工事を始めたんだけど、次々と負傷者や死人も多く出たんだ。それからというもの工事は中断され、ここは呪われた廃墟として有名なんだ」
それらしく。本当のことは知らないのだが、即席で作った怪談話を披露してみた。
「な、な、何言ってるのよこんな時に。そ、そ、そんなゆ、ゆ、幽霊なんているわけないじゃない」
…………………。
少しからかうつもりで言ってみたのだが、シグレは本気で怖がっている。
「へ〜、シグレには弱点がないと思ってたけど、まさか幽霊が苦手だったとは」
いつも寡黙で冷静で厳しく、時には炎のように激しくなる彼女にこんな弱点があるとは。
「怖くなんかないわよ!」
「いや、苦手って言っただけで怖いかどうかは聞いてないけど」
「うっ、うっさいわね!燃やすわよ」
ボッとシグレの右拳が燃える。
「ご、ごめんごめん。じゃあ早速探しに行こっか」
小さく頷いて、シグレは炎を消した。
立ち上がりシグレとこの廃墟を出ようとした時、不意にガタンッと何かの音がした。
「きゃーーーーーーーー‼︎」
廃墟にシグレの悲鳴が響き渡る。
そしてシグレは真の体に抱きついた。
「イヤイヤ! お化けとかは嫌いなのよーーー!」
怖さで、本性が口に出てしまっている。それに少し涙が浮かび上がっている。
「シ、シグレ……さん。む、胸が当たってる」
体が引っ付きすぎて柔らかい胸が真に当たっていた。
「う……ほぉぇ……」
情けない声で上を見上げる。真からの目線だと、シグレは涙目で上目遣いしていることになる。
「ひゃ! こ、これは」
正気に戻ったシグレは自分の今の姿を目の当たりにした。情けなく、女の子らしく、真に涙目で抱きついていている自分を。
「真……何やってんのよ‼︎」
いつもの口調に戻ったシグレは胸を手で覆って、余りの右腕で真の顎へ向けアッパーを放つ。
「くべんばっ!」
拳は見事狙い通りに顎に命中して真は後方へ吹き飛びながら意味不明な叫びをあげた。
「最近、俺の扱いひどくね……」
真は理不尽なこの人生を憎んだ。
桜は一人で、残った銀九はロブを見張りながら例の三つに分かれているうちの一つの色エネルギーを探すことになった。
そして桜に教えられた場所。デパートの屋上に来ていた。
いろんな遊具、ヒーローショーができるような舞台。
「あ、あれですかね」
ロブが指差す、屋上の中心にはに青くて丸い物が宙に浮いている。
「はい。それですね」
ちゃんと色エネルギーを感じられる。これで間違いないだろう。
「とりあえず集合場所まで持って行きましょう」
持つのはロブ本人だ。その方がなんとなくいいだろうと銀九は思ったからだ。
「あの……ここでもう自分の中に戻すっていうのは駄目ですかね」
ロブは数秒自分の記憶の塊の一部を見つめた後、銀九に弱気で提案するが銀九は迷いなく首を横に振る。
「それは駄目だよ。それは三つ全部合わせて三つ一気に体に取り込まないといけないって母さんが言ってたし」
「そうですか……なら仕方ないですね」
明るく振る舞っているが誰の目から見ても彼女は焦っている。
「さ! 集合場所に向かお」
「うん。そうだね」
やはり彼女の明るさには影がある。まだ何かを気にしている。
だがもうそれもこれを持ち帰ってしまえば全てが終わる。記憶が戻ってスッキリするだろう。
彼女は自分にそう言い聞かせて、集合場所であるあの廃墟へと向かった。
シグレに怒られた後、二人は少し離れた場所にある公園に来た。
「あれだなロブの記憶は」
正確には独裁王がロブから記憶を色エネルギーとして抜き取ったものだ。
それはジャングルジムの隣にある砂場にフワフワと浮いていた。
「でもこれって触れるのか? 色エネルギーとかは触れるイメージがないんだが」
いつもはスワイプ能力で操っているのだが実際に手で触れて動かしたり何かしたりしたことはない。
