ねずみ花火②
「どうした、栄二?」
後藤が尋ねた。
「……なんでもない」
「それならいいよ。ところで話は就職活動のことに変わるけど調子はどうだ?」
「別に……」
「答えになってないぞ。もしかして、最近就職活動をしていないのか?」
図星だった。栄二は博物館実習が終わって以来、一社も受けていなかった。
頭をぼりぼりとかきむしった後藤は、深い溜息をついた。
栄二にとって、こんな後藤は初めてだった。もしかしたら、あきれられているのか。
「栄二、もしかして諦めているのか?」
「俺が諦めているだって?」
「そういう風にしかとれないぞ。最近、俺の周りでも今年は就職を諦めて就職浪人をする奴が何人もいるからな。もしかしたらお前も……」
「俺はそんな連中とは違う。俺は途中で投げ出すような負け犬じゃない」
「まあ、落ち着け。俺は何も就職浪人するのが悪いなんて、まったく言っていない。ただお前が途中で投げ出すことに、ちょっと疑問を持っただけだ。なんと言ってもお前はこの専攻で早くから就職活動を始めていたからな」
耳が痛かった。確かに自分は専攻で早い時期に就職活動を始めていた。
ところが、未だに一社も受かっていなかった。もう七月の中旬になっているが専攻では五、六人の学生が就職活動を終えていた。
全員、就職活動を始めたのは四月からだった。
こいつらは、企業とコネでも持っているのだろうかというあり得ない想像を何度も膨らませたが、自分が異常なほど薄汚くて卑屈な人間に思えたので想像はやめた。
「栄二、適性試験には慣れたか?」
「最近は慣れてきた」
「そうか。そうなると面接だな。最高で何次面接まで通ったのだ?」
「二次面接」
答えてみたが、実際に栄二が二次面接に進んだのはたった一回だけであり、ほとんどが一次面接止まりだった。
栄二の返答を聞くと後藤はしばらくの間、下を向いて長考していたが、やがて顔を上げた。
「もしかして、面接官の言うことに対して馬鹿正直に答えてないか?」
「正直に答えて何か問題があるのか?」
「これは俺の推測だけど、お前があまりにも正直に答えすぎるせいで、面接官はお前が緊急時に対応ができない人物と見たのかもしれない」
「そんなの面接官の勝手な決めつけだ!」
栄二が机を力まかせに叩くと、周囲の『ねずみ花火』たちがチュー・チューと共鳴した。