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魔王城・闘争・決着

 魔王城最上階。


そこは激しい烈風と幾筋もの閃光が激しく飛び交う戦場だった。


白、黒、赤、青。

様々な属性の魔法が乱れ飛び、全てを薙ぎ払い、消し去り、焼き尽くし、押し流す。

天変地異もかくやという極大魔法の乱舞。

さらに連続で響く甲高い剣戟の音。

その音すら物理的な破壊力を持って、周囲の空間を震わせる。


ちらりと周りを見ると、既に柱という柱、玉座、床に天井、何処を見ても激しく損傷し、原形を保っているものなど何もない。


そんな中を、俺は疾風のように駆ける。

倒すべき敵、魔王に向けて。


ガンッ!!!!


「くぅっ!!」

「がぁっ!!」


また一合、聖剣と魔剣が激しくぶつかり合い、一層強い衝撃波をまき散らす。

俺はそのまま押し込もうとするが、目の前の魔剣から黒く深い、それこそ奈落の闇を押し固めたような漆黒の閃光が放たれる。


顔を逸らし、紙一重でそれを躱し、逆に魔力を解放したことで隙が出来た魔剣を上へ跳ね上げる。

魔王はそのまま両手を上げた形になり、漆黒の鎧に護られた胴がさらされる。


その機を逃さず、俺は勢いそのまま、裂帛の気合を込めて全力の袈裟切りを見舞う。


「シッッッ!!」


しかし、魔王もさるもので、勢いが乗り切る前の聖剣を瞬時に左腕の小手で受け止める。


だが甘い。


いかに魔王の装備が強靭でも聖剣の一撃はそれすらも切り裂く。

俺はさらに一歩踏み込み聖剣に力を込める。


ズガッ!!!


一拍遅れて魔王の左腕が吹き飛び、魔王の口から苦悶の声がもれる。


「ぐぅっ!! がぁっ!!」


だが、その一拍の空隙。

魔王が左手を犠牲に稼いだその一拍は、刹那の戦闘の中で致命的な間となり今度は俺へと牙をむく。


魔王は聖剣の一撃をぎりぎりで躱し体勢を整えると、大上段に振り上げた魔剣に漆黒の魔力を込める。

一方の俺は聖剣を振り切った形になり、無防備だ。


やばい、そう思う間もなく、大上段にあった魔剣が勢いよく振り下ろされる。


やられる!?


