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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第二章 星をかたるひと

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2-2

「本当に、僕もそう思います。僕は実家が農家なんですけど、お恥ずかしながらほとんど手伝いなんてしたこともなくて。帰省だって年に一度しているかどうか……。日本の一次産業について考えさせられますね」


「北村プロデューサーのご実家って農家だったんですね。知らなかった~」


「ハナさんは? こういう風景は物珍しいでしょ?」


「私は……」


 地元の町田市は二十三区に比べると田舎で緑も多い地域だったが、確かにここまで大自然が広がっているわけではなかった。


「そう、ですね。ちらほら田んぼや畑もありましたけれど、地域一帯が自然の風景になっているのは新鮮です」


「だよね。そういう生の感覚とかさ、この星見里の魅力をどんどん発信してくれたら嬉しい」


「はい、もちろんです」


 北村さんとのやりとりを、木川さんが微笑みながら見つめている。中井さんは「よおし、じゃあこの自然の風景をいかに美しく撮るか、そこでハナさんの自然な反応をいかにリアルに残すか、頑張ります!」と意気込んでいた。


「いくつか農家を回ってみましょう。そのあと、お昼ごはんは地元の食材を使ったレストランにご案内します」


 雨脚が強まるなか、木川さんの案内には熱がこもっていく。ここに外からひとが来るのが相当嬉しいんだろうな。私はあくまで仕事の一環だと割り切っているが、木川さんにとっては自らが生きる場所を多くのひとに知ってもらうチャンスなのだ。星見里の魅力を都会の人間にも伝えたいという気持ちがありありと伝わってきた。


 スマホの時計を見ると、十時三十二分。

 木川さんの宣言通り、早速一つ目の米農家を訪ねようとあぜ道を歩いていた時だ。

 前方から白い軽トラックが走ってきたので、私たち一行はさっと横道に入る。狭い道なので、車同士はおろか、車とひともすれ違うことが難しい。目の前を通り過ぎていく軽トラックをぼんやり眺めていると、運転席に座っている男性にはっと視線が吸い寄せられた。


「えっ」


 男性と一瞬目が合って、頭からつま先まで、ビイイン、と電撃が走ったかのような衝撃を覚えた。瞬間、トラックが急ブレーキで止まり、運転席の扉が開いた。


「どうしたんでしょう?」


 中井さんが首を傾げていると、運転席から傘をさして出てきたつなぎ姿の男性が、目を丸くした状態で私をじっと見つめていた。

 なんで……どうして。

 高校生の頃よりは少しだけ短い黒髪が、大きな瞳を際立たせる。すらりと背が高いのは、十年前より身長が伸びたんだろう。ぱっと見180cm……いや、185cmはありそうな身長だ。

 見た目は少し変わっているけれど、私を見つめるまっすぐなまなざしは変わらない。

 心臓が、とくりとくりとどんどん早くなっていく。


「あら、城山くんじゃないかい」


 村長である木川さんが、そのひとを——昴の名前を呼んで、にっこりと笑みを浮かべた。


「木川さん、こんにちは」


 久しぶりに聞く昴の声はどこか遠くから響いている感じがするのに、確かな懐かしさが込み上げる。目の前の彼から発せられていることは疑いようもなかった。

 昴は木川さんに挨拶をしながら、私のほうへと視線をずらす。そして、ふう、と大袈裟に息を吐いて吸い込んだのが分かった。


「やっぱり、波奈、だよな?」


 変わらない。声も、目も、息遣いも、照れた時に鼻の頭を掻くその仕草も、何もかも。

 

「昴……なんで」


 口からこぼれ落ちた言葉は、“ハナ”のものではなかった。海野波奈、私自身の疑問が、目の前の男へとぶつけられる。


「え、なになに? もしかして知り合い?」


 北村さんが私と昴を交互に見つめながら、私たちの関係を解釈しようと努める。木川さんも、中井さんも、状況が飲み込めずに「えっと」と口籠った。


「は、はい。彼は高校の同級生で……。でも、まさかこんなところで会うなんて思ってもいませんでした」


「俺のほうも。あ、すみません名乗っていませんでしたね。城山昴といいます。三年ぐらい前から星見里で暮らしています」


「それはそれは。『ベストツーリズム』のプロデューサーを務める北村(しげる)です」


「企画アシスタントの中井美里です」


『ベストツーリズム』のふたりが昴に向かって恭しく頭を下げる。その間も、私はぽかんとしたまま、目の前で起こっている出来事を信じられない気持ちで眺めていた。


「三年前から……」


 昴が星見里で暮らしている。

 昴とは高校卒業後会っていなかったから、どこで何をしているのかなんて、全然知らなかった。ふわっと風の噂では東京で建築系の仕事に就いたと聞いていた気がしたが、仕事はどうしたのだろうか。

 昴のほうも、私がインフルエンサーになっていることを知らないのか、「どうして波奈がここに? 波奈もお二人と同じ会社?」と聞いてきた。


「私は、フリーで活動しているの。主に美容とかコスメとかのインフルエンサーをしてる」


 昴に今の自分について伝えるのはいささか恥ずかしかった。曲がりなりにも初恋の相手だ。「インフルエンサーって、お前が?」なんて鼻で笑われてしまったらどうしよう……。

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