買い物③~第十章 プレゼント①
だけど、かなめの言う通りである。自分は欲しいものがあったら、なんでも買っていいと約束した。
彼女が性悪女とはいえ、しっかりと約束は守らなければいけなかった。
また周囲に目を向けると客たちが、じろじろと見ていた。早く会計をすませて帰った方がいいだろう。
「分かった。買おう」
「いい決断ね。それから他の食材の会計もお願いね」
「なんで?」
「まさか女に払わせるなんて馬鹿な考えを持っているの?女には金銭面でも親切にしなさい。そうしないと、新しい彼女ができないわよ」
栄二はもう返す言葉が無かった。
10
かなめのハヤシライスは、うまかった。ハヤシライスのルーに、すりおろしたりんご、醤油、ケチャップなどの調味料を混ぜて味付けしたおかげでコクが出ていたし、玉ねぎのシャキシャキとした歯ごたえもよかった。
財布の中はさびしくなり、帰りは荷物持ちをさせられるなど、踏んだり蹴ったりだったが、このハヤシライスに免じてさっきまでの暴挙は許してやることにした。
ふと、かなめと栄二の目が合った。
というより、衝突したと表現した方がよさそうである。
「何を考えているの?」
「想像に任せるよ」
「そこの本棚に入っている見てはいけない本のことでも考えてたの?」
「意味が分からん。どうして俺がそんなものを持っているんだ?」
「あら、健全な男子なら普通持っているでしょう」
「俺は持ってない」
「怪しい。特にあのブックカバーがかぶっているのなんて特に……」
「あれは参考書だ!」
やっぱり許すのはやめよう。栄二はさっきまでの考えを撤回した。
食べ終わると二人は雑談に興じた。
「かなめは、見かけによらず料理が上手だったな」
「嫌味ね。だから就職活動がうまくいかないのよ」
「本当にいつも同じことばかり言うから、まるで小姑だな。そんなのでよく働くことができるな。出版社では作家を相手にするのだろう」
作家には心の広い人物もいるが、中には気難しく変に自尊心だけ大きい人物もいる。
かなめのようなタイプは間違いなく、後者には受けが悪いはずだ。
「言っておくけど、私は仕事とプライベートでは性格を分けているわよ」
「そうなのか?」
「そうよ。それから、あなたの話だと私は編集者のようね」
「違うの?」
「生憎だけど、私は経理担当よ。出版社ときたらすぐに編集者を思いつくなんて、就職活動をしている学生として失格よ」
言われてみれば、就職活動を始めたころに、似たようなことが本に書いてあったのを栄二は思い出した。




