チェリーピンク③
なんだか吐き気がする。これはあの中継ポイントにあったふざけた転移装置を押したせいだろうか。
それとは別に何か重いものが腹にのしかかっている。
「な、なんだこれ?」
腹にのしかかっているものを手を前に突き出したところムニュという感触がした。
何事かと目を見開くと自分の手は胸の谷間に突っ込んでいた。
「真、これはどいうことだい」
すぐに抜こうと思ったが、その前に銀九が部屋の扉を開けていた。
「違う! 話を聞いてくれ」
手を谷間から引き抜いて、必死に誤解を解こうとするが銀九の目は獣のように鋭く真を睨みつける。
「その必要はないよ。どうせ…どうせ…胸が大きい方がいいんだーー!」
銀九の嘆き共に、鉄球が真の腹へとめり込む。
「馬鹿は馬鹿なりに大変なようね」
桜は気絶した彼を見つめながら笑みをこぼした。
「入るわよ〜……ってうわ! どうなってんのよこれ」
もうそろそろ帰ってくる頃だろうと、櫂音の部屋へとシグレが戻ってみると倒れる真とボロボロになった部屋があった。
「ここに来たペチャンコがやったのよ」
唯一事情を知っているピンク色の彼女が、どこから出したのか茶をすすりながらそう答えた。
「げっ桜、あんた帰ってきてたの」
彼女とシグレは長い付き合いの知り合いだ。だが友達というわけではない。
櫂音の夫、つまり王に仕えていた者同士、ただ知っているだけの仲だ。
しかし、シグレは桜が嫌いだ。
とにかく性格が酷い。誰に対しても偉そうな態度をとる。王が相手でもそうだった。彼女に敬うという言葉な似合わない。彼女に似合う言葉があるとしたら…そう、女王であろう。
だが、色怪の世界に王はいたとしても女王はいない。それは王と同格の力を持った色怪が存在しないからだ。
もしそんな色怪が現れたとしたら、さらにこの王決めは混乱するだろう。
「あんた真を王として認めたの?」
気になるのはそこだった。ここにいることが何を示しているのか、それが真の運命を左右するからだ。
「王? これが? どう見たって道端のゴミと同じじゃないこんなの」
「ならどうするの?」
はっきり言って他の王は問題がありすぎる。真以外はあまりお勧めできない。
「様子見よ、とりあえず見極める必要があるわ。それよりもあの色怪は何なの? 見たことない変なのがいけど」
あのウサギ、今まで見たこともない奇妙な色怪だった。
幼体が共食いをして大きくなったものだと思ったがあの時は桜と真しかいなかった。
つまり、元からあれほどのエネルギーを溜め込んでいたとしか思えない。
「今、櫂音さんに調べってもらってるところよ。多分真が王になったのが原因じゃないかって言ってたわ。普通の人間が王の素質を持つなんて今までになかったから新種が現れたんじゃないかって」
「まったく……役に立たないくせに厄介ごとを増やすなんてほんとクズね」
まだ気絶している真の顔を見下げながら、おっとりとした雰囲気で毒を吐き出した。
「銀九、俺昨日の記憶が曖昧なんだけど何か知ってる?」
ヴァイスワールドであのウサギから逃げ出したところでは憶えているのだが、それ以降は何一つ憶えいない。
思い出そうとすると後頭部がズキズキと痛む。どこかで頭を打ってしまったのだろうか。
「さ、さぁ。僕は何も知らないよ〜……」
そっぽを向いて知らんぷり。
明らかに挙動不審だ。何かを知っているには違いないが大したことではなかった気がするので良しとしよう。
「兄さん、そういえば昨日は帰りが遅かったですね何かあったんですか?」
「い、いや〜そこの記憶もちょっと曖昧なんだよね〜」
真も銀九と同じ方向へとそっぽを向く。
こうでもしないと柑奈は怒り出してしまいそうだから。ほんの数回だけ怒ったところを
見たことがあり、それからはできるだけ怒らせないように気をつけている。
彼女が何をしでかすかわからないからだ。
とにかくいつも通りの道を歩いて今日も学校へと赴く。
学校に着くといつもより騒がしい。
「なんだ何かあったのか?」
「あ! しんちゃん、久しぶり」
玄関の前で少し違う今日に驚いている三人に優しい声に呼びかけられた。
「先輩、お久しぶりです。それより今日なんかありましたっけ? みんな騒がしいんですけど」
「知らないのしんちゃん、今日は転校生が来るの。それも私のクラスに。つまり先輩だから気をつけてね」
「気をつけるって何を…」
その時、急に後ろがざわついてきた。校門のほうからだ。
気になって振り向くと、見たことがある二人が来ていた。
シグレと桜だ。
桜は慣れていない感じに制服を着ている。
「う、嘘だろ」
シグレに続いて桜がまでが転校してきた。これからは騒がしくなりそうだ。




