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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第四章 つまずいたり、進んだり

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4-6

 星空ツアーは今日も満天の星のもと、最高の出来だった。


「街の灯りが遠く、静かな高原の風が頰を撫でる……ここは、星たちが一番輝くためのステージです。山梨県は、空気が乾き、光害の少ない絶好の観測地。九月は夏の暑さが和らぎ、秋の星々が南の空に顔を出し始めます」


「四つの二等星が作る『大四辺形』は、まるで空のキャンバス! 四辺形の北東角から南へ線を引くと、アンドロメダ座のアルフェラッツにたどり着きます。そこからさらに北東へいくと、ほのかな楕円の光がありますよね。それがアンドロメダ銀河です」


「私たちの銀河系と同じく、二兆個もの星を持つ巨大銀河です。肉眼でぼんやり見えますが、双眼鏡なら渦巻きの腕まで!  距離は二四〇万光年——光が届くのに二四〇万年かかるんですよ。山梨の暗い空なら、富士山の稜線を背景に、この『隣の銀河』がロマンチックに輝きます!」


 ガイドをしている昴の声が、高原に座って空を見上げる私たちの頭上に降ってくる。それはまるで星の瞬きのようで、彼の声がきらきらと輝きを増す。他の観客たちは満天の星空に見入っているけれど、私はそんな昴の解説に胸をときめかせていた。

 星見里で生きる昴が、まぶしくて仕方がない。

 こんなに輝いている彼の隣をずっと歩いていたいな——。

 思わずそんなことを考えてしまって、人知れず全身の熱が上がっていくのを感じていた。


「さあ、みなさんもぜひこれからご自宅に帰った際には、ここで学んだ星たちが見えるか確認してみてくださいね。おそらく、相当のど田舎でない限り、ほとんど見えないと思います!」


 最後はユーモアも交えたしめくくりで、ワッと笑いの渦が巻き起こった。

 解説が終わった昴はとても楽しそうな表情で目元を細めて、「面白かったね」「すごかった」「めっちゃ綺麗」「解説も上手」という観客たちの声を聞いて幸福感に浸っている様子だ。


「城山さんお疲れ様です。今日も絶好調でしたね?」


 星田さんがタタタと歩み寄ってきて、昴に声をかける。私は側から、彼女の昴を見つめる視線が熱く燃えていることに気づいて慌てて一歩後ろへと下がった。


「そうか? でもまあ、話してるとどんどん楽しくなってくのは間違いないなー。お客さんみんなが熱心に俺の話を聞いてくれるのが分かると、ゾクゾクする」


「ほお、なるほど。それは天職ですね?」


「そういう星田だって、解説してる最中は人気アイドルばりに調子に乗ってんぞ」


「はあ、失礼な! 私は星見里の人気アイドルですぅ」


 ぷう、とむくれながらもノリツッコミを入れる星田さんはとても楽しそう。確かに、星田さんはなんだか少女のようで、周りが愛でたくなるような愛嬌がある。この村のアイドルと言われても納得できてしまう。


「あのーちょっといいですか?」


 二人が話しているとろへ、観客の一人が昴に話しかけてきた。どうやら星について聞きたいことがあるらしい。昴が「ちょっとまたあとでな」と私たちに片手を挙げて、お客さんに笑顔で対応を始めた。


「城山さん、やっぱり天職だ」


 星田さんが私に向かってそう囁く。いたずらっ子のような笑みを浮かべながらも、どこか嬉しそうで胸がつんと疼いた。


「海野さんでしたよね。城山さんの……お友達でしたっけ」


「あ、はい。高校時代からの友達で。……と言っても、高校を卒業してからはほとんど連絡も取っていなかったんですけど、この間偶然再会しまして」


「ふうん。すごいですね、それ。偶然再会だなんて。でもそれでこっちにしばらく滞在って、どういう経緯です? あ、すみません、私ったら不躾すぎますよねー!」


「いえ、大丈夫です」


 星田さんの明るいノリは確かに軽く見えるけれど、でもまあいろいろと私たちの関係について勘ぐりたくなる気持ち分かるし、変に遠慮されるよりはましだった。


「私がその、仕事で疲れてイライラしちゃってるのを見て、昴がしばらくこっちで暮らしてみないかって言ってくれたんですよ」


「城山さんが? へえ、それはそれは……」


 星田さんはお客さんに説明をする昴の背中をちらりと一瞥する。


「海野さんってどんなお仕事されてるんですか? あ、いや、言いたくないなら全然言わなくて構わないんですけど」


「ちょっと恥ずかしいですけど、美容コスメのインフルエンサーです。だからSNSとかチェックできない環境で、ちょっと今もまたメンタル参ってて」


「え、インフルエンサー!? ちょっと待って、確かにどこかで見たことある顔だなって思ってたんですよー!」


 途端にハイテンションになる星田さんを見て、なんだか胸がドキドキとしてきた。


「でもそれじゃあ確かにしんどいですねえ……。私だってネット環境制限されて最初参っちゃいましたもん」


「星田さんも?」


「ええ。そりゃ、うら若き女がこんな田舎に引きこもってたら……」


 妙なところで意見が一致することを知って、星田さんに対す見方が変わってきた。

 私だけじゃなかったのだ。

 この大自然の中で、悶々とした気持ちを抱えていてるのは。


「で、ですよね!? しんどいのは私だけかと思ってました」


「いやいやそんなことないですよ。こう言っちゃなんですけど、城山さんはもともとそんなにSNSとかしないタイプでしょ。他の男性陣も、年配のひとたちも、ネットがなくても生きていけるひとたちなんですよー。だけど、私みたいな人間はやっぱりキツイです。わざわざ役場まで行かないとWi-Fiがないなんて」


「役場……? 役場にはWi-Fiがあるんですか?」


「え、ありますよ? ご存知なかったですか?」


「……はい」


 初めて聞く情報に、思考が固まる。

 昴、役場のWi-Fiのことなんて一言も言ってなかったわよね。

 知らなかったんだろうか? いや、そんなことない。だって、こっちに来る際に私は昴にLINEで連絡を入れている。そのメッセージを見て迎えに来てくれたんじゃないか。

 ということはやはり……。



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