出会い④~第四章 最初の添削①
かばんから手帳を取り出した栄二は、自分が借りているマンションの住所をメモ欄に殴り書きして、一部を破って女に渡した。
破れたメモを受け取った女は顔をしかめた。
「マンション?大学生にしては大層なところに住んでいるのね。どうせ仕送りで生活しているのでしょう」
「おっしゃる通りです」
「まあいいわ。とりあえず気が向いたら行くわ。ところで、まだ名前を聞いてなかったわね。なんて言うの?」
「田中栄二です」
「平凡な名字だけど、名前はいいわね。私は有坂かなめ。よろしく」
「よろしくお願いします、かなめさん」
「途中から気になっていたけど、どうして敬語になっているの?」
「それはやっぱり、かなめさんが年上ですから……」
「逆に気持が悪いわ。さっきみたいに思う存分、ため口を使いなさい。じゃあね」
それだけ言うと、かなめは立ち去った。彼女の足音が段々遠ざかっていくのが、栄二にとって印象的だった。
4
博物館学芸員の実習は、まさに地獄だった。毎日会いたくもない客と会って応対しなければいけなかった。
相手が大人なら適当な会話であしらうこともできるが、これが子供だと厄介だった。
質問してきたので丁寧に答えても、しつこく機関銃みたいに質問を撃ってくる。
畜生と思いたくなるが、そんなのは序の口だった。もっと厄介なのは頭の切れる子だった。たまに突っ込んだ質問をされるので、栄二も手元のマニュアルだけでは答えることができなかった。
そんなことの繰り返しであるため、へとへとだった。毎日帰ってくると、シャワーを浴びるのも忘れてベッドに突っ伏していた。
元来、眠りが深い方でない栄二だったが、ここ数日は横になると十分もたたずに熟睡することが多かった。
今日は実習も休みなので、一日中寝ているつもりである。