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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第五章 想いはオフラインで繋がって

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【いつも応援してくださる皆様へご報告

先日よりしばらくの活動休止をお伝えしておりましたが、具体的なご報告をしていなかったので、この場を借りて現在のハナについてお話します。

私ことハナは、現在山梨県星見里郡星見里という村で生活をしております。

きっかけは、とある会社様のPR案件でこの場所を訪れたことでした。

都会にはない大自然、満天の星空に魅了され、しばらく星見里の空気に浸ってみたいと思いました。

一ヶ月を目処に活動を再開する予定ですが、今後のことはまだ未定でございます。

SNS等で事実無根の噂等をすることは差し控えていただきますよう、よろしくお願いします。

また、今後は星見里での生活について投稿もしてまいりたいと思います。

ご興味がございましたら、ぜひご覧くださいませ】



「これでよしっと」


 インスタグラムで、星見里の田園風景とともに投稿をした。普段は毎日のようにSNS投稿をしていたので、久しぶりの感覚に指が痺れそうになった。——というのは冗談で、猛スピードで文字を打つ手が止まらなかった。


 久しぶりの投稿でドキドキしていたが、ものの数分も経たないうちに、「いいね」が貯まっていく。

 根強いファンたちが、コメントを残してくれるのも見逃さなかった。



【星見里? どこだろー! でもすごく綺麗な写真】

【報告してくれてありがとう。ハナちゃんが幸せならそれでよし!】

【活動休止は寂しいけど、星見里の投稿は楽しみ】

【星見里、うちの親が前に行って星空ツアーが良かったって言ってたとこだ】

【寂しいけど、そういう時間も必要だよね】


 肯定的な意見が多く、ほっとした。

 久しぶりに、自分が「求められている」という感覚に満足しながら役場を後にする。昴は役場の前に止めた軽トラの前で空を見上げていた。


「待っててくれたんだ」


 てっきり怒って帰ってしまったかと思っていたので驚く。


「そりゃ、まあ。こんなところに女の子一人置いていけねーし」


 昴の口から“女の子”という言葉が出てきたところで、どきんと心臓が跳ねる。


「ほら、乗るぞ」


 唖然として立ち尽くしている私に、昴がそう声をかけた。


「う、うん」


 素直にありがとうって言えばいいのに。喉元まで出かかった言葉をどういうわけか飲み込んでしまう。

 ブオン、とエンジン音を立てて軽トラが発車した。役場から遠ざかるとWi-Fiが繋がらなくなり、インスタの「いいね」やコメントの通知が来なくなる。スマホをスリープ状態にした。


「東京での仕事はさ」


 不意に昴がつぶやく。運転をしているので、もちろん視線は前方へと注がれている。私は、昴の横顔を眺めながら「うん」と彼の言葉に耳を傾けた。


「常に神経をすり減らすような仕事ばかりだった。営業みたいに数字に追われるわけじゃないけど、やっぱりどんな仕事にも締切は存在するし、作業員の安全確保なんて命に関わることだからな。一瞬たりとも気を抜けないわけ」


 昴の言葉から、彼が東京で建築の仕事をしている様子を思い浮かべる。作業服は、農作業で着ているつなぎを想像した。ヘルメットを被り、書類とにらめっこしてスケジュールを考える。作業員さんの安全確保のために、工具の点検や現場の確認をして、毎日夜遅くまで働き続ける。

 どれだけ大変な仕事だろう。

 きっと体力だって相当必要なはずだ。

 でもそれは、星見里での農業だって変わらない。むしろ、体力は農作業のほうが使うのかもしれない。


「ここに引っ越してきて、農業とかツアーガイドとか畑違いの仕事ばかりで大変だけど、それでもあの頃より心が自由になった気分なんだ。毎日、自然の景色と美味しい空気を味わいながら仕事ができて、俺は幸せなんだよ。そりゃ泥まみれにはなるし毎日体力勝負だけどな。でも俺にはここでの暮らしのほうが合ってたんだ」


 淡々と語っているように聞こえるけれど、昴の心は熱く燃えている。そんな気がして、胸の中に確かな共感が芽生える。

 私も……私も、同じだ。

 この一週間、昴と一緒に泥まみれになってみて、確かにしんどいことの連続だった。でも同時に働いたあとの充足感は計り知れない。なにより昴がそばにいてくれることが、一番の励みになった。

 と同時に、私はインフルエンサーとしての仕事も夢中になってやっている。もしこの場所でインフルエンサーの活動ができたら一番なんだろうな、と考えて苦笑した。

 こんな田舎で、都会にいた頃と同じように働くことなんてできないよね。

 インフルエンサーの仕事は東京でなくちゃきっとできない。だからこそ、理想の暮らしと仕事との間にギャップが生まれて、身動きが取れなくなってしまうんだ。


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