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出会い③

 返し方のせいだろうか。栄二も素直に論文を受け取っていた。


 しかし、心中には気持の悪いわだかまりが残っていた。


 女は(きびす)を返して立ち去ろうとした。


「待ってくれ」


 栄二が呼び止めた。卒業論文を持っている手は震えていた。


「そういうお前は卒業論文の書き方を知っているのか?」


「これでもすでに大学を卒業している身だし社会人よ。あなたより何倍も知っているわ」


 この段階で栄二は女が自分より年齢が上だと理解した。ただスーツを着ているだけの変わり者かと思っていたが、どうやら違うらしい。


 しばらく女の顔を見たり、手に持っている卒業論文を見たりの繰り返しをしている栄二だった。


 何かの判断がつかず迷っているようだった。


「何か用があるのなら、早く言ってくれないかしら。これでも暇じゃないの」


「あの……お願いがあります」


 いつの間にか丁寧な口調になっていた。逡巡はどうにか終わったようである。


「何かしら?」


「……俺に卒業論文の指導をしてください」


 どうにか言い切ることができた。正直言うとさっきの態度から、頼める立場の人間でないことはよく理解していた。


 おそらく断られても当たり前かもしれなかった。

 

 だが、一歩も前に踏み出さないよりはましだった。


「卒業論文の指導ですって?」


「はい、添削だけでもお願いします。俺、このままでは卒業できないかもしれないのです。さっきは失礼なことを言ってすいませんでした。ですから、俺に卒業論文の指導をしてください」


 届かなかったら、ここで終わりである。どうか願いが届きますようにと心中で何度も唱えていた。


 心臓が高鳴って仕方がない。


 破裂しそうである。


 一秒が長く感じる。


 返事はまだか。


「家はどこ?」


「えっ?」


「家はどこか尋ねているの。ここでやるより、あなたの家でやる方がましでしょう」


「指導をしてくれるのですか?」


「今のところ断る理由はないわ。その代わり、私は気分次第でくるけどそれでいい?」


「はい……」


 その条件はきつかったが教えてもらう立場なので、栄二は女の条件を飲むことにした。

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