直感的に分かってしまい、思わず体が硬直する。

だが魔剣の勢いは止まらない。


「っつ!!」


痛みを覚悟した瞬間、俺の後方から光の速さで白い閃光が走り、魔剣の刃に直撃した。


その光は一瞬魔剣と拮抗するも、歴代の魔王が鍛え上げた魔剣はすぐにその光を消し飛ばす。


そして再度俺に標的を定めるが、むざむざそこに居続けるほど俺も抜けてはいない。


間合いを確保し、肩で息をしながら再度聖剣を正眼に構えなおす。

額を伝わる冷や汗を拭うこともできず、俺は魔剣を振り終わった魔王を油断なく睨みつける。


ゆっくりと剣を構えなおす魔王、けれどもその動きには一切の隙は無い。


だがその間に、俺の隣に並ぶ影がある。隣に並んだ女性から声がかかる。


「大丈夫、悠馬?」

「助かった、クレア」

「まったく、悠馬は私が居ないとダメなんだから」

「ほんとにな」


お互いに軽口を交わし合うが、既に俺も彼女も肩で息をしている。

彼女は聖女クレア・シンフォニア。俺がサクリフィアにやって来て初めて出会った少女だ。

初めてクレアと出会った時のことは今でも鮮明に思い出せる。


月明りを受けて輝くその白銀の髪と強い意志のこもったエメラルドの瞳、その美しさに思わず言葉を無くしたほどだ。

そして、クレアは右も左も分からない俺を導き、ずっとそばで支えてくれた。

正直、その存在にどれだけ救われたか分からない。

彼女が居なければ恐らく俺はここに辿り着くことさえできないまま旅を終えていただろう。


本当に大切な、かけがえのない女性。


「パーフェクトヒール」


そんなクレアから発せられた光の魔力がそっと俺の全身を包む。

その瞬間、全身の傷が治り、失っていた体力すら戻って来る。


「これが最後のヒールよ。私の魔力もほとんど残ってない。もし悠馬が限界なら一度撤退して立て直すのも・・・」


そう言われ俺はちらりと後方を見やる。

そこには俺の仲間達。


重騎士のガエリア・フォース、大魔法使いのリーゼロッテ・アスラ、シーフのクロウ・ダークがいる。いずれも、肩で息をし、満身創痍。いつ倒れてもおかしくない。


クレアも気丈に立っているが、その美しい銀髪はかすれ、体中に浅くはない傷がある。

杖を支えにやっと立っていることを隠しきれていない。


皆、長く苦しい旅を共にした、かけがえのない仲間達。

誰一人失いたくない。


俺は深く息を吸い、ゆっくりと吐く。そして、仲間達に意識を向ける。

誰もかれも満身創痍。


正直、かなり前から戦えるような状態では無いはずだ。

皆、気持ちだけで立っている。

だが、その眼から意志の光は消えていない。

寧ろ、今までで一番強く輝いているようにも見える。


それは眩いほどの不屈の意志、救いたいという願い。そして、俺を信じる強い想い。

形の持たないはずのそれらが、俺の背中を強く押してくれるのを感じる。


だから、俺は一歩を踏み出す。

強く、曲げず、確固たる意志を持った一歩を。


「大丈夫、次で決める。」


隣で、クレアが泣きそうな瞳でこちらを見つめているのが分かる。


迷い、心配、けれどそれを上回る信頼。

きっとクレアも分かっている。俺の内側が既にボロボロなのだと。魔剣の一撃は魂を削る。

パーフェクトヒールで傷や体力を治しても、俺の魔力回路や魂は大きく傷ついている。

恐らく俺が全力で聖剣を振るえるのはあと一度だ。

だけど、クレアはごしごしと目元を拭うと、泣き笑いの表情を浮かべる。


「まったく、悠馬はいつまで経っても悠馬なんだから。

なら、私が最後まで支えてあげる。私は悠馬のパートナーなんだからね」


同時にクレアの聖杖から淡い光が溢れる。

それは蛍の様に明滅して、今にも消えてしまいそうだ。

クレアの額には脂汗が浮かび、白い肌はさらに青白くなっていく。


命を削るような無理をしているのだろう。


不安定な魔力、けれどそれでもクレアはしっかりと魔法を発動させる。


「ルミナス・ブレシング・リーンフォース」


聖杖から溢れた温かな光が俺を包み込む。


発動したのは全ステータス強化魔法。


俺の全身に今まで感じたことがないほどの力が溢れかえる。

それと同時、クレアがその場に崩れ落ちる。

その顔からは完全に血の気が引いている。

だが、それでもクレアはこちらを見上げ気丈にもにっこりと笑いかけてくる。


「行って、悠馬。全てに決着をつけてきて。」


ああ、本当にクレアに出会えてよかった。

全身の隅々まで活力が湧く。


ここでやり遂げないなんて男じゃない!!


