最初の添削②
ひと眠りしようと栄二がベッドに横になるのと同時に、突然チャイム音が部屋中に響き渡った。
そんなに広くない部屋なので、どこにいてもチャイム音は耳に入ってくるがそんなことは今の栄二にはどうでもよかった。
人の一時の安らぎを邪魔する奴を許すわけにはいかない。どうせ宗教の勧誘だろう。ここは怒鳴って追い返してやらないと気がすまなかった。
ベッドから身を起こした栄二は、テレビドアホンでマンションのロビーにいる人物を確認した。
液晶に映った人物は、有坂かなめだった。
「来たわよ。ロビーのオートロックを解除して頂戴」
栄二は思わず舌打ちした。
なんでこんな時にくるのだと溜息をつきながらも、オートロック解除のボタンを強く押した。
間もなくドアをノックする音がしたので、確認すると間違いなく有坂かなめだった。
相変わらず黒いスーツと派手な化粧であり、肩に小さなかばんをかけていた。
「本当に気分次第で来るんだな」
「文句あるの?頼んだのは、あなたのはずよ」
「悪いけど、今日は疲れているんだけど……」
「あなたの都合に合わせるなんて言った覚えはないわよ」
「はい……」
見た目通りだが、かわいくない女だった。
絶対に彼氏なんていないはずである。
しかし言ったら怒られるだけでは、済まされないはずなので栄二は黙っていた。
「とりあえず入るわ。ついでに洗面所を使わせてくれないかしら」
「どうして?」
「外から来たのだから、手ぐらい洗うのは当然でしょう。それから新しいタオルもお願いね。あなたと同じのを使うなんて御免よ」
「またどうして?」
「そうね……一言で表すなら言葉は悪いけど、『汚い』かしら」
人をばい菌か何かように例えているが、自分は綺麗好きだと栄二は心中で吠えていた。
掃除だって週に三、四回はしている。男の一人暮らしにしては上出来な方だった。
栄二が、かなめを憎らしげに見ている間にも、彼女はさっさとヒールを脱いで上がり込んでいた。
絶対に彼氏いないだろう、と悪態を突くことを抑えながらも、栄二はかなめのためにタオルを取りに一度居間に戻った。
しばらくすると、かなめは洗面所から戻ってきた。手に付着している水滴がぽたぽたと床に落ちていた。