ロイヤルブルー②
「お〜い。大丈夫ですか〜」
コンビニ帰りに見かけた倒れている色怪。深みのある青い髪をしていて、それはふんわりとしていて肩まで伸びている。それに似た色のドレスを着て地面に突っ伏している。
こんな人混みが少ないところで。
いや、色怪なら人が多いところを好まない。人が多いと視線が気になって食事がろくにできないとシグレが愚痴っていた。
ならば彼女も食事のためにこんな人通りが少ない道にいるのだろうか?それならなぜ倒れているか想像はつく。
「もしも〜し。もしかしてお腹空いてるですか?」
その答えは口でなく、腹からした。
「ちょっも待っててくださいね」
真は何か青いものはないか走り回って探した。
青色でなくてはいけないのは色怪にあった色でないと色のカロリーが激減するからだ。
シグレから聞いた話では、ハンバーグ三個分が米粒三つ分になるぐらい激減するらしい。
彼女は髪などからして青の色怪であることは間違いない。だから青色でなくてはいけない。
これがなかなか見つからない。まだ赤色の方が見つかるのが早い気がする。だけどあの人が待っているから一刻も早く見つけ出さなくては。
そして一つだけ見つかった。誰もが見たことある身近にある青色。ポリバケツ。
それを腹を空かした彼女の元へと走って持っていく。
「これでいいか?」
ドンっと彼女の頭の前にポリバケツを置いた。中身は入ってなかったので重くないし、臭くもない。
彼女はシャキンと顔を上げ、ポリバケツを見つめる。そしてシャム猫のように品を定めてお気に召したのか口を開けて一気に青色を吸い込んで飲み込んだ。
「ふぅ〜助かった。どこの誰かは知らないけどありがとう」
完食した彼女はむくりと起き上がり、丁寧に礼をした。
「いや、俺は大したことしてないよ。それより君、色怪なんだろ。何処から来たんだ?」
敵……の可能性もあるが、そうだったとしても道端で腹を空かして倒れるような色怪だ。あまり脅威には感じられないし、恩を仇で返すような人には見えない。
「ん〜、恩人であるあなたには話したいんだけど実は私、記憶が曖昧なの」
「それって記憶喪失か?」
「はい。色怪の事とか常識の範囲内のことは憶えているんですけど、何でここに来たとかは全然憶えてなくて……」
「じゃあ、これからどうするの?記憶がないんじゃ何もできないだろ」
「はい。なのでここを拠点として色々と試して記憶を少しずつでも取り戻してみようと思ったんですけどこの有様です……」
様子からして成果は一切なかったらしい。
「なら、俺の家に来るか?何人か色怪がいるしから知ってるやつが一人ぐらいいるんじゃないか」
可能性はゼロではないし、いなくても彼女たちと相談してどうにかしてみようと思う。
そう意見してみると
「あの……助けってもらっといて何ですが、変わってますね」
「え?」
という意外な言葉が返ってきて情けない声が出てしまった。
「だって見ず知らずの私にこんなに良くしてけれるなんて普通ありえませんよ」
そういうものなのだろうか?
普通がなんなのかわからない真はキョトンとしたが彼女に変な目で見られてしまったということなのだろうか? それは困る。なんかそれだと接しにくくなる。
「い、いや〜男なら君みたいな美人さんを助けるのなんてあ、当たり前だよ〜」
と、おどおどしながらそれらしい理由を述べると彼女は顔を赤らめた。
「び、び、美人だなんてそんなに褒めないでください。私なんていいとこないんですから」
「いえ、実際美人だと思いますよ」
歩けば大抵の人は振り向くであろうその容姿。美人といってもいいだろう。
「うう〜……そ、それより名前聞いてませんでしたね。教えてくれませんか?命の恩人ですし」
何かあたふた感じで、思い出した感じに指を立てて言う。
「ああ、そういえばそうだったな。俺は柊 真。女みたいな名前だろ?」
実際、これで何度もからかわれたりした。
「いえそんなことありません。立派なお名前です」
「そ、そうかありがとう。初めてだよそんなこと言われたの」
少し感動してしまった。この人はいい娘だ。もう少し早く会いたかったものだ。
「そういえば君の名前は?その記憶もないのか?」
大抵の記憶喪失の人はここはどこ?私は誰?といった感じに名前すら忘れるものだが彼女の様子からしてそんな感じはしない。
「私の名前はロブ。これからよろしくお願いしますね真さん」
可愛らしくドレスの裾をつまんで少し持ち上げて礼をした。
顔をあげた時のロブはにっこりと微笑んでいて、真は息が一瞬だけ止まった。
それと大事なことを思い出した。柑奈とアグを一緒にしてよかったのだろうか?
