喫茶店での添削③
彼はおべっかをうまく使って面接を勝ち進んでいるだろうか。もしかしたら、すでに最終面接を終えて合格しているかもしれなかった。
後藤のことを考えるたびに、心臓を握りつぶされるような圧迫感を覚えた。
「どうしたの?」
「君はおべっかを使えるか?」
「古い言葉ね。今の若い人は使わないわよ。そうね……私は使っているけど」
「なんで?」
納得できなかった。自分に対してなんでも歯に衣きせぬ物言いをするかなめが、なぜおべっかを使うのだろうか。
栄二の表情が疑問に満ちていたので、かなめも目を丸くしていた。
「なんでと言われても……それは馬鹿な上司や嫌な相手を適当にあしらうためよ。他に何があるの?」
「なるほど……」
栄二は微かに首を縦に振った。要するに防御策の一つなのかもしれない。この間の後藤の説明だけでは、後藤は自分の利益しか念頭に置いてなかったので首を縦に振ることができなかった。
「ちなみに私はあなたに対しては、一度もおべっかを使ったことなんてないわ」
「知ってる」
「よろしい。でも、どうして急におべっかのことを尋ねたの?」
栄二はつい先日、研究室で後藤との間に起こった一連の出来事について詳細に語った。
初めは黙って耳を傾けていたかなめだったが、おべっかの話になると、眉間にしわを寄せた。
かなめは化粧が派手であるため印象が悪いが、眉間のしわも一緒になって余計悪くなった。
怖いと思った栄二だった。
話が全て終わると一息ついて、コーヒーカップを口に付けた。中身はすでに冷めていたが、話し疲れた体には心地よいうま味だった。
栄二がカップから口を離すのと同時に、今度はかなめが話す番になった。
「後藤君はあなたに対していいことを言ったわね。私は彼の就職活動が実ることを祈るわ」
「そうだな」
「何が『そうだな』よ。そんなこと微塵も思ってないくせに。あなたがおべっかの話を始めた理由がこれで分かったわ」
「どういうことだ?」
「あなたは後藤君に嫉妬しているのよ」
苦笑してしまった。思わず「なんだそりゃ」というセリフまで出てくるところだった。




