アンデッドグリーン④
「お兄ちゃん、今何かおっきな音がしたよ」
アグは怖がって真の腕に抱きついた。
「大丈夫、大丈夫。俺がいるし俺の仲間だっている。みんなを信じよう」
「う、うん」
真はできるだけのその音がするところから離れるように走った。それにアグはなんとかついて行くがやはり後ろが気になってしまう。
あそこで誰かが傷ついているのではないかと心配になってしまい、真の手を離して止まった。
「木が泣いてる……」
意味不明な言葉をの残してそのままアグは一人で嫌な気がするところへ走って行った。
「お、おいアグちゃん!」
ドゴンという地鳴りがして地面が揺れた。
「な、なんだ⁉︎」
震源を見つけようと首を回すとさっきまではなかっものを見つけた。
大樹だ。あの神社なんかよりも比べ物にならないほどの大きな樹だ。
「あそこから声が聞こえる」
一瞬、その大樹に見入っていたアグだったが何かを悟ったようにそこへと走って行った。
「ちょっ!」
真もそれを追いながら何らかの違和感を感じ取れた。それがなんなのかはわからないが今はアグを追うことに全力を尽くす。
足に鞭を打つ気持ちで走った。
「はぁ、はぁ。やっと追いついた」
実に情けないのだが子供であるアグを捕まえられなかった。
やはり色怪と人間では身体的に違いがあるのかもしれない。でないとこの問題を説明できない。
しかし今はそんなこと気にはならなかった。
目の前に広がる緑。それになす術なく捕まっている仲間たち。
これらが真の目に映っている。そして実際に起こっている。
誰が、何のために?
決まっている。緑王がアグを手にするための餌にするためだ。
「随分と早かったね無王さん」
大樹に背を任せて、何もかも計算尽くであるという態度なこの男。あれはこの嫌な男がやったのだろう。
「お前がやったのか緑王」
この世界にいるのは自分たち以外はそれぐらいしかいないだろう。
「そうです初めましてですね無王さん」
「いや……あの、その無王てのは何だ?もしかして俺のこと言ってるのか」
「君以外に誰がいるんだい?何色にも属さない無色の王。色怪でない王、無王。君は僕らの中じゃあ一応有名人なんだよ」
「そうかそんなことどうでいいけどシグレたちを離してくれないか。そうすれば見逃してやる」
「それはこちらの台詞だよ無王。アグさえ渡せばお前もこの仲間たちも見逃してやる」
緑王は近づいて手を伸ばしてきた。これは楽に助かる選択肢。
しかし、そんな選択肢では必ず後悔する。選択するなら自分が思う最善で一番苦労するであろう選択をする。
「俺はアグもそこにいるみんなも助ける。お前に指図されたくないんでね」
「随分と強気じゃないか。もしかして勝算でもあるのかな?この僕を相手に」
「そんなのはないけどこの状況だったらやるしかないだろ」
仲間を人質に取られて真は頭にきてるのだ。そう簡単には引き下がれない。
「無王というのは無知の無だったのか。戦いは相手の一手先を読んでやるものだよ。感情的に戦ったら敵の思うつぼだよ」
王として、戦う者としてまだ未熟な真にはそれがあっているか間違っているのかはわからないがそれが真に合わない戦法なのは確信的で、真は必ず戦場で感情を出すだろう。
それが弱点になっても出し続けるだろう。なぜなら人間だからだ。人間は感情で生きて、感情で動いているからだ。
「俺は俺のやり方でやる。口出しするな!」
隠していた赤色を大樹に投げる。そして山なりに飛んだそれは大樹の根元より少し上の方で炸裂して炎を産んだ。
木は燃える。だが木は燃え続けながらもそれ以上に回復し続け、とうとう火は消えた。
「無駄だ。緑がある限り僕は無敵。それにその木だってね。君はこの木にさえ勝てやしない」
パチンと指を鳴らし、それに応え大樹は生きているようにシグレたちを縛っている枝の力を強める。
「さて、ここでもう一度チャンスをやる。アグを渡すんだ。僕からしたらこの人質を使って君を殺してからでもいいんだが計画に支障をきたしたくない」
伸びる悪魔の手。またも選択。
これは真も戸惑う。今さっき緑王の圧倒的力を見せつけられた。その一方でこちらはろくに色を扱えない王と子供しかいない。
もう勝ち目はないのだろうかと自問自答しているとアグが一歩前に出た。
「お兄ちゃんの仲間は私が守る。だからお兄ちゃんはその眼鏡の人をやっつけて」
「わ、わかった。そっちは任せる」
自分よりも背の低い子供に励まされるなんて無様と思いながらも真の気はすっかり収まっていた。
「あの木には大量の緑エネルギーを詰め込ませてあるいくら壊そうと意味はない」
真越しに緑王はアグに語りかけるが、アグはただ首を横に振った。
「私は一言も壊すとは言っていません。ただ鎮めるだけです。心を落ち着かせて話し合えば分かり合えるはずです」
祈るように手を合わせて白い空を見上げる。
「ま、まさか!」
アグの体が緑色に輝き出す。そして光の粒が周りに漂う。粒はふんわりと木に当たり、その木も輝き力の入っていた枝はシグレたちを離した。
「助かったわアグちゃん」
シグレは綺麗に着地して、銀九は桜に抱えられながら地面に着いた。
「でもこれは何なんだい。攻撃用じゃないようだけど」
雪のような色エネルギーの光の粒を手に乗せてアグに尋ねる。
「これは緑色のリラックス効果を最大限までに伸ばして作ったエネルギーの塊です。今みたいに触れたら発動します」
「だとよ緑王さん。話は聞いてたろ。もうお前に勝ち目はねぇーよ。さっきあの粒に触れてたしな」
緑王の足は見るからにフラフラしている。あの粒を避けるは不可能だ。もしあれが避けられるのだとしたら雨の中でも濡れずに家に帰れるだろう。
「くっ、こんな事で諦めるわけにはいかない」
歯を食いしばりながら腰に隠していたナイフを取り出した。
「おい往生際がわる……」
緑王は自分の喉を斬り裂いていた。彼はいきなり自殺をしたのだ。
しかし彼は緑王。やはりというかまた緑色が喉を治して復活させた。
「これでお前の使ったリラックスの効果は無効だ」
死んでリセット。緑王はこれがしたかった。勝ち誇った感じに手を広げる。
「そうかよ、ならこいつならどうだ‼︎」
真は右ストレートを右ストレートを緑王の顔面へと叩き込んだ。
「へぶっ」
眼鏡は綺麗に割れて鼻血が垂れる。
「殺しても死なないなら殺さなればいい。そこでノックアウトしてるんだな」
今度は顎を狙い一発殴る。
気絶、色を使うタイミングがわからずにそのまま倒れしまった。いつもは死ぬとわかる攻撃の前に準備をしていたが今回はそれが読めなかった。
「馬鹿は何しでかすかわからないのよ緑王」
聞いてはいないだろうがシグレは自分が選んだ王を自慢した。




