喫茶店での添削②
「もういい」
栄二は卒業論文をひったくった。かなめは特に問題にしている様子は無かった。
「よかった。じゃあこっちも、もう一度尋ねるわ。あなたが今まで付き合った女の数は?」
どうしても話をそれに戻したいようである。聞いてなんの得になるのだろうかと首をかしげた。
「案外、渋るのね」
「君が俺の立場だったらどうなのだ?」
「私は言わないけど」
「はあ?」
かなめが予想外のことをあっさりと言ったので間の抜けた声をあげてしまった。
言った栄二はとっさに自分の口を押さえた。
「どうしたの?もしかして私があなたの立場だったら、付き合った男の数とか言うとでも思った?言うわけないじゃない。私がそんなに単純に見える?」
「人には付き合った数を尋ねるのか?君は矛盾した人間だな。というより、変人だな」
「『矛盾』はまだ許すけど、『変人』はやめてくれない。一応、私も人だから傷付くわよ。私はただ、あなたのような三国志オタクにも付き合った女はいたのかと思って純粋な気持から尋ねただけよ」
オタクで悪かったなと頬を膨らませた。
それでも、かなめは気にする素振りを見せていなかった。
どうやらこの女に常識は通用しないらしい。あきれてしまったが、同時に過去のことが頭の中をよぎった。
栄二は大学一年の時に付き合っていた女が一人だけいた。
だが今はいない。たった三か月でけんか別れしたのである。別れてからすでに三年が経過しているが、まだ忘れることができなかった。
別れた女はどうしているだろうか。自分と同じ気持なのか。
いや、それはないだろう。女は強い。無駄な過去なんてすぐに忘れるものである。おそらく自分の顔なんて頭から拭い去っているだろう。
「その様子からすると、最低でも一人はいたようね」
「想像に任せるよ」
「はいはい、分かったわ。それからもう一つ尋ねるけどいいかしら」
「今度はなんだい?」
「就職活動はしている?」
「一応……」
その話題が出た途端、栄二は後藤の顔が浮かんだ。