「触れるわよ。私たちが技を使う時とは違ってこれは色が物体として具現化されている物だから大丈夫よ」
「そうか……じゃあ、ってつめてえ!」
丸いそれに触れた時、真は持ち上げることができずにポロリと落ちてしまった。
幸い、色エネルギーは壊れていない。硬くもなく柔らかくもないこの色は壊れることは知らないだろう。
「何やってんのよ」
「す、すまん。思ってたより冷たくて」
まるで深海の水に触れたように冷たい。
「それを持って早く帰るわよ。それと一つ忠告」
「ん、何だ?」
「あのロブっていう色怪には気をつけなさい 」
「気をつける?何でだよ。ロブはいい奴だぞ」
「それは記憶を失くしているからじゃないの。名前しか憶えていない。初めて見た、初めて優しくしてもらったあなたに懐く。まるで彼女は赤ん坊のようなものよ。だけど記憶を取り戻したらどう? 必ず本性を表すわ」
シグレの目は鋭く、本気だ。ひと時の気の問題でそんなことを言っているのではない。
彼女が必要だと思ったから彼にそう告げているのだ。
「なんでそこまでロブを疑うんだよ」
だがもう既に真はロブを仲間の一人だと思っている。そんな仲間を疑われては腹が立つ。たとえ相手がシグレであれ。
「だって話が上手く行きすぎなのよ。独裁王に記憶を奪われてあなたに助けられるなんて。まずあそこにあんたがいなかっらロブは死んでたでしょうね」
「空腹でか?」
ロブと初めて会った時のことを思い出す。
「そうよ。エネルギーがなくなって塵のようにこの世から消えていたわ」
色怪が空腹で死ぬとどんな風になるのか少しは気になったが、それ以上に聞いたら後悔しそうな気がしたのでそれはやめた。
「確か……あんたが前に言ってた話だとポリバケツの色を食べさせたんでしょ」
「ああ、そうだが」
面積的にと広かったし、それ以外に青のものが見つからなかった。
「普通ならそれだけだと足りないわ。なんせエネルギーを抜き取られた後なんだから。でも都合良く王の素質を持つあなたがいた。説明する必要がないから今では言ってなかったけど王には共通した能力があるわ。それは色エネルギーの底上げ。あなたが触れたことによってポリバケツの青色のエネルギーは底上げされて、それだけであの女の腹を満たすことができたのよ。これが上手く行きすぎてるのよ」
「そうか?」
「そうよ! それにまず記憶を失くしてなんでこんなところに来たのが怪しいわ。独裁王はもっと遠いところで活動してるはずなのにどうしてこんなところに来たのかしら?とにかくあの女には気をつけなさい。いいわね!」
「はいはい。わかりましたよ〜」
シグレの忠告はもっともだ。だけど仲間を疑うのは少し気が引ける。
心の内にとどめておくことにした
「これで全部か」
最後に廃墟に戻ってきたのは一番遠い場所にあるものをとってきた桜だった。
三つの玉が揃った。
「これってどう戻すんだ?」
「普通に食べるのよ」
「なんだそんなのでいいのか」
てっきり大きな龍が出てくるかと思った。
ちょっと裏切れた感があって、残念だ。
「それじゃあ、行きます」
ロブはコグリと唾を飲み、それを合図に記憶が入った色エネルギーを吸い込むように食べた。
食べ切ると体が青く輝き出した。
「記憶とエネルギーの処理をしてるんだわ。一気に食べるからこうなるのよ」
桜は眩しそうに目を逸らす。そしてその先にも輝くものがあった。
「ちょっと、な〜にあの趣味の悪いものは」
金色に輝く西洋の騎士の鎧の形をした何かがこの廃墟を包囲していた。
「ロブ逃げるぞ!」
処理中だろうと構わない。逃げなくては。
だがロブの一言に差し伸べようとした手が止まった。
「殺さ……なくちゃ……」
「え?」
「無王を……柊 真を殺さなくちゃ……」
体は眩しいくらいに輝いているのに目はまるで深海のように底が見えない闇となっていた。




