2-3
「そうなんだ。へえ、すげえじゃん。波奈、有名人なんだな」
私の心配をよそに、昴は涼しい顔をして、本気で私のことを「すごい」と思ってくれているような口ぶりで褒めてくれた。
嘘だ。
こんなの昴じゃないって。
高校時代の彼は……確かに私のバスケの腕を褒めてくれたこともあったけれど、基本的にはお互いにバカにし合ったり、変なことをして笑わせ、笑い合ったり、まあつまるところ、同性の友達のように一緒にバカをやる存在だったのだ。
そんな彼が、素直に私の仕事のことを褒めてくれるなんて。
他のひとがいる手前ということもあるかもしれないけれど、私たちが離れて生きてきた時間の長さを思って、目がくらんだ。
「す、昴のほうは? ここで何してるの?」
「見ての通り、農作業だけど? ここでの仕事って言ったらほとんど農業だからなー」
確かに彼は灰色のつなぎを着ていて、長靴まで履いている。農業をするひとにしか見えなかった。
「そうなんだ……昴が、農業」
「なんだよ、おかしいか?」
「うん。おかしい」
「失礼なやつだな! こう見えても俺、新人にしては上手くやってるんだぞ」
昴がだんだんと少年のような口調で私にツッコミを入れるのが分かって、あ、昴だ、と懐かしい気持ちにさせられた。
変わっているところもあるけれど、変わらないところもある。
胸の中で鈴が転がっているようにくすぐったい。
もっと話をしてみたいという気持ちもあったけれど、ほかの三人がいる手前、彼との寸劇もここまででやめておく。こほん、と咳払いをした昴は「ぜひゆっくりしていってください」と北村さんと中井さんににこやかな笑顔を向けた。
営業スマイルじゃん。
と、口には出さずに心の中でまたつっこんでおく。
でも、私だってそうだ。
仕事をしている時、ずっと当たり障りのない笑顔を浮かべるのに必死なのだから。ひとのことは言えない。
「城山くん、今日はこの雨で難しいけれど、また別の日に彼らに“星空”を案内してあげて」
「はい、もちろんです」
星空を案内……?
どういう意味だろう。
尋ねる暇もなく、昴は「じゃあな」と私に手を振ったあと、ちょっとだけ名残惜しそうにもう一度ちらりとこちらを振り返ってトラックに乗り込んだ。
そのままエンジンをふかせて去っていく車体を見つめながら、もう二度と会うことはないのかな、とぼんやり思う。
昴の連絡先なら今も私のスマホに入っている。だけど、これを機に昴に連絡をとるかと聞かれたら、たぶんとらないだろう。
私たちの関係は高校時代にとっくに幕を閉じているのだから。
彼が後輩の女子と付き合い始めたときから。
私は彼と、まるはだかで向き合うことなんかできない。




