「異世界」
「う・・・」
エンジン音がする中、翼は目を覚ました。
(何があったんだ・・。)
少しボーとする頭で考えた。
(そうだった。雷に打たれたんだ・・ここは?)
翼は操縦席の外を見た。そこには、青い海――ではなく青々とした森が広がっており、地平線には山脈らしき山々が連なっていた。
(!?ついさっきまで海上を飛んでいたのに!?)
少し混乱しながら、磁気羅針盤(機首が向いている方向を記す羅針盤)を見た。南西方向を向いている。
(とりあえず、基地の方向に行ってみるか・・・。)
翼は機首を北東に向け、エンジン出力を巡航速力まで下げた。
約300km地点まで来たが、基地どころか、海の姿も無かった。
(おかしい。基地はここにある筈だけど・・・)
何処を見回しても、森しかない。
(とにかく、降りれるところを探さないと・・・)
すると機首の方向に、小さな村のような集落と、降りるのには十分な広さの平原があった。
(よし。とりあえずあそこに降りよう。)
そう思い、隼を降下させていった。
同時刻、翼の見つけた村、名をスピット村と言った。そこには西洋風の家が立ち並び、教会もある。そのうちの一軒は、治安維持のために騎士が数名駐屯していた。その家の入り口に複数の子供が立っていた。みんな、震えていた。
「サラお姉ちゃん居る?」
子供の1人が家に向かって言った。すると、ドアが開き金髪の少女が出てきた。
「どうしたの?みんな怖がってるみたいだけど・・・」
金髪の少女―――サラは子供達に聞いた。
「うん。村の近くの原っぱで遊んでたら、龍の呻き声がしたんだ。時間が経って行くにつれて声が大きくなって、空を見たらドラゴンが飛んで行ったんだよ。みんな怖くなってここに来たんだ。」
「ドラゴンですって!?」
この世界では、ドラゴンやグリフォン等の幻獣が生息している。ただし、その多くは町には下りてこない。
「分かったわ。すぐやっつけて来るから、安心して。」
サラはそう言って家の中に入り、壁にかけてあった両刃の片手剣を手にした。
「そのドラゴンって何処に居るの?」
サラが子供に聞いた。
「東の原っぱに降りたのを見たよ。」
サラはそれを聞いて、東の草原に走った。その後を子供達が遅れながらもついていった。
一方、隼を草原に着陸させた翼は、操縦席の後ろを探っていた。
「確かここに・・・あった。」
翼が取り出したのは、大日本帝国正式小銃三八式歩兵銃(三十年式銃剣装着済み)だった。それと、30発ほどの弾丸も取り出した。
翼は操縦席から出て、主翼に座った。三八式歩兵銃に弾丸を装填しつつ、周りを見回した。どう見ても日本に、特に九州南部に生えているような木が無いのである。上空から見た村は、木に遮られて屋根しか見えない。
(とりあえず、あの村に行ってみるか・・・)
その時、後ろの方から足音がして振り返った。すると、何人かの子供と剣を構えている金髪の少女が居た。
(金髪・・アメリカ人か!?)
そう思って、三八式歩兵銃を構えた。
「・・あなたは何者なの?」
金髪の少女が言ってきた。アメリカ人も喋れるのかと思ったが、まずここの場所を聞くのが先決だと思った。
「一つ聞きたいんだが、ここは何処だ?少なくとも日本では無いようだけど。」
「ニホン?そんな国知らないわよ。ここは、マリーン王国のスピット村よ。それより、そのドラゴンは何?見た限りは生き物では無いよね。」
金髪の少女が、隼を指差して言った。翼は三八式小銃を下ろした。
「ドラゴン?ああ、こいつの事か。こいつは大日本帝国陸軍の1式戦闘機三型甲「隼」だ。飛行機だよ。」
すると少女は、わけが分からないという顔になった。
「ダイニホン帝国?イッシキセントウキ?ヒコウキ?何それ・・・・」
何だこいつ、飛行機も知らないのか?と思った。しかも、日本も知らないのである。考えられるとしたら、まだ未開の地に住む原住民か、日本が無い世界いわゆる異世界って奴か、アメリカ軍による錯乱か。前者は少女の服から無いとして、後者はそんな暇があるなら、日本に侵攻するはずだから無い。という事は・・・
「ここはまさか・・・・異世界なのか?」
「は?異世界って、何言ってるの?そんなのある筈無いでしょ。」
少女が否定してきたが、そのまさかである。
「そこの・・えーと、名前は?」
とりあえず、名前を聞くだけ聞こうと思い、少女に聞いた。
「相手に名前を聞く前に、自分から名乗るのが礼儀よ。」
「あ、ごめん。俺の名前は井上翼。翼って呼んでくれ。」
「サラよ。サラ・ラバウル。」
隼の主翼から下りて、サラの前に立った。
「まず、あなたの正体を教えて。何処から来たのか、何しに来たのかを。」
「ああ。まず、俺は大日本帝国陸軍神風特別攻撃隊の1人だ、って言ってもわからないよな・・・」
翼はまず、近代日本(明治元年~昭和20年)の歴史を話し、元の世界とここの世界は別の物という事を話した。
「・・簡単に言えば、俺はその異世界の戦争で、この飛行機で敵の軍艦を攻撃、沈めようとしていたんだ。それに失敗して雷雲に入ったら雷に打たれて、気付いたらここに居たんだ。」
「・・・あなた、頭大丈夫なの?まず、この金属の塊が飛ぶわけ無いでしょ。飛ばせるものなら飛ばしてみなさいよ。」
その時、翼は頭にカチンと来た。
「分かったよ。飛ばしてやるよ。よく見とけ。」
そういうと、操縦席の後ろに歩兵銃わしまって、エンジンの電源スイッチを入れた。この隼には、セルモーターが付いており、クランクを回さなくてもエンジンが付いた。
「サラ!危ないから、機体から離れろ!」
翼はそう叫んで風防を閉めた。
「本当に飛ばせるのかしら。」
サラは、前にある鉄の塊、ヒコウキというらしいが、飛べないと思っていた。さっきから風車のような物が回っているけど、全然動いてないからである。しかし、その考えはすぐに消えた。鉄の塊が動き始めたのである。そして加速して行き、後ろ側が浮き始めた。そう思っていたら、足らしき物も地面から離れ、本当に空を飛んだのである。
「嘘・・・。鉄の塊が空を飛ぶなんて・・・。」
サラは唖然とした。しかも、自分の知っている中では一番速いのである。その後、しばらくしてヒコウキが降りて来た。サラたちの前で停止したヒコウキに付いている窓が開き、翼が出てきた。
「どうだ?これで俺が異世界出身ってことが分かったろ?」
「・・・そうみたいね・・・。認めるわ。」
「じゃあ、改めて。俺は井上翼だ。」
翼が手を出した。
「私はサラ・ラバウルよ。」
サラはその手を握った。
この出会いが、未来を変えることも知らず・・・
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キャラクター紹介
サラ・ラバウル 通称 サラ
翼が見つけた村の守備(警察)の騎士。剣や銃の腕はピカ一。ただし、家事その他は一切いない。性格は、素直になれない。金髪の16歳。