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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第四章 つまずいたり、進んだり

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4-4

「あのさ、波奈。明日また夜に星空ツアーがあるから見に来ない?」


「え? う、うん。でも先週も見たんだけど」


「この前とはまた解説も変わるから、何回来ても楽しいと思うよ」


「そこまで言うなら……行ってみようかな」


 しばらく考え込む。星空ツアーに行くということは、昴の活躍ぶりを見られるということだ。と同時に、昴のことを狙っていそうな彼女——星田さんにも会わなくちゃいけないわけで。


「どうした? やっぱり星とか興味なかった?」


「いや、そうじゃないよ。行きます」


「おう」


 私が返事をすると、昴が嬉しそうに頬を綻ばせた。その純真無垢な表情の変化が愛しくて、胸に温かい灯火がともる。

 昴が喜んでくれるなら、星田さんに会うのだって別にどうってことないように思える。第一、別に彼女だって悪いひとではないのだろうから。

 自分の中で言い訳のようなことをして、その後彼が「俺、また外戻るから。波奈はゆっくりしてて」と言って出ていくのを眺める。

 腰が治ったらまた私も農作業を手伝いに行こうと決意したのだが、その日は一日中、痛みが完全に治ることはなく、昴に言われたとおり家の中でひたすら療養に努めるのだった。




 翌日、九月二十七日土曜日の夜。

 農家には土日などなく、今日も昴は朝から昼間にかけて農作業をしていた。私はというと、昨日よりもだいぶ腰の痛みは良くなっていたものの、念のためと昴に言われて家でゆっくりしていた。

 そういえば最近香水をつけていないな、とふと思う。

 香りがなくても、こうして自然に囲まれた生活をするだけで身も心もリフレッシュされることに気づいた。

おかげで『星見高原へのロープウェイのりば』へと着く頃にはすっかり腰は良くなっていて、丸一日半休ませてくれた昴にそっと感謝した。


「よお昴! ってまた、彼女さん一緒じゃん! もしかして二人、一緒に住んでる?」


 受付の長嶋さんが、先週と同じように昴をからかう。私は、毎度のことながら顔が火照っていくのを感じた。


「だから彼女は違いますって!」


 一応否定はするものの、一緒に暮らしているというところは合っている。昴も、あまり強く否定できないと思ったのか、顔を赤くしてぷいっと横を向いた。


「ええ、そうなの。でもすごい美人だよね。高校の同級生って言ってたよね? それ以来ずっと友達ってこと?」


「はい、まあ。そんなところです」


 昴がちらりと横目で私を見ながら答える。「そんなところ」と言われてしまい、まあそうとしか言いようがないのだけれど、ちょっぴり寂しさを覚える。

 昴にとって私ってその程度の人間だよね。

 いちいち彼の社交の言葉一つ一つを気にしていても仕方ないのに。昴の返事を聞いた長嶋さんは、「へえ」とこれまた私をじっと見つめた。


「それにしてもお姉さん、どっかで見たことある顔だな。もしかして有名人だったりする?」


「い、いえ。有名人というほどでは」


「そう? じゃあ俺の勘違いかー。申し訳ないね」


 ごめん、両手を軽く合わせてお茶目なポーズで謝る長嶋さん。なんだか彼にそんなふうに謝られると、逆に申し訳なくなる。長嶋さんにいくらからかわれても、そんなに嫌な気分にならないから不思議だ。彼の人柄がなせるわざなんだろう。


「それじゃあお二人さん、今日もごゆっくり〜」


 長嶋さんは昴が仕事をしに来たのも知っているはずなのに、にっこりと楽しそうな笑みを浮かべて私たちを送り出してくれた。ロープウェイのゴンドラの中で、昴が「長嶋さんは」と小さく笑みをこぼす。


「いつもあんな感じでからかってくるけど、良いひとなんだよ。俺がこっちに引っ越してきて右も左も分からなくなってたとき、いろいろと丁寧に教えてくれたんだ。歳も近いし、頼りになる男だよ、あのひとは」


「そうなんだ。優しそうだもんね。昴もいろんなひとに助けられてきたんだね」


「当たり前だろ。いきなりど田舎に引っ越してきてすっと生活に馴染むなんて不可能だ。東京に住んでたころはさ、マンションの隣のひとの顔すら知らなかったのに、星見里に来たら全員顔見知りみたいなもんで、不思議だよ。助け合わないと生きていけないから。鬱陶しいと思うことだってあるけれど、やっぱり俺は、ここのひとたちの温かさに触れられて良かったと思う」


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