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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第三章 揺れる心の距離

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3-2

 昴が用意してくれていた朝ごはんはとてもおいしかった。

 手の込んだ料理というわけではないけれど、ひとが作ってくれた朝ごはんがこんなにおいしいなんて長らく忘れていた。卵焼きはふわふわでほんのり甘い。甘党の私にとっては絶妙な味付けだった。


 朝食を食べ終えると、昴の部屋にあるつなぎを着てメイクをする。分かってはいたけれど、つなぎを着ると暑い。九月下旬なのでそこそこ涼しくなってきたものの、この姿で一日作業をするとなると汗だくになりそうだ。

 だけどまあ、なんだか職業体験みたいでちょっとだけ心躍っている自分がいた。


「お、おおー」


 準備を整えて昴の元へ戻ると、彼はつなぎ姿の私を見て何やら感心しているような素ぶりを見せた。


「なに、変なところある?」


「いや、全然。むしろその……そういう格好しても様になってるな。さすが都会の人気者」


「それ……褒め言葉?」


「もちろん褒めてるって!」

 

 ちょっと照れくさそうに顔を背けたところを見ると、どうやら本心で言ってくれたらしい。

 “さすが都会の人気者”というところは、あまり納得がいかないけれど、笑われるかと思っていたので、そうじゃなくて良かった。


「で、何を手伝えばいいの?」


「今日はこれから稲刈りしようと思って」


「稲刈り!? そんな大事なこと、私がやってもいいの?」


 思わず大きな声を出してしまい、昴がきょとんと私を見つめる。それから、「ぷっ」と吹き出して、笑った。


「そんな大事なことって、全部大事だよー。べつに稲刈りに限った話じゃないって」


「そ、そうかもしれないけど……。いや、収穫なんてさせてもらっていいのかなって」


「むしろさ、俺のほうがちょっと見せたいっていうか。こんだけ頑張って作ったんだぜーって自慢したいんだって」


 へへ、と少年のような笑みを浮かべる昴が、素直な気持ちを口にしていてなんだかこそばゆい。そっか。昴は私に格好つけたいって思ってるんだ。

 私たちがこんなやりとりをしている間にも、彼を囲っている稲穂がさわさわと風に揺れる。まるで私たちが早く収穫をしてくれるのを待っているみたい。人間の子どもを見ているような気持ちになって、胸にほっと灯火がともる。


「分かったよ。それじゃあ、お手伝いさせていただきます」


 昴がニッと唇の端を持ち上げて、「こっちにきて」と手招きをした。


「はい、これ」


「鎌?」


 どこからともなく現れた鎌をひょいと、手渡す。


「これで刈るの? ほら、あのなんとかいう機械じゃなくて?」


「コンバインのこと? まあ大規模な田んぼだとコンバインのほうが楽だけど、これぐらいの広さだったら手でいけるよ。ここらは斜面も多いし、手作業のひとのほうが多いかな。もちろん、コンバインでやるひともいるけど、設備投資費もかかるし俺は手作業派です!」


「ふうん。そんなものなんだ」


 農業の常識なんてこれっぽっちもない私は、昴の説明を聞いて「手作業なんてコスパ悪くない?」としか思わなかった。

 私だったら、手作業なんて労力のかかることをするぐらいなら、お金をかけて機械を導入するかな。だってそのほうが効率も良いし、疲れないだろうし……。

 と、さすがに今ここで文句を言うわけにもいかず、渡された鎌をどう持ったらよいか分からずにとりあえず刃の部分を下に向けているだけだった。


「俺も一緒にやるから、隣で見ながらやってねー」


 軽い調子で昴は目の前の稲をまとめるように鎌をひっかけて、もう片方の手で稲の束をぎゅっと持って鎌を動かした。そのまま鎌ですっと稲を切ると、「こんな感じ」と私に稲の束を見せてくれた。


「何回か刈って、ある程度の量になったらこんなふうに麻紐で縛ってまとめておく。あとでしばらく乾燥させて農具小屋に運ぶから、今日はひとまず刈るところまでしよう」


「う、うん」


 手順自体はそこまで複雑じゃない。とにかく稲に鎌をかけて束でぎゅっと刈るのだ。

 私は、戦闘でもするかのように目の前の稲をキッと睨む。黄金色に輝く田んぼはまるで写真にフィルターをかけているかのように美しいけれど、泥の感触の気持ち悪さに、早速イライラが募る。しかも、実際に稲に鎌をかけて刈ろうとしたところで、昴のように綺麗に切れないことに気づく。手が滑ってしまうというか、稲をぎりぎりと刻むように刃が動いてしまう。イメージではもっとスパッと切れるかと思っていたので、予想外の展開にむっとした。


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