柑奈は兄である真から見ても、少し変わっているところがある。それに何かアグを嫌っているようでもあった。
真の足は自然と速くなっていた。
家に着くと、白い目をした柑奈が迎え入れてくれた。
それもそのはず、兄が女の子を、しかもめちゃくちゃ可愛い娘を連れて帰ってきたのだ。
ブラコン……もとい兄を尊敬して愛しいる柑奈にとってこれは緊急事態であった。
「まぁ、遠慮せずに上がってくれ」
「では失礼します」
ロブは靴を脱いで二階へと登って行く。
しかし、柑奈は何もしない。争いは何も産まないと、ただ虚しいだけと学んだからだ。
「お姉ちゃんどうしたの〜?」
リビングでアグの呼ぶ声がした。
「は〜い。ちょっと待っててねアグちゃん」
柑奈はその声がする方へ、パタパタとスリッパの音を鳴らしながら駆けつけていった。
「どうやらあっちは大丈夫らしいな」
柑奈は気づいてなかったであろうが、彼女の周辺からはアグの緑のエネルギーが微かだが纏わりついていた。
それでなだめてくれたのだろう。
「どうしたんですか真さん?」
階段を登る途中、独り言をした真にロブは気になったのか後ろから話しかけた。
「い、いや何でもない。気にしないでくれ」
また変な目で見られるのは嫌だ。なのでとりあえずそう言って誤魔化しておいた。
そして自分の部屋の前。
だがここが開けにくい。まだここからみんなの声が聞こえたのなら少しでも入りやすくなるだがそんなのは一切聞こえてこない。
帰ってしまったのかと思ったが玄関には全員分の靴が綺麗に揃えられていた。
ならば考えられるのは他の部屋に行ったということだが、彼女らが真に気を使って場所を変えるのは考えにくい。
だから三人がこの部屋にいるのは間違いないはずなのだ。
「どうしたんですか真さん。入らないんですか?」
入りたくはない。だが、それではこのままではロブを不安にさせてしまう。
重たいそのドアノブを回して部屋へと入ると、やはり三人はここにいた。
しかし、真が出て行く前とは様子が違う。
「真、遅かったわね。で、隣にいるのは誰?」
腕を組んで深刻そうに悩んでいるシグレはチラリとロブを見つめた。
「こいつはロブっていってさっき知り合った記憶喪失した色怪だよ。敵じゃないのは俺が保証する」
「記憶喪失? また珍しいの連れてきたわね。それとも女なら何でもいいのかしら。さすが外道ね」
と、いつも通りに桜の毒が吐き出される。
「おい、勘違いするようなこと言うなよ。俺がそういう人みたいに聞こえるだろ」
「大丈夫ですよ真さん。そういう人じゃないのは私知ってますから」
やっぱええ娘や。桜の嘘情報にも動じない。
「それよりどうしたんだよ深刻な顔して。何かあったのか?」
多分、何かあるなら色怪関連かヴァイスワールドかのどちらかだ。
「ええ、ヴァイスワールドに奇妙な色エネルギーが探知されたの。見つけたのは櫂音さんだけどね」
銀九が膝に乗せた猫が何かを告げるようににゃーと鳴いた。
それをロブは目を輝かせながら見つめて、真は戦いの始まりの鐘の音のように険しい顔で見つめた。
だが、猫はこの空気など気にしないまま眠りついた。




