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漂泊の世界~悪意と希望~

目が覚めたら真っ白い空間に居た。

そこは、どこまでも広い、白く透き通った世界。荘厳とした雰囲気が漂う空間。

天国とか古代の神殿とかそう言った言葉が似合いそうな雰囲気の空間だった。


「俺どうなったんだ・・・」


覚えているのは突然の衝撃、車道に吹き飛ばされてそれから・・・

その瞬間、全身の激しい痛みとトラックが迫って来る光景が脳裏にフラッシュバックされ、怒涛の勢いで襲ってくる。


思わず、胃が痙攣し胃酸がせり上がる。


俺はその場に四つん這いになり、何度も何度もえずく。

しかし、胃の中には何もないのか吐くことすら出来ない。

目の端に涙が浮かび、襲ってくる嘔吐感にクラクラする。


すると、そんな俺をよそに、突然目の前から声がかかった。


「やあやあ、ようこそ少年」


その声はどこか懐かしい、心にそっと入ってくるような声。

ずっと近くで聞いていたような声。


その声に導かれるように俺が顔を上げると、


「まったくひどい顔をしているね。これから世界を救う勇者が。君は選ばれたんだ。もっと胸をはりなよ」


目の前には真っ白で、のっぺりとした人型の何かが居た。


「何かなんてひどいな。僕は神だよ。トラックに轢かれて死にかけていた君を助けてあげたんだから。」


神様? それにトラックに轢かれて・・・・・・

回らない頭でその言葉を数秒間咀嚼する。


そして気付く。


死にかけてた?


瞬間、俺はガバッと立ち上がり自称神様の両肩に手を置こうとする。

しかし、見えない力に両手が弾かれ、たたらを踏む。


だが、そんなことより今の俺には気になることがある。


「死にかけてたって。それじゃあ、まだ俺は死んでない、死んでないのか!? まだ俺は生きているのか!?」


「まったくあわてんぼうだな、君は。まだ、君の位階じゃ僕には触れられないよ。」


「そんなことはいいから答えてくれ!」


「はいはい、慌てない慌てない。そうだね、何から話そうか。

まず最初に君の質問に答えると、君の予想通り、まだ君の肉体は死んでいない。

君の世界と比べてこの世界の時間の流れはずっと遅いから君の体は病院に運び込まれたばかりだけど、お医者さん達の治療のかいもあって、その肉体はまだ生命活動を保っている。

すごいよね、君の世界の医療技術は。」


「――――――――っ」


その答えに思わず声にならない安堵の声を上げる。良かった。本当に良かった。

俺、まだ死んでなかったんだ。良かった。

思わず目尻に涙が浮かぶ。

しかし、続く自称神様の言葉にその喜びも打ち消される。


「でもね、今はまだ死んでいないだけで、このままでは植物状態まっしぐらだ。」

「なっ!?」


自称神様はそんな俺の狼狽をとても愉しそうに眺めている。

その顔はやはり以前にどこかで見たことがあるような気がする。


「だからね、君には世界を救ってほしいんだよ。」

「はぁ?何を―――」


だが、そんな感想も突然の提案に塗りつぶされる。この自称神様は何を言っているんだろう。


「あー、ひどいな疑ってるでしょ。でもいいよ、僕は親切だからね、ちゃんと説明ぐらいしてあげる。

まず、前提として君の肉体は重度の損傷を負ってもはや再起不能だ。

だから今、君の魂がそのまま戻っても良くなることは絶対にない。

だけどね、魂には位階っていうものがあって、それを上げることで肉体の強度も上げることが出来るんだよ。

魂と肉体は密接な関係にあるからね。

そして、強度を上げた魂が戻れば君の肉体は健康体まで回復する。

だからね、君には魂の位階を上げるために異世界で冒険をして欲しいんだ」


そう言って、自称神は両手をパンと打ち鳴らす。まるで、俺の心に楔を打つように。


「実は僕が管理している世界なんだけど、魔王と呼ばれる存在が生まれてしまって、そいつは他者の魂を吸収することで無理やり魂の位階を上げることが出来てしまう特異体質を持っている。

正直、そいつにはほとほと手を焼いていてね。

もしこのまま僕の世界の住人全ての魂を吸収してしまうと、僕自身にも干渉できるようになってしまうんだ。

そうなってしまうと、僕は殺され、魔王は他の世界、それこそ君たちの世界にも手を伸ばそうとするだろう。

だからね、君にはそうなる前に魔王を倒してほしいんだよ。

そして、君が無事、魔王を倒すことが出来たその時は、魔王の魔力が全て結晶に変わる。

その結晶は膨大な力の塊でね、その力を使えばほとんどすべての願いが叶えられる。

魂の位階を上げることも、チート能力を持ってここに戻ってくることも、もちろん君の世界に戻ることなんてわけないよ。

だから君はそれに触れ強く願えばいい。そうすれば晴れて君の望みは全て叶う。

もちろんサポート体制は万全にさせてもらうよ。

異世界転生におなじみのチートスキルは複数授けてあげるし、サービスで魔王が残す力も君にあげる。

君は魂の位階を上げて元の世界で全回復、さらにはチート能力まで使えるようになって、一石二鳥ってわけだ。


どう、やってみない?」


自称神様は少し畳みかけるようにそう語りニヤリと笑う。

その様はこちらをからかっているようにも、焦りを誤魔化そうとしているようにも見える。


だが、話を聞く限り俺に選択肢はないように感じられる。

そもそもこの自称神様の言うことを信じていいのだろうか。

都合よく騙されているのではないだろうか?


しかし、トラックに轢かれたのは事実だろうし、この空間自体は偽物なんかじゃない。

何より自分の奥底、それこそ魂と呼ばれるようなものがこの話を真実だと感じ取っている。


であるならば、この話を受けなければ植物状態が確定、最悪、魔王が元の世界を破壊する可能性がある。

一方で、上手くことを運べばチート能力をゲットして、元の世界で元気に暮らせる。


ああ、もうこんなの最初から選択肢なんて決まっているじゃないか。


俺は、そこまで考えて真剣な眼差しで自称神様の方を向く。


「お、覚悟は決まったようだね。」


「本当に魔王を倒したら、元の世界に戻って元気になれるんですよね」


「そうだね」


「魂の位階を上げる方法は他にないんですよね」


「僕が現状知る限りではね」


「異世界でも生き延びられる力をくれるんですよね」


「万全のサポートはさせてもらうよ、何せ君は僕の希望の星だからね」


そして俺は一つ深呼吸。強い決意を込めて最後の質問を口にする。

出来うる限り真剣に、目に力を込めて、自分の心を改めて形にするように、言葉を紡ぐ。


「また、柚希に会えるんですよね」


「君が約束を果たしてくれればね」


「・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・」


「分かりました」


「そうかい、それは良かった!! では早速チート能力を上げよう。

善は急げだ。これが良いかな、あ、それもいいな。君も選んでごらんよ。

お勧めはこの辺の・・・・・・」


そうして、俺は数々のチート能力を授けられ、異世界サクリフィアに旅立つのだった。


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