ロイヤルブルー⑤
結論から言わしてももらいますと柑奈は快くロブを迎え入れてくれました。
どうやらアグちゃんがまた色エネルギーで彼女のイライラを取り除いてくれたようだ。
そして今は久しぶりに四人で食事をしている。だが他の二人は両親ではなく、アグとロブ。それでもいつもと比べるとずっと賑やかだ。
「柑奈さん。真さんって昔はどんな人だったんですか?」
特にロブが妹である柑奈から兄として真の譲歩を引き出そうとしている。
「そうですね。今も昔も変わってないですよ。自分から問題に突っ込んで行っちゃう人でした」
それに柑奈は普通に受け答えていた。まるで嫁、姑みたいな感じで話に入れ込めない。
だが二人は真がいるのをお構いなしに話は食事が終わるまで続いた。
「はあ……」
落ち着けるのは風呂ぐらいだ。
今までの疲れを吐き出すようにため息をついた。
ここんところ、挑戦状を受けたり王と戦ったりで心を休めることなんてできなかった。
目を閉じて今日は体を休める。明日はいよいよヴァイスワールドに赴いて例の色エネルギーを確かめなくてはいけない。
それに桜の言っていた独裁王が関係しているのは間違いなさそだから、戦うということになるのかとしれない。
だが真はここで逃げる訳にはいかない。たとえ相手が王だろうと迎え撃たなくては。
風呂に浸かりながらそう決心していると、一つ影がこちらに近づいていた。
「兄さん。湯加減はどうですか?」
我が妹、柑奈だ。前にアグとロブが長く入っていたので、ぬるくなっていないか確かめに来たのだろう。気が利く妹だ。
「ああ、ちょうどいいよ」
だが柑奈が心配することは一切ない。湯加減は普通だ。
「そうですか?本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「でも、二人は長い間入ってましたよ。それでも大丈夫なんですか?」
「あ、ああ……。大丈夫だ」
何かおかしい。いつもとは違うというか、なんかしつこい。
「怪しいですね」
一番怪しいのはあなたです、とは言えない。ただ黙っておく。
「怪しいので、入って確かめて見ます」
ガチャ。開かれたその先にはタオルで体を隠した状態の柑奈が立っていた。
「ちょ、おま! 何してんだ⁉︎」
「何って兄さんと一緒にお風呂入るんですよ」
平然と当たり前のように答えた。
「いや、入らないから! どこに高校生にもなって妹と風呂に入る兄がいるんだよ」
「え? ここに」
不思議そうに真を指差す。
「俺か、俺だったのか!」
「いいじゃないですか昔はよく一緒に入ってたんですから」
「今は駄目だろ。俺捕まっちゃうよ」
「いいんですかそんなこと言って。私怒りますよ」
ギラン。と音がして柑奈の目が光り、真は昔起こった悲劇を思い出して体が震えた。
「あ……背中洗うぐらいなら」
「ありがとう兄さん」
否定できなかった。ここで拒絶したら命を絶たれると本能が囁いたのだ。否定できるはずがない。
とりあえず柑奈にタオルを取ってもらい、それで下半身を隠して湯から出た。
そして風呂場で使う椅子に座って柑奈に背中を見せる。ここで唯一の助けなのは目の前の鏡だ。これで柑奈の同行を確認できる。
「やっぱり兄さんの背中は大きいですね」
柑奈はその背中を見てうっとりしていた。
「そ、そうか? あんま身長変わんないだろ」
真と柑奈との身長差は五センチかそこらだ。
「そうじゃありませんよ。兄さんは私にとって存在が大きいんです」
「お、おい。あんま恥ずかしいこと言うなよ」
いきなりのことで不意をつかれ、真は激しく動揺してしまった。
「あれ? 兄さん照れてるんですか?でもそんな兄さんもいいと思いますよ」
ここがお風呂だからか真と柑奈の顔が赤くなっていた。
