Prologue
鐘の音が聞こえる。
教会の…鐘の音。
ママの手を握って、私はそこに立っている。
見上げると。
ママのお化粧は崩れて、泣き腫らした赤い目をしている。
ママの肩越しに見えるのは、涙を堪えてママに寄り添う、お姉ちゃんの姿。
そして、パパは………
目の前にある、土を掛けられた四角い箱の中。
行って来るね…と笑って、パパはおでこにキスをしてくれた。
まだ朝早くて、眠くて仕方が無くて、私は返事をしなかった。
でも…それが最後だった。
パパはいつも、朝はうんと早かったし、夜もうんと遅かった。
だから…
最近のパパの顔は、はっきり思い出せない。
すずちゃん、泣かないの?
泣いてもいいんだよ。
おじさんやおばさんは、泣きながら私の頭を撫でた。
かわいそうに…
すずちゃんはまだ小さいから、パパが死んじゃったのがわからないんだね。
そんなことないよ。
私、春から小学校に行くんだもの。
この前、すごく久しぶりのお休みに、パパがピンク色のランドセルを買ってくれたんだ。
もう…大きくなったんだから。
お姉ちゃんなんだから。
でも………
何で涙が出てこないんだろう?
小さい頃パパが読んでくれた絵本や、パパが買ってくれたゲーム。
それに、パパの急なお仕事で遊園地に行けなくなって、泣きながら観たテレビのマンガ。
出てくる人達はみんな…人が死んだら泣くものでしょ?
私…何で泣けなかったのかな?
ママはあんなに辛そうだったのに。
お姉ちゃんも…あんなに悲しそうだったのに。
ぎゅっと握り締めた黒いポシェットには…
一昨日パパに貰った、ゲームボーイが入っていた。