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喫茶店での添削④

 自分が後藤に嫉妬しているなんて、どこから出した発想だろうか。証拠があって言っているのか。


 これが卒業論文だったら、しっかりと裏付けはとっているのかと反論されてしまうだろう。


 思わず二度目の苦笑をしてしまった。


「何を想像しているのか知らないけど、別に知るつもりはないわ。知っても馬鹿らしいだけだからね。私が言いたいのは後藤君が就職活動で成功していることに、あなたが妬みの心を抱いているのよ」


「面白い小説だよ」


 まさか自分が言うことになるとは思わなかったが、栄二は言わずにおれなかった。ちょっと話を聞いただけで人が妬みの心を抱いていると結論を出すなんて浅はかだ。


 そんなの作り話。


 つまり小説だ。


「小説じゃなくて事実よ」


 かなめは語気を強めた。


「だからあなたは私に、おべっかの話をしたのよ」


「なんだって?」


「あなたを見ていると聞こえてくるのよ。『俺を助けてくれ』、『俺はこんなに苦しんでいるぞ』、『俺をちゃんと見ろ』という叫びがね」


「なんだそりゃ?」


 さっきは出さなかったが、とうとう口から出た。自分が苦しんでいるなんて馬鹿げている。


 所詮しょせんかなめが大げさに言っているにすぎない。自分はかなめが言っているほど苦しんでいない。


 馬鹿げている。なんだか腹の底から笑いがこみ上げてきた。


 こらえ切れずに栄二はとうとう笑ってしまった。


 笑い声が周囲に響き渡った。


 チュー・チュー。


 チュー・チュー。


 突然のことだった。


 自分の笑い声と一緒に強烈な『ねずみ花火』の鳴き声が混ざった。


 栄二はとっさに、耳を押さえた。今まで大学内でしか聞こえないはずだったのになぜだ。


 どうしてただの喫茶店で『ねずみ花火』が聞こえるのだ。


「ほら、苦しんでいるじゃない」


 かなめがほくそ笑んだ。


 栄二にとって気に入らない笑みだった。勝利者にでもなったつもりなのだろうか。爪が食い込むほど拳を握りしめた。

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