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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第四章 つまずいたり、進んだり

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4-1

 昴の家でしばらく暮らすことになったが、着替えやメイク用品などもろもろを取りに、一度東京に戻った。

 高速バスに揺られている間、本当に自分が今から星見里で暮らすのかという実感が沸かなくて、頭がふわふわとした感覚に陥っていた。バスの中でようやく圏外ではなくなったスマホに、通知音がピコンピコンと鳴り響く。慌ててマナーモードにして、メールやLINEを確認した。


「うげっ」


 仕事関係のメールとLINEが合わせて十件ほど来ていた。あとは、先日別れたはずの男、山城裕からなぜか連絡が来ている。ブロックされていたはずなのに、わざわざ解除して何の用なの?

 仕事の連絡よりもなぜかそちらのほうが気になって彼とのトーク画面を開いた。


【波奈〜やっぱり俺、また波奈と付き合いたいなー】


「はあ!?」


 思わず頓狂な声が漏れる。通路を挟んで向かいの席に座っていたひとが、何事かと私をチラ見したので小さく肩をすくめた。


「なんで、なんで……」


 重いひとが苦手だなんて言って、LINEで私のことを軽く振ったくせに。

 なぜまた、こんなふうに何事もなかったかのように連絡してこれるのだろうか。


 窓の外の移り行く景色を眺めながら、彼に返信をするか迷った。

 たぶん、別れた直後の私ならいそいそと返事をしていただろう。別れてからまだ二十日も経っていないけれど、私の中で確実に新しい恋心が芽生えて、この男のことなどすっかり頭の中から消え去っていた。

 私はしばらく迷ってから、一応返信することにする。


【ごめん。私、軽いひと苦手なの】


 これ以上皮肉な返事があるかと、心の中でくつくつと笑っていた。

 あなたは知らないでしょうけどね。私、今から東京じゃない別の場所でしばらく暮らすの。都会で生まれ育ったあなたはそこでの生活はきっと無理だよ。

 裕を目の前にしてそう言ってやりたい。胸の中で確かに湧き上がる新しい自分の気配に、なんだか胸がむず痒かった。


 その後、仕事の連絡に対しては、急を要するものがなかったので、しばらく活動を休止する旨を順番に伝えていった。一緒に星見里を訪れたベストツーリズムさんは、星空ツアーに行けなくて残念そうだったけれど、また折を見て訪ねるからその時はよろしくと言ってくれた。その他、撮影の予定が入っていたら問題だが、一ヶ月先までは入っていなかった。だから、とりあえず一ヶ月。その期間だけ活動をお休みする。貯蓄は十分にあるし、一ヶ月だけなら復帰もそれほど難しくないだろう。その後のことは、またあとで考えよう——返信を済ませたことで胸につかえていたものがすっととれたような気がして、そのまま眠りの世界へと誘われていた。



【美容・コスメインフルエンサー、ハナが一ヶ月間の活動休止を宣言】


 翌朝、目が覚めてスマホのLINEニュースにでかでかと自分についての記事が書かれていて、一瞬にして頭が冴えた。


「うわ、ニュースになってる」


 昨晩、自分の各種SNSでしばらく活動を休止すること、再開は一ヶ月後を予定しているがまだ未定、必ず帰ってきます、というお知らせの投稿をした。


【ハナさん寂しいです〜】

【ハナさんの投稿がなくなったら娯楽がなくなる……】

【悲しいけど事情があると思うので、ゆっくり休んでください!】

【また戻ってくる日を楽しみにしてるね!】


 SNSに寄せられたファンのコメントは、純粋に私の不在を悲しんでくれるものや、ゆっくり休んでほしいと労ってくれるものが多く、たくさんのひとに支えられてるなと実感した。

 昨日のうちにキャリーケースに荷物を詰めておいたから、このあと星見里に出発する予定だ。昴はゆっくり準備してきていいと言ってくれているが、私はいちはやく彼に会いたかった。

 自宅を出る前、ガスの元栓やエアコン、電気が切れているかしっかり確認する。

 長い期間家を空けるのが初めてなので多少不安はあるものの、セキュリティ完備のマンションだし、防犯面は大丈夫なはずだ。

 かちゃり、と玄関に鍵をかけると、なんだかしみじみとした感覚に襲われる。


「また戻ってくるね」


 都会のすみかは落ち着かないことも多いけれど、それでも自宅にいる間だけは唯一少しだけ心安らぐ時間だったなと、ちょっぴり切なくなるから不思議だ。

 大きなキャリーケースをガラガラと引いて歩くと、新しい自分に生まれ変わるための旅に出る気分で、胸がドキドキと高鳴っていた。



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