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第五章 ねずみ花火①

     5



「だけどお前も変わっているな。よりによって『不思議ちゃん』に卒業論文の添削を頼むなんて」


 昼食のカップラーメンをすすりながら、後藤は会ったこともない有坂かなめに早速くだらないあだ名をつけていた。


 後藤の中でかなめは、すでに「不思議ちゃん」という存在らしい。


「栄二、かなめちゃんはどこに住んでいるんだ?」


「なれなれしいな。会ったこともないくせに、もう『ちゃん』を付けるのか」


「いいじゃないか。これから知り合うかもしれないし。それより住んでいる場所を教えてくれよ」


「知らない」


「嘘つくな。本当のことを言えよ」


「本当だ。俺は彼女に自分の住居を教えたが、彼女は自分の住居については俺に一切教えていない」


「尋ねる気はあるのか?」


 栄二に対しての後藤の目は真剣そのものだった。


 何を真剣になっているんだと栄二は後藤に疑問をぶつけた。他人の住居なんて知ってなんの得もないのに。


「尋ねる気はまったくないな」


「もったいないな。せっかく知り合った女の子なのに」


「そんな簡単に興味が湧くかよ」


 栄二は頭の中でかなめを思い返してみたが、やはり興味が湧かなかった。


 いくらなんでも毒舌や派手な化粧、おまけに性悪の女は自分の好みではなかった。


 かなめの化粧を考えたが、どうやったらあそこまで派手になるのだろうかと首をかしげた。外を歩いて恥ずかしくないのか。


 自分が気にしないものほど、他人は気にするというが本当かもしれない。


 下手すると自分にも当てはまるかもしれないので気を付けようと栄二は用心した。


 栄二は自分がいる研究室内を見渡した。周囲では自分や後藤の他にも学生が数人おり、雑談に興じていた。彼らとはまったく話したことがなかった。


 彼らは自分たちと気の合う相手でないと話せなかった。当然である。趣味も合い、悩みも合えば、自然と話は弾むものだった。


 栄二には、彼らの雑談が前に廊下で聞いた『ねずみ花火』の鳴き声にそっくりだった。


 チュー・チューという鳴き声が次々と耳に入ってくるが、それが栄二にとって実に耳障りだった。


 思わず耳を塞ぎたくなった。


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