プレゼント③~第十一章 抱擁①
また現れた。手には昼間にスーパーで買わされた未開封のワインボトルを一本持っていた。
もう一本はハヤシライスの味付けのために、すでに開けられていた。
「これでも飲みなさい」
「なぜワインを?」
「悩みがある時は酒でも飲みながら、人に話すのが一番よ。まあ、まずは一杯」
いいかもしれないと思った。酒なんてここしばらく飲んでいなかった。
栄二は食器棚からワイングラスを二つ取り出した。
「私はいらないわ」
「どうして?」
「下戸よ」
「下戸なのに、なぜワインをねだったんだ?」
「プレゼント……というのは意味不明よね。だったら私が払わないといけないわね。答えはあなたに自分のことを話してもらいたかったから。これはそのための自白剤よ」
かなめはワイングラスを机上に置くと、中身を注いだ。注がれる音は普通の人にはトクトクとしか聞こえないかもしれないが、絶対音感の人にはまったく別の音に聞こえるかもしれない。
しかし、栄二はトクトクにしか聞こえなかった。
それでも『ねずみ花火』の鳴き声よりはましだった。
最初の一杯を栄二は一気に飲み干した。
うまかった。もう一杯欲しいと思い、グラスを差し出した。
二杯目も、かなめの手によって注がれた。今度は少しずつ飲んでいくことにした。
なんだか自分のことを話したくなった。どうやら自白剤に負けたようだ。
「さあ、話してみて」
かなめがささやくように話しかけた。途端に周囲の情景が白いもやに包まれた。
栄二は特に驚かなかった。
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「俺が就職活動を始めたのは、去年の冬からだった」
「早いわね。そこはほめてあげるわ」
「様々な会社を受けたよ。出版、食品、ベンチャー、コンピューター……数えたらきりがないよ」
「へえ、出版も受けたの」
かなめが興味津々と栄二に顔を近付けた。




