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第六話 流動

黒の国 漆黒の城 寝室


小さな部屋に一つだけある窓から、日の光が射し込んでいた。

ベットに寝転びながらその光を、目を閉じながら浴びている女性がいた。

腰の辺りまである髪は黒。一切の光を飲み込む、漆黒であった。

すっ、と開かれたその目もまた、漆黒であった。

女性は身じろぎもせず、その目は天井に向けられたまま、どこか上の空であった。


コンコン

「女王様?」

と、ノックとともにその女性を呼ぶ声がした。

「……」

「…女王様?」

「…はいはい、起きてるわよ」

一瞬けだるそうな表情を見せ、女性はベットの上で身を起こした。

「ツキトね?こんな朝からなんの用?」

ドアに歩み寄り、たずねながら鍵を開けた。

「おはようございます」

開いたドアの向こうで少年がお辞儀をしていた。

少年の服は、中世の騎士の服を、格調高い黒で統一したような服だった。

これが、この世界における騎士の服である。

「ご無礼をすいません。ですが、お伝えしたいことが」

「イルナたちのことかしら?」

「はい」

女性の目が、真剣味を帯びる。

「先に、一つ聞いていい?」

「はっ」

「護衛につけた子たちの水晶は大丈夫?」

「……」

少年-ツキトの目が一瞬伏せられる。

その仕草が、もはや答えだった。

「…やっぱりか」

「…女王様は…分かったのですか?」

「ん、なんとなくね。知ってる魔力が、空に流れた気がした」

「そうですか」

しばし、沈黙が流れた。

「ツキト、ほかには、何かあるの?」

「あ、はい。…すいません」

「きにしないで」

ツキトはキッ、と顔を上げ、話し始めた。


「現在、転送者の保護のために送った使者のうち、イルナ様の水晶だけが無事です」

「…あの子が生き残ってるなら、大丈夫かな」

「はい、そう思います。しかし、水晶の伝達能力を使えるものがいなくなったため、連絡はできない状況です。なので、予定通り、城下町で彼女たちを待つしかありません」

「ええ、そうね」

「しかし、気がかりなことがございまして…」

「魔物の活性化、かしら?」

「…あなたはなんでもご存知ですね」

「あの塔が出てから、明らかに大気中の魔力がおかしいわ。魔物に影響が出ないわけがない」

「はい。実際、使者が死んだ原因も、それかと考えられます。ですから、僕とソシエで、彼女たちを護衛しにいきます」

「二人で?」

「はい。僕なら、イルナ様も見つけられます」

女性が、少し考える表情をした。

「…そうね。それが一番いいわね。任せられる?」

「はっ!お任せください!」

「じゃあ、お願いね」

「はい!」


失礼します!、と大きな声でツキトが出て行く。

後に残された女性は、ため息をつきながらべットに倒れこんだ。

「やっぱり、本調子じゃないなぁ……」

小さくごちる。


「でも始まった」

ごろん、と仰向けになる。

「始まっちゃった」

誰に聞かせるともなく、言う。

「もう、逃げちゃ駄目」

いや、むしろそれは自分に言い聞かせてるようであったかもしれない。

それから女性-黒の女王は、また、静かに目を閉じた。




黒の国  城下町への街道


「…よし!いくか!」

明るい声でイルナが言った。

墓標を背に、そういって振り返るイルナを見るのはつらかった。

そんな声を出せるような心境ではないはずだ。

「ああ、そうだな」

それでも、受け止めなければならない。何よりも、誰よりも、その墓標のために。

俺には、それくらいしか手向けにできないのだろう。

胸の痛みを感じながらも、俺たちは歩き始めた。



それから1時間ほど歩いただろうか。イルナが急に立ち止まった。

「?…どうした、イル」

「おらぁ!」

ドン!!という音とともに頬を風がかすめる。それと同時に、背後で風船が割れたような音がした。

「…へ?」

恐る恐る振り返ると、黒い丸太みたいなのに青いゲル上のものがまとわりついている。


--正確に言えば、イルナの出した、魔力を固めた黒い槍に、大きなスライムが貫かれているのだ。


「…ったく。あぶねぇとこだったぜ」

イルナが槍を消すと、スライムも蒸発するように消えた。

「おい、シン。怪我はねぇか?」

「あ、ああ、ありがとう」

もしイルナが助けてくれなかったらどうなっていたのか。

…あのスライムに襲われて…

………

駄目だ、想像できない。そもそもどんな攻撃をされるかもいまいちわからん。

やわらかいだろうし。

なんか、あんまり命の危険はなさそうだな、スライム…

「取り込まれて中で溶かされるぞ」

「こわっ!」


「しっかし、やっぱり変だな」

イルナが悪態をついた。

「変?なにが?」

「スライムだよ。あいつ、普通は人なんか襲わないのに…」

「そうなのか?」

「あぁ、ってか、この辺の魔物は基本的に人は襲わない。安全なもんさ。でも、今は凶暴になってやがるな」

「なんでか、分かるのか?」

「まぁ、な。多分、『魔力の塔』のせいだな」

「それって、俺がこの世界に来たときの光か?」

「ああ、そうだ。あれ自体が規格外の魔力の塊みたいなもんでな。天文学的な魔力が放出されている。まぁ垂れ流しだから、有効活用とかはできないんだが、それが原因で魔物が活性化するんだ」

「へぇ……なんか、転送ってほんと、いろいろな影響があるんだな」

「そりゃそうさ。なんせ異世界を繋ぐんだ。並みの話じゃないよ」

「…そうだよなぁ」

そうだ。これは普通のことじゃない。いまだに現実感は持てないし、もし今目が覚めてベットの上から跳ね起きたとしても、何の不思議もない。

でも、覚めない。


「…なぁ、活性化って、凶暴になるってことか?」

「ん、まぁそれもある」

「も?」

「ああ、ほかには体力が増えたり、魔法を使うとより強力になったり、あと……」


イルナが口を止めた。

「?…どうした、イル」

「おうりやあ!!!」

ズバン!という音と共に少しだけ俺の髪の毛が風で切られた。

激しいデジャブを感じながら後ろを見ると、やっぱり何かが黒いやりに貫かれていた。


それは…獣?

「おい、ボーっとすんな」

「え?」

「囲まれてる」

「!」

急いで首を巡らすと、衝撃的な光景が見えた。


翼の生えた巨大な猪。翼が刃のようになっている鷲。鬣が針と化した獅子。体の一部が金属になっているスライム。

それらが、無数にいた。

「な、な」

「あとはだな…」

イルナが、呆然としている俺に語りかける。

「突然変異を起こして、数が異常に増えるってとこさ」


獣たちが、一斉に咆哮した。

感想、批評よろしくおねがいします

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