ロイヤルブルー④
結局、あの後は試行錯誤が繰り返されて霧香……さんと呼ぶように決定した。
最初は苗島と呼んでみてそれだと妹と一緒の時はどうするんでかと怒られたり本当に大変だった。
それで昼休みの時間はほとんど潰されてしまい弁当をちゃんと味わうことはできなかった。
だが一ついい点があったとすると、彼女が人と積極的に話すようになったことだ。初めて会った時はお嬢様だからか誰も寄せ付けさせなかった。
しかし、真と知り合ってから初めて成果の一端が垣間見てたと思った。真は友達が少ない蓮香をいうも心配していたが、あんなに積極的に人と話せるようになったのだ。 きっと一人でも友達を増やせることだろう。
あとはロブのことだけだ。
放課後、帰りの挨拶が終わると走って四宮家に向かった。
扉を開けて櫂音の部屋に行くとロブが前見た時と同じ姿で待っていた。
「あ、まこちゃん。いいところに来たね〜。丁度検査が終わったところだよ〜」
どういう風に検査をしたかは知らないが、ロブの様子からしてそう大したものではなかったらしい。
櫂音さんのことだから変なことしているのではとヒヤヒヤしていたが、思い過ごしのようだ。
「で? どうなんだ?」
「このロブっていう娘の色エネルギーとヴァイスワールドに出現した三つの色エネルギーが一致したわ」
今まで櫂音の手伝いをしていたらしいシグレが横で答えた。
「それってどうゆうことだ?」
一致ならばそれは彼女の力に違いない。だがそれと記憶喪失の関連性はあるのだろうか。
「多分だけどこの生意気な小娘ちゃんは独裁王の被害者なんじゃないかしら」
「独裁王? そいつがロブの記憶を奪ったってことか?」
「奪ったというよりは頭の中から抜かれたっていう表現が適切かしら。独裁王もこんな得体の知らない小娘の記憶なんて抜き取って何が楽しいのかしらね」
記憶を抜き取る力を持つ王。なぜ独裁王と呼ばれているのかは少し気になったが、それよりも桜の態度が気に食わない。
「おい、なんでロブのこと生意気だとか言うんだよ何も悪いことはしてないだろ」
自分は言われ慣れてるし、気にしてないからいいが、ロブはそんなことを我慢しなくていい。
「あら、自分の時は何も言わないのに他人の時だけ口を挟むなんてほんとに変わってるわね。でもそれだからこそ王に相応しいのかもしれないけれども」
桜は真を認めてくれ始めたけれどもこの上から目線の口調は変わらない。それが桜の本質だから仕方ないのかもしれないが人を馬鹿にするのさ、特にロブやアグのような人を傷つけるのはやめてほしい。
「とにかく、ロブはいい娘なんだから」
「なに言ってるの。それは私が声かけても一切口聞かなかったのよ。人によって態度変えるのよその女は」
「それはお前がきつい言葉遣いするからだろ」
誰でもそうだろう。ロブもそれに耐えきれずに無視する方向にしたんだろう。
「そうかしら櫂音やシグレでも喋らなかったわよ。私たちを警戒してるのよその青い狐は」
「そりゃあ、記憶喪失で頼れるのが俺しかいないから他の人を警戒するのは当たり前だろ。あんまりロブの悪いことを言うなよ」
「あ、あの……」
二人の口論に割り込んだのはロブ本人だった。
「お二人ともやめてください。桜さんが言う通りで私が悪いんですよ。私は真さん以外にも信じられる人がいないから、怖くて黙っていただけなんです。仲直りしてください。お願いします」
ロブは上目遣いで頼んでくる。
「そ、そうか……」
彼女はただ寂しかっただけかもしれない。記憶を失くして頼れる人がいなくてその時に真と出会い、優しくされて彼に甘えるようになっただけ。
実際の性格がどんなのだろうとそれは変わらないだろう。
「すまんな桜。もし機嫌を損ねたのなら許してくれないか?」
目の前の桜に向かって頭を下げた。
「王であるのに部下に謝るなんて、恥を知りなさい恥を」
「恥なんて知らなくていいさ。俺は大事なお前たちのためならプライドでもなんでも捨てる覚悟でいるさ」
顔を上げて真は真剣な顔で桜をジッと見つめる。いくら彼女でもこうすれば気持ちは伝わるだろう。
「本当にあなたって人はわからないわね。たかが駒なんかの為に自分の何かを捨てようとするなんて。でも王として不合格でも人間としては合格だわ。そうね、褒美として愚人の称号を与えるわ感謝なさい」
「愚人って何だよ! 全然、嬉しくねー」
桜はそう言い残すと、真の言葉を背で聞き流して何処かへ行ってしまった。
これではどちらの方が立場が上なのかわかったものではない。
「じゃあ、ロブちゃんは検査で疲れてるだろうから今日は休んで明日にしよったか〜。明日学校休みなんだし」
櫂音さんのその言葉で解散となった。と言ってもロブをここに残すと何かと不安だから家に泊まらせることにした。
「いや〜、まこちゃん最近は家に来てなかったけどすっかり男前になったわね〜。あそこまで言えるなんて相当よ」
櫂音は自分の部屋の片付けをしてくれる娘に冷やかしのように呟いた。
「あの調子だと誰かに取られちゃうかもしれないわよ銀ちゃん」
銀九が無視できないよつに櫂音は抱きつく。
「も、もう。別に僕には関係ないよ。それは真が決めることなんだから」
「でもそれが自分じゃなかったら寂しいでしょ」
「う……それは」
言葉か詰まる。
真が決めることなんだからと言っておきながら、本心では決めて欲しくないとさえ思っていた。
真が自分以外の誰かを決めてしまうのが恐いのかもしれない。
真とは長い付き合いだ。妹である柑奈には勝てるはずないが、長い間彼と過ごしてきた。
そんな彼をたった数年や数ヶ月や数週間の付き合いの人には渡したくはない。いや、誰にも渡したくはない。
「まあ、まこちゃんは誰が好きだとかいうわけじゃなさそうだったしチャンスはあるわね。頑張りなさいよ、でないと後悔するから」
「母さん……」
こんなは初めてだ。彼女が母親としてというか、女としてアドバイスをしてくれたのだ。おの色怪の研究にしか目がなかった彼女が。
これも真が王の素質を開花させて色怪の世界に踏み入れてくれたからだろうか。
いや、踏み入れてくれたというのは少しおかしいか。踏み入れってしまったというのが正しいかもしれない。
銀九は少し微笑んで手の届くところにあった最後のゴミを袋に入れて、それを持って部屋を出た。
もうこの部屋に来るのは苦ではなくなるだろう。そう確信して扉を閉めた。
真は今、不安で仕方ない。
柑奈が快くロブを迎えてくれるか心配だからだ。
アグの時は彼女の色エネルギーで宥めていて問題はなかったのだが、今回もそう上手くいくとは限らない。
効果が切れていて……というのは御免だ。
だがこんな夜に玄関の前で一人の女の子と突っ立っていると通報されかねない。
小さじ一杯分しかない勇気を振り絞って妙に扉を開けた。




