買い物③
とりあえず納得したので材料を買うことにした。ハヤシライスのもとはもちろん、玉ねぎにマッシュルーム、牛肉、りんごなど様々なものを買いそろえた。
「なぜ、りんごを?」
「味付けよ。ハヤシライスのルーを、そのまま使うなんてつまらないわ」
「ふーん……野菜は玉ねぎとマッシュルームだけでいいのか?」
「いいのよ。無駄に多く入れるよりましでしょう。逆に玉ねぎの美味しさが伝わるわよ」
そんなに玉ねぎは好きじゃないと口に出したかったが、無駄口を叩くと何をされるか分からなかったので黙っていた。
「そうそう。出発前になんでも欲しいものを買ってもいいと約束したわね」
にやりと不気味な笑みを浮かべたかなめが、栄二に寄ってきた。
彼女らしくない行動だったので栄二は思わず後ずさった。
「そんな約束を確かにしたな……」
「覚えていたようね。よかった。早速、果たしてもらおうかしら」
そう言ったかなめが向かったのは、酒類が陳列されているコーナーだった。
どうやら酒が欲しいようだ。栄二は溜息をついたが、約束は約束なのでしっかりと果たしてやることにした。
「これをお願いね」
かなめは目当ての品を持ってきた。
大きなワインボトルが二本だった。
「なんだこれは?」
「あきれた。ワインボトルも知らないなんて非常識ね。これじゃあ就職できないわけね」
「今は就職の話は関係ないだろう。どうしてワインボトルが二本もあるんだ?一本で十分だろう。戻せ」
「一本は味付け、もう一本は飲むのよ」
「味付けなら料理用があるから、それを買え。こんな大きなワインボトルを開ける必要はない。棚に戻せ」
断ったのには値段にもあった。一本の価格が三千円もするからである。
つまり二本で六千円だ。どうやら一番高いものをわざと選んだみたいである。
いくらなんでも六千円は痛手だった。できれば払いたくなかった。
かなめがまた、にやりと笑った。さっきよりも笑みが一層増して不気味だった。
「別に戻してもいいけど、これであることが分かったわ。あなたが約束もろくに守れない男だと」
「なんだって?」
「だってそうでしょう。出発前はなんでも買っていいと言ったのに、いざ品物を見せつけられると態度が変わるなんて最低ね」
次から次へと腹の立つことを言う女だった。




