シグナルレッド①
この世界は色とりどりだ。青い空、夜の黒、太陽の赤。
例をあげていくときりがない。つまり世界は色でできている。色がなければこの世界は不便だ。テレビでは状況がわかりにくいし、信号の色がないと事故が絶えないだろう。
柊 真は自分のいる部屋を見渡しながらそんなことを考えいた。名前は女子みたいだが歴とした男だ。高校二年生の男子高校生だ。
そんかことよりこの部屋は本当に無機質だ。壁と床は全て白。ここで監禁されている。だが犯人は誰も出てこないし、何も要求しない。頭を叩かれた様子もないし、今まではベッドでグッスリと寝ていたはずだ。
結論から言うとここは夢なんだ。じゃないとこの状況は説明出来ない。だがいつこの夢から覚めることができるのだろう。
そんなことを考えいると床に四角い穴が空いて、そこから赤いボタンが現れた。クイズ番組に出てくるようなボタンだ。さらに側面に貼られたプレートには『押せ‼︎』と挑発的な言葉が書かれていた。
「ボタン? ……だよな。まったく俺の夢はどうなってるんだ」
すぐには押さなかった。このプレートが変だし、怪しいからだ。ここは夢の中だ時間はあるだろう。少し様子を見てそれから考えよう。
お腹が空いた。そしてこの時点で俺の夢理論が崩壊した。もし本当に夢なら腹なんて減らない。
だが、それならここは一体どこなのだろう。外に出られそうなところは一切ないし、窓が一つもないので外の様子すらわからない。まるで別の世界に取り残されたみたいだ。
もう限界だった。最終手段としてとっておいたボタンを押した。
まぶたを開くといつもの天井があった。
俺の部屋だ。机に椅子、今使っているベッドなど全部見覚えがあるものだ。
「兄さ〜ん。そろそろ起きないと遅刻するよ〜」
一階から我が妹、柊 柑奈のモーニングコールが聞こえてくる。妹は黒髪ポニーテールで、いつも頭に着けている赤いリボンがとても可愛らしい。
そんな天使の声に聞き惚れながら、ゆっくりとベッドから這い出て制服に着替え下に降り、朝食を食べる。両親は出張やら何やらで忙しい人なのでいる時は少ない。今日も二人っきりの朝食だ。大好物のチーズが乗った食パンを頬張り牛乳を飲み干した。
その時にはもう白い部屋のことは忘れていた。
いつも妹の柑奈ともう一人とで登下校している。もう一人とはお隣さんである四宮 銀九のことで幼稚園の頃からの知り合いで、男みたいな名前をしているが歴とした女子高生である。
「そういえば銀九さん今日は日直だから先に行ってるんだった」
「学校の日直仕事は忙しいからな。仕方ない今日は二人で行こう」
「ちょっと兄さん。それだと私だけだと嫌みたいじゃないですか」
ほおを膨らませてプンプンと怒る。
「そんなことないって嬉しいぜ。そりゃあもうビックバンが起こるぐらいに」
慌てて手を大きく広げて、弁解する。
「本当ですか? 兄さんは私よりも愛磨さんの方が大事なんでしょ」
「そんなわけないだろ。俺は妹であるお前が大事なんだ」
結局、このまま妹の機嫌を直すやりとりが校門まで続いた。
教室へと続く階段を上っている最中に金髪碧眼で頭に乗った水色のカチューシャがよく似合う外国人の生徒に出会った。
「しんちゃん元気ないけど、どうしたの?」
この人はシャリル・マリエット先輩。一つ年上の先輩で、おしとやかで頼れるお姉さん的な存在だ。しんちゃんというのは真の読み方を勝手に変えてそう呼んでいるだけで、あだ名みたいなものだ。
「おはようございますシャリル先輩」
「しんちゃん硬いわね。略してシャリって呼んでいいって言ったのに」
「それだと寿司でいう下の部分のものに聞こえてしまいますからやめておきます」
「じゃあ、ガリでいいわ」
「それじゃあ、もう原型ないじゃないですか! せめてそれらしいのにしてください」
「あら、でももうネタ切れなの」
「うまい! ですけど、座布団はあげれませんよ。そろそろ教室行かないと委員長に怒られるんで」
「それは残念ね。しんちゃん頑張ってね」
「一体何を頑張ればいいんですか」
真は階段をおりて行くシャリルを見つめながら呟いた。
「遅い! 遅いですよ真さん」
お嬢様口調の苗島グループの娘のお嬢様の彼女は委員長の苗島 霧香。彼女のことを聞かれたらまず髪型のことを喋るだろう。なぜなら彼女の髪型が桜色のツインドリルだからだ。
