2-14
「昴……」
「ん?」
私は、目の前で私と同じようにカレーのお皿を手にしている彼をまじまじと見つめる。
十年前から変わらない爽やかな好青年ふうの昴。だけど、よく見たら腕や胸板は筋肉で厚く盛り上がっていて、十年の時の流れを感じさせる。農作業は肉体労働だから、筋肉も自然とつくのだろう。よく知っているはずの彼が、知らない誰かに思えて、胸がドクンと鳴った。
「ごめん、なんでもない。冷めないうちにいただきます」
「お、おう」
温かみのある木の器に木のスプーンを入れて、カレーをすくう。
口に入れると、スパイシーな香りとともにまろやかな風味が広がる。酸味があり、なんだろうと疑問に思ったが、カレールーにトマトが入っているようだった。
「トマトの風味が効いてて美味しい……」
私の反応を見て昴がほっとした様子で表情を緩める。
「良かった。嫌いだったらどうしようと思ってから」
「めっちゃ好き。こんなカレーのレシピ、どこで覚えたの?」
「これは、近所のひとから教えてもらった。育てた野菜の素材の味を活かすカレーの作り方。結構うまいだろ?」
「うん。すごいね。そんなふうにひとから教わるなんて」
「田舎のネットワークはすごいぞ。というか、なんでも筒抜けすぎてもはやホラーかも」
「ふふ、ホラーか。でもそれだけ昴も星見里に溶け込んでるんだね」
「今でこそ、だな。最初は東京から来たってだけで色眼鏡で見られて大変だったんだぞ。近所のひとたちと関係を築くのにも、結局まる一年ぐらいかかっちまった」
「へえ……そうだったんだ」
なんとなく、勝手なイメージだけれど、田舎のひとたちって外からやってきたひとをすぐに受け入れてくれるというか、温かく迎えてくれるようなイメージがあった。
実際私のような客には皆さん親しげに話しかけてくれたし。
だけど、ただ訪れるのと住むのでは違うのかもしれない。
昴には昴なりの苦労があったんだ。頭では分かっていたはずなのに、実情も知らずに、ちょっと軽薄なことを言ってしまったかも……。
ちらりと昴の様子を伺うと、彼は何も気にしていない様子でカレーを掻き込んでいる。気遣いなのかもしれないけれど、その優しさがとてもありがたかった。
空っぽだった胃袋にどんどんカレーが収まって、満たされていく。
最後の一口を飲み込んだときにはもう、満腹になっていた。
「はー! ごちそうさま。美味しかったです」
ぱちん、と両手を合わせると、先に食べ終えていた昴が照れくさそうに「おう」と返答した。
「風呂、沸かしておいたから入ってきていいよ」
「えっ、悪いよ」
「いや、風呂入らせないほうが申し訳ないから。パジャマも、俺のでよければあるけど……どうする?」
「昴のパジャマ!?」
さ、さすがにそれは申し訳ない。というか、めちゃくちゃ恥ずかしい!
「や、今着てる服着るから大丈夫……」
「そうか。分かった」
それ以上この話を深掘りするわけにもいかず、なんとなくお互い恥ずかしくなってそっぽを向いた。
それから、昴の勧め通りにお風呂に入らせてもらう。もともと夜行バスで帰るかも、なんて考えていたので、メイク落としを持ってきていて正解だった。星見里にはコンビニもないから、出かける前に必要なものは鞄の中に入れておかなくちゃいけない。都会との生活の違いが、こんなに大変だとは思ってもみなかった。




