プロローグ
2012年 8月6日 PM8時27分 黒川 心 宅
「…」
これは一体どういうことだろうか。よく分からない。
「やあどうもはじめましてこんにちはごきげんよう」
「……」
なんか背中に黒い翼の生えた少女が俺の部屋に堂々と立っている。
なんかでっかい鎌を持って仁王立ちしている。
…これはあれか。お迎えがきたのか。
「もしかして、俺死んだ?お前もしかして天使?」
「何を失敬な!この影を切り取ったかのような服と、三日月のように鋭利な鎌、そしてこの漆黒の翼が目に入らないのか!!どうみても堕天使だろう!悪魔の類だろう!!」
少女は、確かに天使と呼ぶには黒すぎる服装をしていた。真っ黒な服で、なんと言ったらよいのか分からないが、とりあえずへそが出ていて、とてもセクシーとだけは言える服装である。口元にはニヒルな笑いを浮かべており、その子悪魔のような表情は、なるほど悪魔の類と言ったところか。
「ほれ、この尻尾を見よ!完全に悪魔のそれだろう!」
少女が後ろを向いて、お尻を見せ付けてくる。そこには少女漫画に出てくるような、黒いハート型の尻尾がついていた。
「どうだ、天使なんかにはこんな尻尾つけられないぞ?」
「いやまぁ、確かに天使ではないようだな」
「ふふん、やっと納得したか」
こんなに黒い服を着たやつが天使というのもありえない話だろう。一瞬、天使が俺をあちら側へ迎えに来たのかと思い、ヒヤヒヤしたが杞憂だったようだ。あぁ、安心した。
「となると、お前は誰なんだ?」
「さっきから言っているだろう。私は悪魔だよ」
…これはあれか。お迎えが来たのか。
「まじかよ、俺地獄行きかよ。勘弁してくれよ、そんなに悪いことしてねぇよ。18禁コーナーに、こっそり入ったぐらいしかしてねぇよ」
「その罪を乙女の前で明かすのはいかがなものかと思うがな」
くそっ、ほんの軽い気持ちで入っただけだってのに、まさかこんなことになるなんて。色欲とは、それほどまでに罪深いものだったのか。
「なぁ、地獄ってどんなところなんだ?俺は一体どうなるんだ?」
「私はしらねぇよ!っていうか別に地獄から来たわけでもない!」
「へ?」
地獄から来たわけではない?じゃあ、この少女は一体どこから来たというのか?
「ったく、さっきから勘違いしているようだけど、お前は別に死んじゃいないよ」
「え?俺死んでないの?」
「逆に心当たりでもあるのかよ…」
「え~と…」
俺は学校の授業を終え、友達と遊び、この一人暮らしのアパートに帰ってきただけだ。死ぬようなことには一切関わっていない。
「無いな。全く無いな」
「じゃあなんで死んだと思ってたんだよ…」
なるほど、俺は死んではいないようだ。いやぁ一時はどうなることかと思った。
「な~んだ、じゃあ俺大丈夫じゃん!てっきりお迎えが来たものかと思ったぜ」
「お前の勝手な早とちりだろうが…。てかまあお迎えに来たって言うのは間違っちゃいないけどな」
「へ?なんて?」
「お迎えに来たんだよ、お前を。」
同時刻 水無月 乃亜 宅
「ちょっと、なんですか、放してください!!」
「お願いします、暴れないでください!何も危害を加えたりはしませんから!」
「やだ、やめて!放して!!」
「頼みます、冷静に話を聞いてください!」
一体なんだというのか。いきなり私の部屋に男が現れて、私を連れ去ろうとしている。誰なんだこの男は?純白の服に身を包んでおり、一分の隙も無いその白さは、一見は天使を彷彿とさせたが、その行動は暴漢のそれである。今もこうして私の手を掴み、必死に何かを説明しながら、どこかへ連れ去ろうとしている。
「あなたに危害は加えません!ただ、我々には貴方が必要なのです!お願いです、協力してください!」
「協力!?必要!?何の話をしてるんですか!?」
「暴れないでください、危ないです!」
この男は私をどうするつもりなのだろうか。さっきから訳の分からないことばかり言っている。内容は、私が必要だ何だと言っているようだ。見覚えはないが、もしやこの男はストーカーなのだろうか?
「やだ、助けて、お母さん!!!」
いくら叫んでも、家にいる誰も助けにこない。一体なぜ?
「なんで!?あなたのせいなの!!?何をしたの!?もうやめてよ!なんなのよ!!」
なぜこんなことになっているのだ?今日、私は学校の授業を終え、友達と遊び、神社の神主の家でもある我が家へ帰ってきただけだというのに。
「放してよぅ!」
「くぅ……あまり強引にはしたくなかったのですが…」
男が何か呟く。
「な、何を-」
「魔力集積、転送魔方陣、展開!!」
男が叫んだ瞬間、私の部屋に何か円陣のような文様がいくつも浮かび上がった。天井、壁、家具には小さな文様がいくつも、そして床には巨大な円陣が浮かび上がっていた。
「え、な、なにこれ-」
「これから、あなたを我々の世界へお迎えします。」
「え?」
窓を閉め切っているはずの私の部屋に、風が吹き荒れる。男の服の隙間から、真っ白な羽が舞い飛んだ。
「処分は、後ほど如何様にでも。ですが、我々には、あなたがいなくては駄目なのです」
「な、なにをいって-」
瞬間、眼前には男の手のひらがあった。
「ご無礼を、お詫び申し上げます」
それが、私がこの世界で聞いた最後の言葉だった。
お読みいただきありがとうございます。
今回は「王道」を目指したものを書いていくつもりです。
続くかなぁ~…
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