ツインドリルというのは、ツインテールが進化してドリルのような形状になったものでここに到達するものはごくわずかしないと言われている。(真理論)
「ちょっと、真さん。今失礼なことを考えていたでしょ」
霧香は眉をピクピクさせながら右手に力が入る。
「い、いやだな〜委員長の髪型が今日も素敵だな〜って思っていただけですよ。決してドリルみたいなんて思ってませ…」
ガスッ‼︎
霧香から発射された右手が真の左頬をかすり、その後ろの壁にひびを作った。
「誰の何がドリルですって?」
平静を装い微笑んでいるようだが、真にはとても怖く両手をあげ降参のポーズをとった。
「ひぃ! す、すいません委員長。今後気をつけますから」
真は副委員長ということで霧のと話すようになったのだが、いつもこんな感じでお嬢様オーラに負けてしまうのだ。
そしていきなり、何の前触れもなく、真の左側にある戸が開いた。
「姉様、また夫婦喧嘩ですか?」
茶々を入れながら入ってきた彼女は委員長の妹、苗島 蓮香。黄緑色の髪と目はとても清楚で大人しい感じを漂わせている。そして体は姉と正反対であるところが成長しておらず、全体的に実年齢より若く見える。
「ちょうどよかった蓮香ちゃん。この怖いお姉さんをなだめてくれない」
「嫌ですよ柊先輩。私、お弁当届けに来ただけなので面倒ごとに巻き込まれるのはごめんです」
手に持ったお弁当を霧香に渡すと、逃げるように出て行こうとする。
「待って! 今度たこ焼き、おごるから」
その一言で蓮香は振り向いてもう一発のドリルクラシャーを炸裂させようとしている姉へと何か耳打ちをする。すると、霧香の顔が真っ赤になりプシューと音を立てて膝をついて沈黙した。
「これは私の良心がしただけで、別にたこ焼きが欲しくてしたわけではないけど、約束したからにはちゃんとおごってくださいね柊先輩」
「わかった、わかった」
ズイズイと弁解する蓮香を、両手でなだめると蓮香は少し目を細めて、真の手を取った。
「柊先輩ここどうしたんですか?血が出てますよ」
「え?」
人差し指を見てみると、確かに血が出ていた。しかし、それほど大したものではなく蓮香にもらった絆創膏を貼った。これですぐに治るだろう。
そう……すぐに治った。
しかし、その血は真の平穏な毎日を奪い去ることになる。
また、朝と同じような静かな場所に来た。
しかし、今回はちゃんと白だけでなく、いろいろな色がある。そしてここは真が住んでちる地域でもあった。
行きつけのゲーセン、まだDVDを返してない本屋、スーパーなど見覚えのあるものばかりだ。
しかし、空は無機質な白で太陽はなかった。
雲で隠れているとかではない。太陽がなく、空が白色へと変わっているのだ。
「一体どうなってんだ?」
頭が混乱してパニックする。
状況が飲み込めない。確か、学校から帰ってソファで昼寝をしていた。
では、ここは夢の世界?それは違う。朝の白い部屋で腹が減ったことから現実だとわかった。腹が減る夢などないわけだし。
ならここは一体どこなんだ?なぜ俺はここにいるんだ?
そんな時、真が見たのは人の形をした赤黒い怪物であった。
赤色は線のように空気中に広がり漂っているし、髪や服は全て黒色で肌は白く、よく見ると目が見当たらない。のっぺらぼうみたいだ。
しかも、ゆっくりとだが着実に真に近づいてきている。
真は逃げようとしたのだが足がもつれて転んでしまった。
怪物はそれを見逃さない。足に身に纏った赤色が集まったと思ったら、怪物は爆発的な勢いで真の元へと走った。
その一走りで手が届くほど近づいて、怪物は何の迷いもなく口を開いた。
真はそれを直視した。ただ、黒く何もない。宇宙から全ての惑星を消したようで不思議と恐怖心というものは生まれなかった。
しかし、その宇宙は大きく歪みビルに吹き飛び土煙をあげる。
それを行ったのは一人の少女であった。
彼女も怪物のように赤色を気のように身に纏っているが、ちゃんとした顔があり、色がある。
それでも怪物と同じように見えてしまうのは彼女が赤尽くしなのが原因であろう。
目、髪、服装までも赤一色に染まっている。
「何ぼーっとしてるのよ。逃げるわよ」
怪物は彼女のパンチ攻撃を食らいながらも立ち上がった。しかし様子がおかしいところを見ると無傷ではない。
そして真は名前も知らない彼女に手を引かれて怪物から逃げる為に走り出したが、今から思えばこれが全ての始まりだった。