表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/44

プレゼント②

 あの本もすでにクローゼットの奥深くに眠っており、今はほこりをかぶっているはずである。


 栄二はすでに、今年の就職活動を諦めていた。完全に諦めたのは、後藤が就職活動を終えた時点だった。


 情けない話である。ちょっと前までは、就職浪人する人たちを負け犬呼ばわりしていたのだから。


 自分がその立場になると何も言えなくなるし、もう彼らを罵倒できなくなる。


 悔しさがこみ上げてきた栄二の胸は、痛くなった。


 なぜ先に就職活動を始めた自分が報われず、後から始めた後藤が勝利するのだろう。


 自分のどこがいけなかったのだ。


 栄二は面接官たちの顔を思い返した。表情はにこやかにして、「今の世の中は大変だ」、「不況だが負けずに頑張っていこう」、「分からないことは一から教えていく」など勇ましく言っていたが、所詮は甘言をほざいていたにすぎない。


 人を見る時も対象を「人」ではなく、「物」でしか判断できない。見るにも値しない「物」がきた時は、会社にとって使用できない「物」はいらないということで、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなくパソコンという文明の利器で人に落選の引導を突きつける。


 栄二は思わず鼻で笑った。


 今の考えはなんだろうか。まるで小説家が考えるような小賢しい内容だ。


 津川教授が言った通り、どこかの賞にでも応募でもしてみるか。


「どうかしたの?」


 かなめが尋ねた。


「努力することは悪なのかな?」


 別にかなめに聞かせなくてもよかった。ただ壁に向かってしゃべるだけでもよかったし、窓でもドアでもよかった。


「善とは言い難いわね。悪いことをするために努力をする輩だっているから」


 かなめは、真面目に切り返していた。こんな馬鹿げた話ですら、しっかりと受け止めるなんて不思議な女だった。


「そうだな。かなめの言う通りだ」


「少し待ってなさい」


 立ち上がったかなめは、キッチンに姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