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ねずみ花火③

 大方、自分に対してのくだらない中傷でもしているのだろう。


 だが、今はそんなことを考えている暇はなかった。


「栄二、熱くなるなよ。少しは落ち着いて俺の話を聞け。俺も就職活動を始めたころは面接官の質問に正直に答えていた。だけどそれでは、相手の掘った落とし穴に誘導されているだけだと勘付いた」


「それでどうしたんだ?」


「俺はためしにあることを実行した。すると面接がいくつも通過するようになった。俺はお前にこれを実行することを勧めるよ」


 後藤は、にやりと笑った。


 栄二は反対に無表情だった。背中に嫌な汗が流れていた。考えてみれば後藤の就職活動の状況を栄二は尋ねたことがなかった。


 後藤も栄二より後になって就職活動を始めたが、彼は現在どのくらい進んでいるのだろうか。


 栄二は尋ねようと思ったが、唇が動かなかった。


 しかし心は尋ねろ、尋ねろと反芻はんすうしていた。


 迷っている間にも、後藤が口を開いた。


「いいか、栄二。面接官に対して嘘をつけ。あいつらの話に合わせてやる程度でいい。とにかく、あいつらを喜ばしてやるのが一番だ」


「つまり、おべっかを使えというのか?」


「うーん……古い言葉だけど、そんなところじゃないかな。俺はそれを使ってみたら、二回も最終面接まで行ったよ。もう少し頑張れば、この苦しい闘いも終わるぜ。とにかくやってみな。お前ならできるはずだ、栄二」


 聞いてられなかった。特に就職活動を「闘い」と表現するところなんて、子供のようだった。


 栄二は椅子から立ち上がると、かばんに荷物を詰めた。


 おべっかなんてふざけた話だった。自分は面接官たちのくだらない気持を満たすために存在しているのではない。


 椅子を蹴飛ばしてやりたかったが、どうにか耐えた。もう研究室から出よう。


 後ろでは、まだ『ねずみ花火』がチュー・チューと鳴いていた。


 自分に対しての中傷がひどくなっているようである。


 ここを出れば、うるさい鳴き声も聞かずにすむ。


 栄二は外につながるドアを勢いよく開けた。


 廊下にいたのは他学部の学生たちだった。栄二から見れば彼らも『ねずみ花火』だった。


 最近は一段と鳴き声がひどくなっていた。


 チュー・チュー。


 チュー・チュー。


 栄二は両耳を押さえながら、廊下を脱兎の如く駆けた。今はただ駆けるしかなかった。

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