兎にも角にも柑奈は真の背中を洗いだした。柔らかくて女の子らしくて少し安心した。
「どうしたんだ」
「はい?」
「何か俺に聞きたいこととかあるんだろ」
昔からそうだ。柑奈は言いたいことや思っていることを自分の中に押し込めてしまうところがあってそれが限界に達するとこのような強行手段で攻めてくる。
前も大変だったのをよく覚えている。
「さすが兄さんですね」
どうやら図星だったらしく、少し俯く。
「長年の付き合いだからそれぐらいはわかるさ」
「じゃあ、聞いてもいいですか?」
「ああ、いいとも」
でないと、溜まったそれがどのような形で牙をむくかわかったものではない。
「じゃあ聞きますけど。誰が好きなんですか?」
「へ?」
唐突な質問に情けない声が出た。
「へ? じゃありませんよ! 銀九さん、シグレさん、シャリル先輩、桜先輩、霧香さん、アグちゃん、ロブさん、蓮香ちゃん、私の中で誰が好きなんですか!」
「いっ!」
柑奈の手には自然と力が入って、背中の皮がめくれるのではというほどこすられた。
「す、すいません」
質問する時とは違い、なんだか弱々しい感じで謝った。彼女はいつも真に限らず、人を傷つけてしまうとこうなる。
「で、でもこれだけはちゃんと答えてください」
「誰が好きかってことか? ふ〜ん」
銀九は少し男っぽいところがあるがしっかりしていて頼り甲斐があるし、櫂音さんの娘だから将来性もある。
シグレは銀九とは正反対で積極的という元気な奴だ。
シャリル先輩は人をからかうのが好きと言った感じがするが温和でとてもいい人で学校でも人気が高い。
桜はというと、シャリルと違ってからかうのではなくて人を見下すのが好きらしい。だが頭が切れるので参謀的存在だ。
霧香はお嬢様オーラ満開のツインドリルちゃんだが、人一倍責任感が強くて少しほっとけない。
アグちゃんは素直でいい子だが、好きだと言ったら何か色々とまずい気がする。
ロブはまだ会って数日しか経っていないから詳しいことは知らないがとても綺麗な娘だ。しかも義理深い。
その妹さんである蓮香ちゃんは不思議なところがあって大人しい子だ。
柑奈は……なぜ立候補に入っているのかがわからないが悪い子ではないのは確かだ。
これらのことから考えてもやはり誰が好きなのかはわからない。
「ん〜、好きとかじゃないんだよな〜。なんというか仲間? みたいな感じでそういった感情はないよ」
「そうなんですか何とも思っていないんですか?」
「何とも思って無いわけじゃない。みんな俺の守るべき存在だと思ってるよ。もちろんお前もな」
「兄さん……」
これで許してくれるかは心配だがこれしか言いようがなかった。
「まぁ、今日はここまでにしておきます」
柑奈はそっと出て行こうとした。今日は、ということはまた聞かれるかもしれない。
「きゃ!」
何事かと振り向くと柑奈は足を滑らせていて、頭から落ちていた。
「危ない!」
とっさに手を伸ばして柑奈を受け止める。
「ふぅ。だ、大丈夫か柑奈」
腹で受け止めた真はゆっくり目を開けると衝撃を受けた。
何と、タオル越しに柑奈の胸を揉んでいる形になっているのだ。
「な! こ、これは事故だ。な?俺は悪くない」
素早くその手をどけて弁解するが柑奈はわなわなと震えて拳に力を入れた。
「兄さんのバカーーーーーーー!!」
その叫びと共に、ボディーブローが炸裂した。
「う、うが……」
「兄さん、そこで反省していてください」
そうドスの効いた声で言い残すと去っていった。
「はぁ、酷い目に遭った」
復活した真は腹を抑えながら自室へと入った。そしてベッドへと滑り込む。
「明日……か」
明日、明日またヴァイスワールドに行く。そこでロブの秘密がわかるだろう。
真は明日に備えてゆっくりと瞼を閉じた。