だから俺は、そんなクレアに口の端を吊り上げ答える。

安心させるように、不敵に、絶対の自信を持って。


「ああ、勝ってくる!」


長かった。

5年前、サクリフィアにやって来てここまで。

その間、スキルで俺の体の成長は止まっていたけれど、向こうではどれぐらいの時間が経過しているのだろう。

自称神様は向こうとこちらでは時間の流れが異なると言っていた。

だが、実際はどれぐらい経過しているのかなんて分からない。

皆、俺の事なんて忘れていたりしないだろうか。


最初は焦りがあった。

早く帰らなければと。

だから俺は戦って、戦って、戦って、強くなった。

そうして共に歩む仲間が出来た。救えた命があった、零れ落ちた命もあった。


たくさんの出会いと別れ、そのどれもが大切なものだと胸をはって言える。


そして終着点。

魔王領に着いた時はあと少しで使命が果たせると歓喜した。

だが、魔王領に来て魔族の実情を知った。

魔王の思いも知った。

魔王にも譲れないものがあることを知った。

人間も魔族もどちらも正しい、けれど折り合うことは出来ない。


正直投げ出したいとも思った、この世界を救うなんて俺には出来ないと。

だけど、元の世界に戻りたい。

その一念で俺は走り続けた。

これはエゴだ。

俺と魔王のエゴの押し付け合い、削り合い。どちらのエゴが貫き通せるか。


だから心を燃やす、想いに火をくべる。俺は、俺のエゴを押し通すために、負けられない。


俺は聖剣に全魔力を乗せて構える。

俺の想いに応える様に、聖剣が今までで一番の輝きを放ち周囲を照らす。

その輝きは世界さえも照らす。

溢れる幾筋もの光の柱は天を突き、物理的な力さえ持ちながら周囲を穿つ。

魔王はそんな俺を静かに見つめる。

2本あった角は片方が折れ、漆黒の鎧にはいくつもの斬撃痕。左腕は再生される気配もなく、今も青い血が流れ続けている。

当初あった、圧倒的な威圧感と王としての威厳はもはや消え失せている。


魔王も少なくないダメージを負い満身創痍だ。だが、そこに弱々しさは全くない。寧ろ、全身には覇気が溢れ、その雄々しい姿は、誇り高き戦士のそれだ。


俺と魔王は、互いに剣構え視線を絡ませる。


「まったく、嫌になる。人間というものは。本当に何度でも立ち上がる。」

「それが人間の強さだからな。失敗して、倒れ、挫けそうになっても立ち上がり、諦めず立ち向かう」

「そして我に向かってくる。一人一人は脆弱にも関わらず」

「支えてくれる仲間が居るからな」

「それは個を重視する魔族には眩しい力だ。だがな、それでも我は王として負けるわけにはいかぬ。それが魔族を生かす唯一の道なのだから」

「そうだな、分かってる。だが、だがな、俺も負けられない。たくさんの人に託されたから。支えてくれる人達がいるから。だから・・・・・・。決着をつけよう。魔王」

「ああ、そうだな勇者」


一瞬の間。


時が止まったかのような静寂。

俺と魔王は一つ深呼吸をすると声を張り上げる。


「譲れない想いがある」

「貫きたい想いがある」

「だから俺は」

「だから我は」

「「お前を倒す!!!」」


「「うおーーーーーーーーー!!!」」


お互いに裂帛の気合。聖剣が純白の魔力を、魔剣が漆黒の魔力を立ち昇らせる。

それは上空で絡み合い、白と黒の光が世界を二分する。


それはまるで二匹の龍がお互いを貪り合うようにも、支え合うようにも見える。

だが、二つの光は相いれない。

絡み合った末に、世界に轟音と閃光を響かせながら激しく弾け飛ぶ。


そしてそれが合図の様に、俺と魔王は強く床を蹴ると、一気に距離を詰め、お互いを間合いに捕らえ、剣を振り下ろす!!!


「聖波流星剣!!!!!!!!」

「カタフトロフ・ゼロォオオオオオ!!!」


ガキンッ!!!!!!!


空間がひび割れるほどの轟音と衝撃をまき散らし、お互いの剣がぶつかり合う。

世界が聖剣と魔剣の力に耐えられず軋みを上げている。


むろん、それはお互いの使い手も同様。


俺の体と魔王の体を衝突のエネルギーが刺し貫き、次々に浅くはない傷をつくっていく。

もはや鎧は意味をなさない。

聖鎧も魔装もそのエネルギーを遮ることすら出来はしない。


痛い、苦しい。


溢れ出るエネルギーが体を貫く度に、肉が抉れ、傷が焼かれていく感覚がある。


魂までも削られていくのが分かる。

今すぐ倒れてしまいたい。


体は既に限界で、脳からは絶えず休めという信号が送られてきている。

だが、そんな生理反応は意志の力でねじ伏せる。


約束したから、絶対に勝ってくるって約束したから。そして、絶対に元の世界に戻るんだ。

あの世界で俺は、もう一度柚希に会うんだ。

そして、今度は、今度こそ。


俺はさらに一歩踏み出す。魔王の顔が驚愕に染まる。

そして、その瞬間、俺は聖剣に残りの全魔力、魂、これまでの想い、その全て乗せる。


「ああーーーーーーーーーーー!!!」


聖剣を押し込む、押し込む、押し込む。ビキリと魔剣に罅が入る。


「悠馬―――、いっけーーーーーーーーーー!!!」


後ろからクレアの声が聞こえる。

その声に押される様に最後の、本当に最後の力を振り絞り、聖剣を、思い切り振り抜いた。


瞬間、聖剣から極大の閃光が吹き上がり、轟音と閃光が辺りに満ちる。


「ああーーーーーーーーーーー!!!」


魔剣が割れる。光が全てを照らす。

そうして、その閃光は魔剣と魔王、その全てを飲み込んでいったのだった。


最期に見た魔王は、淡い微笑を浮かべていた・・・・・・。

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