プレゼント②
あの本もすでにクローゼットの奥深くに眠っており、今はほこりをかぶっているはずである。
栄二はすでに、今年の就職活動を諦めていた。完全に諦めたのは、後藤が就職活動を終えた時点だった。
情けない話である。ちょっと前までは、就職浪人する人たちを負け犬呼ばわりしていたのだから。
自分がその立場になると何も言えなくなるし、もう彼らを罵倒できなくなる。
悔しさがこみ上げてきた栄二の胸は、痛くなった。
なぜ先に就職活動を始めた自分が報われず、後から始めた後藤が勝利するのだろう。
自分のどこがいけなかったのだ。
栄二は面接官たちの顔を思い返した。表情はにこやかにして、「今の世の中は大変だ」、「不況だが負けずに頑張っていこう」、「分からないことは一から教えていく」など勇ましく言っていたが、所詮は甘言をほざいていたにすぎない。
人を見る時も対象を「人」ではなく、「物」でしか判断できない。見るにも値しない「物」がきた時は、会社にとって使用できない「物」はいらないということで、なんの躊躇もなくパソコンという文明の利器で人に落選の引導を突きつける。
栄二は思わず鼻で笑った。
今の考えはなんだろうか。まるで小説家が考えるような小賢しい内容だ。
津川教授が言った通り、どこかの賞にでも応募でもしてみるか。
「どうかしたの?」
かなめが尋ねた。
「努力することは悪なのかな?」
別にかなめに聞かせなくてもよかった。ただ壁に向かってしゃべるだけでもよかったし、窓でもドアでもよかった。
「善とは言い難いわね。悪いことをするために努力をする輩だっているから」
かなめは、真面目に切り返していた。こんな馬鹿げた話ですら、しっかりと受け止めるなんて不思議な女だった。
「そうだな。かなめの言う通りだ」
「少し待ってなさい」
立ち上がったかなめは、キッチンに姿を消した。




