ロイヤルブルー⑥
「ん、朝か……」
真は目をこすりながら起き上がる。
今日、ロブが独裁王に抜き取られた記憶を探しに行く日だ。だが、なぜか妙に嫌な予感がしてならない。
「まぁ、考えてても仕方ないか」
布団から出て、下へと行こうとしたが違和感に気づいた。何かがもぞもぞと動いているのだ。
バッと、布団を引き剥がすとそこにはパジャマ姿のロブがいた。
「な、な、なんでロブこんなところに!」
「ん〜、あ、おはようございます真さん」
その真の大声叫びでロブはゆっくりと起きた。
「おはようございますじゃないよ。何で俺のベッドに俺がいるんだよ」
昨日は柑奈が風呂場に、今日はロブがベッドに入って来た。ハプニング続きだ。
「ああ……、私あのまま寝ちゃんたんですね。すいません。昨日の夜、何だが不安になってしまって落ち着く為に真さんのベッドに潜り込んだんです。落ち着いたら戻る予定だったんですがそのまま寝ちゃったみたいですね。テヘッです」
「テ、テヘッてお前……」
だが、まあいきなり記憶喪失になって戻るには戻るのだがその記憶がいい記憶なのかはわからない。心配になるのは仕方ない。
「てっ、良くなーーーーーい! は、早く部屋から出てくんだ。じゃないと奴が……」
ダンッ。しかし、遅かった。もつ奴は……柑奈は現れてしまった。
「起きたらロブさんの姿ないのでおかしいと思ったらこういうことだったんですね兄さん」
まるで魂が抜けたかのようにゆらゆらと体を揺らしながら、近づいてくる。
「いや、何か誤解してるぞお前! これはだなほら、昨日の時みたいな不慮な事故で俺にそういった感情は一切ないんだ」
「そうですか。女とベッドといてもそれは兄さんにとっては普通だと」
柑奈は出て行くロブと入れ替わりに入ってくる。その足音は真にとって恐怖以外の何物でもない。
「話聞いてないでしょ! ちょ、ま……」
「どうしたの真。何か行く前からボロボロなんだけど」
真は朝食が済んだ後、アグを残してロブと逃げるように隣の家に駆け込んだ。そして今、櫂音さんの部屋へと入った。
銀九が気にかけるのも無理はない。真の顔は蜂に刺されたようにパンパンに腫れているのだ。
結局、あの後は柑奈の誤解が解けず酷い目に遭った。二日連続となると気が滅入る。
「あら、でも最初からこんな感じじゃなかったかしら? この愚人は。むしろ良くなったかもしれないわ」
桜は相変わらず心配などしていない感じだ。
逆に気にかけてきたらそれはそれで気味が悪い。
「ふん、どうせまたあんたが悪さしたんでしょ」
シグレは相変わらずの仏頂面だ。
「俺は何もやってない。それよりシグレはその仏頂面をする癖をやめろ。嫌われるぞ」
「うっさいわね。あんたはそんなこと気にしないでこれか死なないようにすることだけ考えてればいいのよ。ったく……誰のせいで仏頂面だと思ってるのよ」
「最後の方聞こえなかったけど何て言ったんだ?」
「いいわよ! も〜、櫂音さんお願いします」
シグレは櫂音さんには敬語を使う。前仕えていた王の妻だからだろうか。
櫂音さんはそんなこと気にしないだろうに。
「は〜い。まこちゃん気をつけね。色エネルギーがある場所は桜ちゃんに伝えておいたからちゃんと言うこと聞くのよ」
まるで遠足に行く自分の息子に言い聞かせるようにそう言って、猫を投げた。
「行ってらっしゃ〜〜〜い!」
だからこれは動物を愛する団体に訴えれるから。
心でそう思いながら意識を集中させる。
銀九、シグレ、桜、ロブは真に触れる。ロブなんかは腕を組んでいる。
それに少し心を動揺させながら何とか堪えてヴァイスワールドへと向かう。グルグルとグルグルと猫に吸い込まれて。
「ちょ、ロブ。くっつく過ぎだって」
なぜがロブは腕を組んでままの状態で動かない。
「す、すいません。記憶を失ってからヴァイスワールドに初めてくるから緊張しちゃって」
グッとその組んでいる腕に力が入る。
「いてて!」
女性とは思えない馬鹿力で締め付けられて真の腕には激痛が走った。人間ではなく怪物なのだから仕方ないのだがこれだと真の腕はちぎれてしまう。
「ロ、ロブさん! 真が死んじゃうよ」
間に入った銀九が腕を離させて真を自分の方へと引き寄せた。
「す、すいません」
「不安なのはわかりますけど、これだと真が可哀想ですよ」
ロブは俯いて反省する。
「銀九そんな鈍感野郎にやきもちを妬いちゃって。本当に苦労が絶えないわね」
「さ、桜さん!」
なぜが慌てる銀九を見て、桜は面白そうに笑う。その笑顔はとても美しく、いつもそんな感じだったら何も問題はいのにら本当に残念だ。
二人の穏やかなその口論を眺めているとロブが申し訳なさそうにソロソロと近づいてきた。
「あの……真さん。すいませんでした。真さんの近くにいると心が落ち着いたのでもっと近づいてきたと思ったのですけど私なんかにそんな権利ありませんよね。記憶もないし、力もないし……」
記憶と力がなくなって自信暗記になっている。それは独裁王のせいだというのに。
「そんなことないさ。ロブにも権利はある。人権は適応されなくても、生きてるからには自由に生きる権利がある。ロブが自由にやりたいようにすればいいさ」
「真……さん。じゃあ、思いっきり抱きついてもいいですか?」
意味不明な、唐突な質問に真は少したじろいだ。
「ん〜……それで気が晴れるなら一回ぐらい」
迷ったが、このまま元気がないままだと、記憶を戻す時に支障をきたす可能性があるので彼女の願いを受け入れた。
「真さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん‼︎」
目にも留まらぬ速さでロブは頭から突っ込んできた。
「グッボ!」
しかし、彼の腹にもの凄い衝撃が走った時そうかこいつは遠慮を知らないんだ、と今更ながらに気がついた。
「ま、真!」
それを目撃した銀九は叫びに近い声をあげて倒れた真に近づくが遅かった。既に真は気絶している。
しかもロブがその気絶している真に容赦無く体を擦り付けていて手を出せない。
「一体なにやってるのよこのエロ助は」
「わかりませんが、多分ロブさんを励まそうとした結果だと思いますよ。そういう人ですから」
「それで自分が気絶してたら世話ないわね」
シグレはその様子を見てまた仏頂面になる。




