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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第六章 霧が晴れたあとで

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6-2

「二人がやってることが、星見里の未来を輝かせるために大事なことだって分かる。観光客がたくさん来てくれたら、めぐりめぐってこの店にもたくさんひとが来てくれるかもしれないじゃない? だから、こういうのは持ちつ持たれつなのよ」


 三上さんの素敵な考え方に、胸がじんわりと熱くなった。見れば、昴も瞳を何度も瞬かせて感動している様子だった。


「ありがとうございます! 恩に着ます」


「完成したら招待してよね」


「もちろんです」


 三上さんがレジ奥へと去っていくと、悩んでいた仕入れに関しても、希望が見えた気がした。


「よし、まずは地域おこし協力隊に入って、農家とのネットワークを作ろう。そこで食材を手に入れる。三上さんからの紹介も含めて、仕入れ先を増やそう」


「うん。それがいいと思う」


 運ばれてきたホットケーキを食べながら、仕入れについては解決しそうでほっとしていた。


「カフェ自体は空き家をリフォームしてつくろうと思う。空き家自体はたくさんあるから。この地域の工務店に依頼するよ」


「空き家をリフォームか。再活用するって感じでいいね」


 仕入れ先の話が終わると、するすると計画が進んでいく。最初、昴にカフェをつくりたいと言われたときは現実問題としてできるのかどうか分からなかったが、こうして具体的なことを詰めていくと活路が見えてきた気がする。

 と、ちょうどそのときお店の扉がカラランと音を立てて開き、一人の人物が入ってきた。子どもだ。黄色い帽子を被り、ランドセルを背負った女の子がタタタッと店の奥までやってくる。


「あ、おかえり(つむぎ)


 レジ奥から三上さんがひょっこり顔を覗かせる。女の子——紬ちゃんは「お母さんただいま!」と屈託ない笑顔を浮かべて返事をした。


「三上さんのお子さんですか?」


「ええ、そうよ。小学一年生です。紬、挨拶して」


「こんにちはー! 三上紬、七歳です!」


 元気のよい挨拶に、心地よさを覚えて私も昴も「こんにちは」と自然と笑って返した。


「昴お兄ちゃんだー! こっちのお姉ちゃんは昴お兄ちゃんのカノジョ?」


 なんだ、昴は知り合いだったのか。

 と驚いている場合ではない。

 小学一年生に「彼女?」と聞かれて顔が熱く火照る。この村のひとは大人だけじゃなくて、子どもも私と昴の関係を勘繰ってくるのか。ぐぬぬ、と答えに窮していると三上さんが「こらこら」と紬ちゃんをたしなめた。とはいえ、前回は三上さんも同じことを聞いてきたような……。あの時とは関係の変わっている私たちだが、ここは曖昧に笑って誤魔化しておく。


 紬ちゃんは「教えてくれないってことはそういうことだー!」とませたことを言う。いったいどこでそんなことを学んだんだろう。三上さんも「やっぱりそういうことなの?」と語尾に「♡」をつけて聞いてくるし。昴も「いやいや」と困ったように笑っていた。


「ねえねえ、そのノートなに?」


 恋人かどうかの話はもう飽きたのか、今度は紬ちゃんが私たちのテーブルの上に広げているノートを指差した。


「これは、『お店をつくる計画ノート』だよ」


 小学生にもなんとか分かるように説明するよう努める。


「お店? アイスクリーム屋さん? パン屋さん?」


「えっと、カフェって言って、主にご飯を食べるところかな」


 昴がやさしく諭すように伝える。


「それじゃあ、紬の家と一緒?」


「うん、そうだね。似てるかもしれない」


 喫茶店もカフェも子どもからしたらたいして違いがないような気がする。昴からお店の実態を聞いた紬ちゃんは、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「いいなー! ご飯屋さんだ! じゃあさ、紬、そのお店でプラネタリウムが見たい」


「プラネタリウム……?」


 突然紬ちゃんの口から出てきた「プラネタリウム」というワードに、私は昴と顔を見合わせる。どういうことだろう、と首を捻っていると、紬ちゃんが「あのね」と恥ずかしそうに言う。


「夏休みの自由工作でプラネタリウムをつくったの。でも、星見高原で見れる本物の星みたいな、もっと大きいのが見たくて……」


 もじもじと身体を捩らせながら、子どもらしい願いを口にする紬ちゃん。

 三上さんが「ちょっと紬、二人のお店に口出ししないの」と紬ちゃんの意見を制した。

 が、昴は逆に身を乗り出して、「プラネタリムか」と紬ちゃんに向かって意味深につぶやく。


「確かにありかもしれない」


「カフェにプラネタリム? 面白そうじゃん」


 私も昴も考えもしなかったアイデアだが、星見里の一番のアピールポイントといえば星空だ。その星空をカフェのコンセプトに加えるというのは、独創的で面白いなと私も唸らされた。


「え、ちょっと、そんな感じで決めちゃって大丈夫なの? 今の紬の発言は適当だから、聞き流していいのよ〜」


 三上さんが慌てて「やだぁ」と手をひらひらとさせるが、私も昴も真剣だった。


「いえ、いいと思います。実際プラネタリウムのあるカフェやBarは東京にありますし。星見里の魅力の一つを、プラネタリウムで再現するのってすごく面白いです。簡単なものならDIYでもできるって聞くし、本格的なものにしたければ工務店と相談すればいいと思う」


 昴の具体的な話を聞いた三上さんは「まあ」と目を丸くしつつも、娘さんの意見が採用されたことを嬉しく思っている様子だった。


「お店にプラネタリウムができたらさ、紬ちゃんも来てくれる?」


 昴が優しく問いかける。


「行くー! プラネタリウムのご飯屋さん、紬、楽しみ! えりこちゃんとゆうとくんも呼んでくるっ」


 友達の名前を言いながら、くるくると踊るようにして飛び跳ねる紬ちゃん。無邪気に喜んでくれる姿を見て、私も昴も心が和んだ。

 今の紬ちゃんのように、私たちのカフェに来てくれたお客さんたちが、少しでも幸せな気分に浸ってくれたら嬉しい。星見里の外から来たお客さんも、星見里の住民も、みんなが繋がれるようなカフェをつくるにはどうしたらいいか。もっと二人でよく考えようと、頷き合った。


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