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きみと、まるはだかの恋  作者: 葉方萌生
第二章 星をかたるひと

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2-13

「お言葉に甘えることにする」


 今の今まで悩んでいたのに、急に手のひらを返したかのように決断を下した私を見たせいか、昴の肩がぴくんと跳ねる。


「本当にいいんだな?」


「なによ。誘ってきたのはそっちじゃん」


「いや、誘うっていうか。仕方ないから泊めようってだけ」


「素直じゃないやつ〜」


 肘で昴の横腹をつっつくと、「おいやめろって」とそっぽを向かれた。なんだかんだ昴は高校時代から変わってない。不器用な優しさが私の胸に溶けて、尖っていた気持ちが少しずつ解けていく。


「そうだ。これありがとう。おかげで風邪引かなくて済んだわ」


「お、おう。よかった」


 貸してもらっていた上着を脱いで、彼に返した。


「良かったらまた見にきてよ。土日なら俺、いつもここにいるから」


「うん」


 私が笑顔で頷くと、向こうのほうから星田さんがやってきて「城山さーん。そろそろ撤収しましょう〜」と声をかけてきた。


「ああ。片付けようか」


「はーい。あれ、その方もしかして城山さんの彼女さんですか?」


 星田さんは、予想だが私たちより二、三歳若い女性で、ツアーの時から元気で溌剌としたひとだなと思った。どことなく、『ベストツーリズム』の中井さんに似ているところがある。ショートカットの髪の毛は外はねのボブで、まつ毛はくるんと上を向いている。こんな田舎にもこんな若い女の子が暮らしているのかと失礼なことを思うが、昴だって彼女と対して年は変わらないのだ。別におかしなことじゃない。


「いやだから違うって!」


『喫茶きこり』の店主三上さんといい、ロープウェイの受付の長嶋さんといい、星田さんといい、なんでみんな私と昴のことを恋人だと思うのだろう。

 つい勢いでつっこんでしまったが、星田さんはきょとんとした顔で私を見ている。

 それもそうか。彼女は初めて質問しただけなのに、「いやだから」なんて強い言葉で否定されたんだから。


「えっと、あの、ごめんなさい。今日一日で同じ質問をされすぎて、参ってるというか……」


「いえー! お二人がお似合いだから、みんな彼氏彼女かな? って思うんですよ〜」


 明るい調子でフォローをしてくれる星田さんだが、どことなく嬉しそう。

 もしかしてこの子、昴のこと……。

 私は、ちらりと昴の顔を見やる。彼は、星田さんの気持ちに気づいているのかいないのか、「そんなことより、片付けしよう」と話を逸らした。


「はあい」


 星田さんが猫撫で声で返事をする。

 やっぱりそうに違いない。

 昴は昔から年下の女の子によくモテる。

 私が彼への恋心を諦めたのだって、後輩のまなかと付き合いだしたからだ。


「波奈、ちょっと待っててくれる? すぐ終わるから」


「う、うん」


 昴が声をかけてくれて、彼が星田さんと道具を片付けに行く間、私は隅のほうにちょこんと佇んでいた。二人が他愛もない話をしている声が嫌でも耳に届いて、なんだか高校時代に戻ったようだと感じてしまった。




「へえ、ここが昴の家? 広いね」


 仕事を終えた昴と一緒に彼の家へと帰ってきた。昴の家は、ロープウェイの乗り場からまっすぐに南下した先にあった。

 昔ながらの日本家屋。平屋で、外観は古い家だが内装は真新しい。


「空き家だったのをリフォームしたんだ」


「そうなんだ。東京には平屋の戸建てなんてほぼないから新鮮」


「そうだろうな。星見里では二階建てや三階建てのほうが珍しいよ。高齢の方が多いし、やっぱり階段はないほうが楽だよな。部屋はどこも空いてるから、好きなところ使って」


「うん。ありがとう」


 部屋は三つあると言ったが、どの部屋も和室だった。一つぐらい洋室にすればいいものの、「雰囲気的に和室だろ?」とからから笑いながら答えた。

 私は、なんとなくいちばん端っこの部屋を選ぶ。こういうとき、真ん中の部屋を選べる人間はそうそういないだろう。


「たいしたもん作れないから、カレーでもいい?」


「へ? 夕飯作ってくれるの?」


「そりゃね。泊まってくかって誘ったの俺だし。俺もお腹すいたし」


「それはそうだけど。昴、料理できるの?」


「当たり前だろ。ここではほとんど自給自足生活だぞ。自炊できなかったら生きていけねえよ」


「へ、へえ。すごいね。じゃあ、お言葉に甘えていただきます」


 高校時代、バスケと勉強しかできなかったはずの彼が、今は田舎で一人暮らしをして自分で作物をつくり、自炊までしているなんて。普段の私は忙しさにかまけてスーパーで出来合いのおかずを買うことが多いから、私よりもずっと充実した人間生活を送っている。


「はい、召し上がれ〜」


 ウェイトレスを気取っているのか、カレーの乗った木のお皿を、ダイニングテーブルの席についた私の前にトン、と差し出した。


「美味しそう……」


 作っているときからそうだったが、スパイシーなカレーの匂いが食欲をそそる。具材はひき肉、じゃがいも、にんじん、それからほうれん草。どの野菜も1cm角に切られているとこを見ると、キーマカレーらしい。


「私、野菜がごろごろしてるより細かく切られてるほうが好きなんだよね」


「だろ? 確か昔、波奈がそう言ってたような気がして」


「え、そんな話したことあったっけ?」


「あったよ。二人でファミレス行って俺がカレー注文したときに言ってた」


「そ、そうだったっけ……」


「ああ、間違いなく言った。自分で言っておいて忘れんなよ」


 昴とは土日の部活終わりによくファミレスに行っていた記憶がある。何度も行ったからこそ、そのうちの一回の会話の細かいところまで覚えていない。

 だけど昴は私が何気なく放った一言を、十年経った今も覚えていてくれたのか。



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